426 店員の雇用 4
「みんな、分かってるよね?」
タリアの言葉に、こくりと頷く、4人の子供達。
雇われたお店での顔合わせが終わった後、孤児院に戻ってきた5人は、他の者達から隠れて密談をしていた。
「まともな仕事よ。
孤児だからと足元を見られて給金が通常の半額、ということはない。一番キツい作業を全部押し付けられるということもない。……そしてそもそも、雇われているのは、全員がここの者達。
……それが意味することは?」
雇われた5人の内で最年長のタリアの言葉に、ティナが即座に答えた。
「私達の命に代えても、あの職場を守り抜かなきゃならない!」
「……そうよ。私達を雇ったことをあの人達に後悔させず、そしてあの店を守り抜けば、たとえ私達が死んでも、補充の店員はまたここから雇ってもらえる。その次も、その次も……。
ならば店を守るために死んだ場合、私達の『死』は……」
「「「「「無駄死にじゃない!!」」」」」
「孤児である私達には、言うことを聞かないと家族が、という脅しは効かない。もし脅されるとすれば、それは『孤児院に危害を加えるぞ』、ということになるだろうけど……」
「孤児院は、本当に危害を加えられることはない……」
「……そう。王都の孤児院は、王宮の直轄事業であり、神殿が運営を担当してる。……予算は少ないけれど、一応、建前としては、そうなってる。
その孤児院に手を出すということは、王宮、神殿、……そしてあの、女神セレスティーヌ様を敵に回す、ということよ。つまり……」
「「「「そんな勇気のあるチンピラは、いない!!」」」」
「……ということね……」
平民からの人気取りのために、僅かなお金を出して形だけの運営者になっている王宮と神殿はともかく、あの、女神セレスティーヌを敵に回そうという勇者はいない。
少し腹が立ったというだけで、国を滅ぼす女神。
……無関係の隣接国を巻き込んで……。
それはもう、女神ではなく、邪神か魔王である。
それに、王宮と神殿も、孤児院にはそれ程興味はなくとも、自分達の面子が潰された、ということを、看過するとは思えない。
孤児達も、それくらいのことは察していた。
更に、ハンターや警備隊の兵士、犯罪組織の構成員の中にも、孤児院出身者はいる。
この孤児院は何十年も前からあるし、地方の孤児院出身の者が一攫千金の夢を抱いて王都へやって来るというのは、珍しくもないことである。
また、パーティ仲間や同僚だった者の子供が孤児になっていたり、自分の子供がいつ孤児になるかも分からない。
……つまり、孤児院に手出しする者は、多くの敵を作ることになるということである。
「だから、私達は何の心配もなく、あのお店に全てを捧げ……、いえ、懸けられる!
あのお店を儲けさせて、もっと大きな店にして、大勢の店員を必要にさせる。
遠くの町に支店があるそうだけど、王都にも支店を作らせる。別業種のお店も開かせて、孤児院を出た者が全員働けるように。
……そして、孤児を雇えばお店が繁盛するという噂を町中に、国中に、いえ、世界中に広めるのよ!
私達はこれから、孤児達の伝説を作る!!」
皆が、タリアのあまりにも壮大な野望に陶然としていると、バァン、と荒々しく扉が開かれた。
「話は聞かせてもらったよ! 僕達全員、全力で手伝うよ!!
離れた場所から見張っていて、何かあればすぐに警備隊詰所に駆け込むとか、みんなで突っ込むとか、いくらでも手伝えることはあるでしょ?
子供でも、棍棒を持って5~6人で同時に襲い掛かれば、大人相手でもやっつけられるよね。
揉め事を起こすような人は、兵士にもハンターにもなれなかった、弱い連中なんだから……」
飛び込んで来たセロスの言葉に頷く、その後ろに続いた他の子供達。最後尾には、両腕を組んでうんうんと頷く、院長先生の姿もあった。
安普請の建物なのである。段々と声が大きくなったタリアの演説は、部屋の外まで丸聞こえであったらしい……。
そして、5人の給金の大半は孤児院に渡し、皆の食費や被服費に充てるということを知っている皆は、先程のタリアの話と合わせて、自分達が人並みの人生を送れるようになるかもしれないこの機会を決して逃すものかと、全力で食らい付く気、満々であった。
店を守るために手柄を挙げれば、自分も雇ってもらえるのではないかという希望を胸に……。
……こうして、5人の『裏切る確率が低く、忠実な従業員』を雇っただけのつもりであったKKRの3人は、頼りになるのだかお荷物になるのだか分からない、表には現れないオマケに付きまとわれることになったのであった……。
* *
顔合わせの翌日。
早速、今日から新米店員達のOJTの開始だ。
初日は、タリア、イルン、オルトの3人。明日は、タリア、ティナ、ウォンの3人。
最年長のタリアは全体のリーダー役で、最初は両方のチームに入るけれど、ある程度軌道に乗れば、それぞれのチームに2回に1回だけ加わる。両チーム分合わせて、他のメンバーと同じ勤務回数になるわけだ。
それ以外でも、病気とかで休む者が出たらカバーに入るし、チームの編成替えをする時の調整とかで、不定期に入ってもらうこともある。
タリアにだけ他の者より負担が多いけれど、本人は嫌がるどころか、重要な役職を任されたことに大喜びしていたから、問題ない。
……逆に、オルトが『纏め役は男の役目じゃないのかよ……』と、不満そうな顔をしていた。
これが全員が初対面であれば、軋轢を生む原因になったりしたかもしれないけれど、全員が孤児院での仲間同士だし、こんなこともあろうかと、女の子の人数を多くしておいたし、年齢もタリアを最年長にしたのだ。
ちゃんと考えているんだよ、そういうトコも。
伊達に孤児達との付き合いが長いわけじゃないんだ、うむ!
それに、そもそも、私達がいるからね。
別に、子供達にお店を丸投げしようってわけじゃない。
駄菓子屋の店番じゃないんだ、そんなの、無理に決まってる。
あの子達は、あくまでも私達の補助と、一時的な不在時のリリーフ要員だ。
通常は、恭ちゃんや、お手伝い要員の私とレイコのどちらかがいる。
……ま、孤児院の子供達への救済策、という意味もあるんだけどね。
少ないとは言え、5人分の給金だ。
それで食材を買えば、それなりの量にはなる。
ここ、衣類や道具類とかは高いけれど、野菜や魔物の肉とかは、割と安いのだ。
だから、少なくとも、子供達がひもじい思いをすることはなくなるはずだ。
……孤児院の子供達は、ね……。
河原や廃墟に住んでいる連中のことは、『女神の眼』の連中の活動に期待するか……。
* *
「明日は、ちょっと御用聞きに行ってくるね」
「……どこに、何の注文を取りに行くのよ……」
私の突然の宣言に対するレイコの質問は、尤もだ。
普通、誰でもそう聞くよねぇ。恭ちゃんは、喋る前にレイコに先を越されただけで……。
なので、その質問に答える、私。
「王様のところへ、治癒の加護の御用はございませんか、って……。
依頼、全然来ないんだもの……」
「……」
「「…………」」
「「「………………」」」
「え? 何? どうしてみんな、黙り込むの?」
お知らせです!
拙作、『ポーション頼みで生き延びます!』書籍11巻、4月2日に刊行です!!(^^)/
続々と王都に集結する、『奴ら』。
そして、カオル達『KKR』の活動が始まる……。
よろしくお願いいたします!(^^)/




