414 牝馬達
「戻ったよ~!」
『リトルシルバー』に到着。
搭載艇を一度見せた……というか、乗せたことがあるとはいえ、あまり気軽に輸送艇を子供達に見せるのはアレなので、光学迷彩を掛けたままで少し離れたところに降り、私とファルセットはハングとバッドに乗ってやって来た。
「「「「「お帰りなさ~い!!」」」」」
丁度、庭で2頭の牝馬の身体を藁で擦ってやっていたらしい子供達が、駆け寄ってきた。
『『お帰りなさいませ、ハング様、バッド様!!』』
そして、牝馬達は、私とファルセットはどうでもいいらしく、ハングとバッドに熱い視線を……。
一応、私が女神様だって知っているはずなんだよね、この2頭。
それでも、こういう扱いなのか……。
いや、まあ、いいんだけどね。私は本物の女神様じゃないし、別に馬に崇められたいわけじゃないから……。
白馬の王子様(白馬に乗っているわけではなく、自分自身が白馬である王子様)の方が、女神なんかよりずっと重要なのだろう、牝馬達にとっては……。
その気持ちは、分からなくもない。
ま、頑張れ……。
「よ~し、今夜は私が料理を作るよ! 食後のデザート付き!」
「「「「「やったあぁ〜〜!!」」」」」
うんうん、子供達は可愛いねぇ……。心が安まるよ……。
ファルセットですら、優しい笑顔になっているものなぁ……。
戦う時の顔と笑顔のギャップが大きいのは、フランセットと同じだよねぇ。
狂戦士モードになった時の、あの笑みと眼付きも、似てるよなぁ……。
「……私の顔に、何か?」
「あ、いや、何でもないよ!」
イカンイカン、コイツ、こういうのには敏感なんだよなぁ……。
あ、そうだ!
「これで、馬が4頭になったわけだけど……、みんなは5人だよね?
乗馬訓練とか、万一の時の脱出手段とかのために、もう1頭増やして、ひとり1頭態勢にした方がいいかな?
それとも、頭数が増えると世話が大変になるから、4頭のままの方がいい?」
盗賊から回収したのは、5頭だ。
なので、残り3頭は、まだアイテムボックスの中にいる。
最初は、5頭全部を馬屋に売るつもりだったのだけど……。
「「「「「欲しい!!」」」」」
満場一致か。
じゃあ、馬達にも聞いてみるか……。
『ひひ~ん! ぶるる、ぶひひん……』
そして、馬達に状況を説明したところ……。
『『追加するなら、女性にしてくれ!』』
そんな希望を口にする、ハングとバッド。
そして……。
『『増員の必要はありません!!』』
猛反対の、牝馬2頭。
……現在、牡牝が2対2のところに、ライバルが参入することを嫌がっているのだろう。
『乗せる人間は、皆、幼い子供達ばかりですわ! ふたり乗せても、武器防具を完全装備の成人を乗せることに較べれば、空荷同然ですわよ!
それに、一番幼い子はひとりで乗せるのではなく、年長者とふたり乗りにした方が安全で、速度も出せますわ!』
……何か、必死だな、牝馬コンビ……。
でも、婚活に頑張るその姿勢は、理解できる。
それも、相手がシルバー種の中でも王子様相当の名馬となれば……。
しかし、子供達はもう1頭の追加を希望しているからなぁ。
うむむむむ……。
『あなた達と一緒に盗賊のところにいた、残りの3頭だけど……。牡牝の別は、どうなの?』
そう聞いてみると……。
『牡2頭、牝1頭ですわ』
『出すの、牡でも嫌?』
『私達とハング様、バッド様との間に割り込んで邪魔をされそうなので、嫌ですわ!』
『私もですわ!!』
やはり、いくらシルバー種でも、王子様相当、しかも女神の乗用馬である神馬は、別格か。
こりゃ、出した牡馬が可哀想な状況になるよね。
牝馬だと、血みどろの争いが起こりそうだ。
こりゃ、子供達の情操教育上、かなり悪影響がありそうだぞ。
……う~む……。
「ごめん、もう1頭出すのは中止!
ミーネは、アラルを乗せてふたり乗りでの逃走訓練、他の3人はミーネとアラルが乗った馬を護りながら走る訓練を。
ふたりが乗る馬は固定せず、どの馬でもふたり乗りできるよう、ローテーションで訓練してね」
「「「「「……は~い……」」」」」
少しガッカリしたみたいだけど、子供5人にシルバー種の馬が4頭なんて、貴族でもそうそう与えられるものじゃないぞ。
シルバー種の馬は、貴重で高価らしいからね。
その中でも、この4頭……アイテムボックスの中の3頭も……は、名馬揃いみたいだし。
『やっぱり、今の4頭でお願いすることにしたよ。
……で、他の3頭は仲の良いお友達かな? 一緒に暮らしたい?』
そう、牝馬コンビに聞いてみると……。
『どこかに売ってあげてくださいまし!』
『私達は、ここから皆の幸せを願っていますわ……』
『お……、おう……』
ちゃっかりしてやがるなぁ……。
あ。ファルセットの愛馬を、ここに連れてきたら……。
う~む……。
あっちは、王都の馬屋に預けたままでいいか。
ちゃんと郊外の牧場で運動させてくれているし、ファルセットもしょっちゅう会いに行っているしなぁ。
ここに置くと、ファルセットが会える機会が激減するから、互いの為にはならないか。
ハングとバッドに飲ませたのと同じ、延命ポーションを与えて、『女神の守護騎士』……名前だけの女神の守護騎士ではなく、本当の守護騎士……の乗馬になったことを教えてあげれば、牧場で他の馬達にブイブイ言わせて、楽しくやってくれるだろう。
「よし、じゃあ、料理を始めるよ~!
みんな、野菜の皮剥き、手伝ってよね!」
「「「「「は〜〜い!!」」」」」
男の子であるアラルも、料理は覚えた方がいいから、女性陣と一緒だ。
アラルの奴、嬉しそうだな。この年齢から、ハーレムかよ……。
うんうん、人生、こうでなくっちゃねえ。
悪党を懲らしめるのもいいけれど、それはすなわち、その前に被害者がいるということだし、悪党にも家族がいるかもしれないからね。
世の中、平和が一番だ。
そして、子供達の笑顔と、もふもふがいれば……、あ!
「ごめん、ファルセット、ちょっと王都へ行ってくる!
すぐ戻る!」
「……え? あの、カオル様、何を……」
輸送艇に、王都へ送り届けるためにわんにゃん部隊と鳥さん部隊を乗せているの、忘れてた!
みんなをぞろぞろ連れて降りるのはマズいから、ちょっと待ってて、ってそのまま待機してもらっているのだ。
とりあえず、みんなを王都に送り届けて、そのままお店には顔を出さずにUターンだ。
「じゃあ、ちょっと行ってくるね。夕食の準備には間に合うように戻ってくるからね!」
ファルセットと子供達を後にして、輸送艇を待機させているところへ、ダッシュ!
……もふもふ要員として、わんにゃん部隊から2~3匹を連れてきてもいいかな。
子供達にも、もふもふの良さを教えてあげないとねえ……。




