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42 増殖

「え……」


 自分の胸に突き立てられた短剣に、呆然とするカオル。

 ……何しろ、全然痛くないのだから。


「え……」

 同じく、苦しむ事無くぽかんとしているカオルに、呆然とする襲撃者。


「この、この、この、この……」

 襲撃者は何度も短剣を振りかざしカオルに突き立て続けるが、何の効果も無い。

 周りでは大声で悲鳴があがり、男達が手近な得物を持って駆け寄って来る。


 そのうち、我に返ったカオルが、どんっ、と襲撃者を突き飛ばし、その身体が離れた瞬間。


 どぉん!


 晴天の空から落ちた雷に打たれ、襲撃者の身体は地面に崩れ落ちた。




 調査の結果、襲撃した中年の男は、予想通りルエダが聖国であった時に司教を務めていた男であり、寄付金を着服し、信徒の少女に『女神の至福を与える』と称して手を出し、やりたい放題だったそうである。

 それが、一転して詐欺師呼ばわり、溜め込んだ財産の没収と、転落の人生。

 女神様をネタにして儲けていたのに、そのお友達に手出ししてどうなるというのか。決定的に女神様を敵に回すこととなり、昔の栄華を取り戻すことなど到底不可能だということに、気付かないのであろうか。

 だが、全てを失い錯乱し逆上した男に、何を言っても無駄であろう。


 カオルは、襲撃してきた男のことは、あまり気にしなかった。あれだけの事をしたのだ、大勢死んだし、大勢が破滅した。恨みを買って当然である。

 カオルが気にしたのは、別のことであった。


(どうして短剣が刺さらなかったの?)

 それに、男を打った雷は、カオルの仕業ではなかった。爆発物によるものではなく、晴天の空から落ちた、本物の雷。


 今までにカオルは、料理の最中にうっかり指を切ったり、転んで擦り剥いたりと、小さな怪我はしていた。決して、『鋼鉄の身体』とかを持っているわけではない。


(では、これは、死の危険があった場合に作動する自動防衛機構? あのセレスが常時見張っているとは思えないから…。そして、あの雷は、自動反撃システム?)


 カオルは考えた。

 何か見落としている。

 心に引っ掛かったのに見逃した、何かを……。



 そうだ。数年前の、セレス降臨の時。

 セレスが戻る直前の会話。

 私はあの時、セレスに何て言った?


『あんまり待ち過ぎてると、私、事故か事件か寿命で死んじゃうよ』


 そして、それに対して、セレスは何て答えた?


『そんなわけ無いじゃないの! また、面白い冗談を…』


 もし、セレスが、本当に私の言葉を冗談だと思っていたとしたら?

 冗談。それはつまり、実際にはあり得ない事、ということ。


 ……あり得ない。私が『事故か事件か寿命で死んじゃう』ということが、『あり得ない事』だと?

 それは、この自動システムによって護られて、私が事故や事件で死んだりしないという事?

 いや、待て。じゃあ、『寿命』はどうなる?


 いやいや、待て待て、セレスは確かにぽややんだけど、別に馬鹿というわけじゃない。そして、『あのお方』関連では結構アグレッシヴだ。

 そしてセレスの時間感覚は人間とは大きく異なる。私がこの世界に来てからセレス降臨まで何ヶ月もあったのに、セレスの中ではほんの一瞬、ちょっと計算をしていた間、という感じだった。数千年前の話も、ちょっと前、という話し方だったし。

 そんなセレスが、せっかくの『あのお方』と接触できる理由である私が高々数十年で死んでしまうことを許容出来るのか? なんとか引き延ばそうとするのではないのか? 何か理由をつけて。


 思い出せ!

 私は、この世界に来る前に、新しい身体についてセレスに何て注文した?

 確か……。


『身体は元の身体の遺伝子のままで年齢は15歳に』


 ……身体は元の身体の遺伝子のままで、年齢は15歳に。


 年齢は15歳に。年齢は15歳に。年齢は15歳に。


 15歳の身体。

 ……その後成長する、とは言っていない。


 セレスうぅぅぅ~~~!!!


 やられた………。

 絶対、分かっていて、わざとだ。

 余計な事をしなくても、その気になれば若返りのポーションとかを作れたのに。それも勿論想定しての、薬品チートの選択だったのだから。

 それに気付かなかった? それとも、私が自然に歳を取っての死を迎えることを選択するかもと思った?


 ……ともかく、もう成長しそうにないという事は分かった。

 身長も、そして胸も。

 成長のポーションを創る、という方法はあるが、薬で無理に成長するのも、何かシークレットシューズかパッド入りブラ付けてるみたいであまり気が進まない。どうせ身長は1センチしか変わらないし。

 子供に見られるのは元々日本人の低身長と童顔のせいだから、1センチくらい成長しても変わらないよ、多分。





「旅に出ます。捜さないで下さい」


「「「「えええええ~~っ!!」」」」


 カオルからの突然の通告に、大騒ぎのバルモア王国一同。


「な、なぜ……」

 震える声で尋ねる、フランセット。


「ちょっと、諸国漫遊と、婿捜しに」

「え、婿、って、カオルちゃん、神様だからずっと子供のままなんじゃ?」

「え?」

「ええ?」

「「えええええ?」」



 驚愕の事実が判明。

 私は、セレスのように、女神様だからずっとその姿のままだと思われていたらしい。いや、どうやらその通りらしいということは、先日判明したが。

 しかし、まさか永久に独身を貫くと思われていたとは……。

 急にモテなくなったはずである。

 確かに、永遠の12歳、とかだと結婚はできないかも知れない。

 いや、しかし、私は精神年齢は27歳、肉体年齢15歳、この世界では共に立派な成人であり、結婚出来る年齢だ!


 え、たとえ1000歳であろうと一万歳であろうと、幼女の姿のままの女神様と結婚したら犯罪者?

 いや、その、そうじゃなくて、この身体の肉体年齢は本当に15歳で……。



 くそ、やっぱり、旅に出るしかない!

 旅に出て、婚活中の普通の娘の振りをする。

 今度は最初から、『小柄なだけで、普通に15歳の成人女性です。子供の時にろくに食べさせて貰えなくて……』とか言って、結婚対象であることをアピールする!

 増殖するのだ、私は!!





 そして数日後。


 『女神の眼』の子供達とも別れを済ませた。

 もう、みんな立派に生きて行ける。

 家はあげると言ったけど、『いつまでもこの家を守り、お帰りをお待ちしています』って……。

 万一に備えて自重無しポーションを数本渡し、絶対秘密にするよう念を押した。更に、連絡用にと、中にポーションが入った『音声共振水晶セット』の片方を渡しておいた。もう片方はアイテムボックスへ。

 緊急時には急いで戻って来る。燃料タンクに『ガソリンのような薬品』がはいったランドクルーザー型容器とか、初代ファミコンのコントロールパッドで操縦できるヘリコプター型容器とかを使って。回転翼のピッチ角とかジャイロ効果とかトルク作用とか、細かいことはセレスの種族の超技術に任せた! どうせ、人間が単細胞生物だった頃より遥か昔に解決しているんだろうからね、それくらいのことは。

 しかし、私の薬品チートって、私の力で創造してるのかな、セレスの超技術で知識のサポートを受けて。それとも、私が発注した形でどこかで造られて、転送されてくる? う~ん、何か、気になってきた…。


 あ、バルモア王国にはポーションの供給が途絶えるけど、元々そういうのは在るべき姿じゃなかったからね。医学や薬学の進歩を妨げるどころか、その方面の人材を根絶やしにしかねない。いくらそういう人材を保護するように忠告しても、飲めば何でも治る薬を目の前にして、お金のかかる人材育成や研究を続けられるものではない。また、本人達の意欲も衰えるだろう。

 だから、今現在の病人、怪我人を回復させたら、あとは自力で頑張って貰おう。

 そして旅の途中では、必要に応じて適宜『女神の癒し』として正体を隠して細々と救済しよう。

 元々、バルモア王国だけに多大な恩恵を与えるのではなく、各国に広く浅く与えるべきだったのだ。奇跡の力は、真面目に生きている者のうち、たまたま運の良かった極一部の者が享受できるもの。皆が当然の如く受けられるものであってはならない。



 旅には、エドとふたりで行く。いや、ひとりと一頭、かな。

 荷物は例によって全部アイテムボックスの中なので、手ぶらでエドの世話を頼んでいる牧場へ。

 エドももう10歳。人間だと35~45歳くらいかな。中年には長旅は厳しいかなぁ。今度は、あの西方への旅とは比較にならない長旅だからなぁ。

 でも、ま、ポーションがあるから大丈夫か。

 嫁さん置いて行くの、嫌がるかなぁ……。

 時々戻って来るつもりではあるんだけどな。やっぱり、『女神の眼』の子供達のことも気になるし。


 と考えながら牧場に着くと、エド、その嫁さん、そして3歳になる娘さんが3頭並んで待っていた。

『あら、カオルさん。いつも主人がお世話になっております』

『カオルおねーちゃん、角砂糖持ってる?』

『こら、はしたないぞ』


 ……お前ら、本当にウマか?

 何か、進化して違う生物になってるんじゃないか? いや、本当に……。


 そして、なぜ荷物を背負ってそこに立っている、エミールとベル!


「「お供致します」」


 あ~、はいはい。

 何を言っても絶対ついて行く、って眼だよね、それ。


 あきらめて、エド一家3頭にそれぞれ乗って、さぁ出発、と思ったら。


「お供致します」


 なんで馬に荷物積んで待ってるかな、フランセット……。

 それと、その隣りで肩を竦めるジェスチャーをしている王族!

 まぁ、分からなくはないよ、婚約者がいつ帰るとも知れない旅に出るとなれば、ついて行こうと思うのは。

 でも、王族だろ、あんた……。


 女神の友人、王兄、鬼神、井戸の守護者……。

 どんなパーティだよ!!

 ……エミールにも何か二つ名を考えてあげようかな。なんか不憫だし。


 と、待て!

 もしかして、これから2組のラブラブカップルと一緒に旅をするのか、私?

 待て、ちょっと待てえぇぇ~~!!

 これは、私が、我が長瀬一族が増殖するための旅だ!

 お前達を増殖させるための旅ではない! 決して!!




 カオル達が旅立ったあと、バルモア王国では何人もの男が転げ回っていた。


「え? 婿捜しの旅に出た? カオルちゃんって、結婚する気あったの?」


「嘘ぉ! それなら、諦めずに声掛けてたよぉ!」


「そんなぁぁ!!」


「初めて会った時15歳で、今19歳? とっくに成人してたァ? あれで、成長し終わった最終形態ぃ?」


 もう、全てが遅かった。







「おかあさん!」

「おばあちゃん!」

「曾御祖母様……」


 大勢の子供や孫、曾孫達に囲まれて、段々と意識が薄れて行った。

 ああ、幸せな人生だったなぁ……。



 でも、ひとつだけ。

 ひとつだけ、許せないことがあった。





「こら、神様!」

「は、はい! 分かってます、分かってますから……」


 白い場所。

 そして二十歳台半ばの金髪碧眼、女性理想の「いい男」を具現化すればこんな感じになるのかな、というような、ローマ時代の貴族が着ていそうな白い衣服を身に纏った男。神様である。


「今、あの子は?」

「はい、大陸中を、仲間の方々と共に旅しておられるそうです。楽しそうに」

「礼子は?」

「御一緒です」

「ちっ、出遅れたか……。向こうの神様に根回しは?」

「終わってます。あぁ、また迷惑掛けちゃうなぁ……」

「よし、じゃ、さっさと送って」

「分かりました。良い人生を…」

「世話になったわね。じゃあね!」


 九十歳台で、歳の割には闊達としていたとは言え、かなりくたびれた老人の魂。しかし、肉体を離れて回収された意識体と魂は、肉体の影響を離れて活発さを取り戻し、若者であった時のような元気さであった。

 その意識体と魂は、神である青年の手によって異世界へと送られた。



 その意識体と魂を送り出したあと、神は独りごちた。

「でも、本当に驚きましたよねぇ、70年前、普通の人間が独力で私に個人的なメッセージを届けることに成功された時には……。人間の可能性というものを再認識させられましたよ。いい勉強になりました、ええ」


 地球を管理する神は、ふたりの人間の女性に怒鳴りつけられて、ある約束をさせられた時のことを、懐かしく思い出していた。


(香と一緒に楽しく過ごすはずだった私達の人生の補償をして戴きます!)


「ああ、また、セレスちゃんに迷惑をかけちゃうなぁ。何か、埋め合わせをしなくちゃ……」







「ようこそ、我が世界、ヴェルニーへ!!」


 満面の笑顔で迎えられ、少し引く、恭子。

「あの、話は……」

「はい、勿論、伺っております! 以前に来られた、久遠礼子さんと同じ、ですよね!」

 テンション高いなぁ、と思う恭子。

「あの、何か、凄く嬉しそうですね……」

 つい、聞いてしまった。

 それに対して、よくぞ聞いてくれました、と言わんばかりの女神様。


「はい、あなた方の世界を管理しておられる、あの方から、また迷惑をかける、お詫びに何か埋め合わせをしたいから何でも言ってくれ、との連絡が先程。くふ、くふふ……」

 恭子は全てを理解した。伊達に歳は取ってない。


「礼子は何を貰いました?」

「はい、『全ての魔法が使える。魔力無限大』ですね」


 さすが礼子。自重しない女。


「では、私は、『何でも創造できる力』を」

「え、何でも、ですか。さすがに、それはちょっと……」

 渋る女神様。

 恭子は、仕方なく要求を変える。

「では、私が知っている船を創造する力、ではどうですか。勿論、私は船の専門家じゃないので、詳細はその船について書かれた書物のとおりに造られる、ということで。それと、その船の使い方についての知識も自動的に取得、ということでお願いします。素人じゃ動かせないですから……」

「船限定ですか。丁度、カオルちゃん達もそろそろ海を渡りたい頃かも…。丁度いいタイミングかも知れませんね。では、それで行きましょう」

 随分控えめになった希望能力に、女神様はほっとして了承してくれた。

 心の中でにやりと嗤う恭子。


「しかし、大したものですねぇ。あの方から聞きましたよ、人間の身でありながらあなた方が成したことを。一体、どうしてそこまでやれたのですか? あなた方お二人は、カオルちゃんにとって、どういう方なんですか?」


 女神様の問いに、恭子はにっこりと微笑んで答えた。

「西園恭子と久遠礼子。長瀬香の親友よ!」




 若返った肉体を得て地上に降りた恭子は、その広い草原に人の姿が無いことを確認すると、『恭子が知っている、ある船』を創造した。

 人格付与コンピュータによる自動制御。

 強力な、数々の光学兵器。

 搭載されているロボット兵。


 これで世界を回り、香達を捜す。礼子が大規模魔法でも使えばセンサーで探知できるだろうし、こっちが見つけられなくても、恭子が来たことに礼子が気付けば、探査魔法なり何なりでこっちを見つけるか、何かの手段で連絡をしてくるだろう。

 時間はある。地球の神様から聞いた香の身体の仕様と同じにして貰ったのだから。


 恭子は船に乗り込み艦長席に座ると、人格付与コンピュータに命じた。


「発進!」

 これにて完結です。

 感想、ブックマーク、お気に入り登録、そして何より、読んで戴いてありがとうございました。

 2作品毎日更新は少し大変で、他のことが殆ど何も出来ませんでした。次からは、1作品ずつ、数日置き更新で臨みたいと思います。でないと、続かない……。(^^ゞ

 また、次作でもよろしくお願い致します。

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― 新着の感想 ―
かなり昔、最初の方だけ読んでた作品で「目つきが悪い」少女ってのが、印象が強かった作品でした。 今読み返してみると、専門的になりすぎない設定、短過ぎず長過ぎない1話あたりの文字数、重過ぎない話の流れ…良…
船って言ったから、やりそうだなぁって思ったけど、即やりやがったよ。いいけど。
[一言] なるほど! アニメ(第1期?)は、ここまでだったのですね! これから、この後の話を楽しみに読んで行きたいと思います。 物語の創作ありがとうございます!
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