412 撤 収 1
「じゃあ、そろそろ帰ろうか。
お店も心配だし、『リトルシルバー』にもそろそろ顔を出さなきゃなんないしね」
トレーダー商店はレイコと恭ちゃんのふたりで回しているから、『リトルシルバー』に顔を出す余裕はないだろう。
だから、そろそろ子供達の爆弾マークのゲージが溜まって、爆発寸前のような気がするよ……。
「はい!」
よし、ファルセットも一応は満足してくれたようだ。
あ、例の襲われた商店については、『昔、お世話になった者の娘です』と名乗って怪我人のお見舞いに行き、こっそりと治癒ポーションを創った。……怪我人の胃の中にね。
勿論、即効性ではなく、ゆっくりとだけど後遺症が残ることなく完治する、ってやつだ。
その後、匿名で被害に遭った店の店主に金貨を送っておいた。あの、隠し金庫にあったやつの一部ね。
怪我人の治療費と休業補償、そして店の損害の補填に使ってくれと書いておいたから、後は店の人に任せよう。
……店主が全部ネコババしないようにと、そのことは店員達にも知らせてある。
「じゃあ、明日の朝、宿を引き払って撤収!」
* *
翌朝、馬車でこの国の王都を後にした。
……そして、人気のない場所で、馬車本体をアイテムボックスへ。
ハングとバッド、ついてきてくれたわんにゃん部隊と鳥さん達は、そのまま乗船。
アイテムボックスから出した、輸送艇に……。
いや、のんびりと帰るのは時間が惜しいし、動物さんチームにとっては大変だろうからね。
ハングとバッドの出番?
往路と王都内で馬車を牽けたから、一応は満足してるみたいだよ。
何せ、『女神の馬車』だからねぇ。
シルバー種の始祖であるエドと同じ立場になれたわけだから、とんでもなく光栄なことなんだろう、多分……。
今までも、馬車を牽く度、嬉しそうだったからねぇ。
騎乗した時は、もっと喜ぶのだけど、馬車の方が楽ちんだからなぁ。
たまには、乗馬訓練でもしてあげようかな……。
『女神の眼』の連中?
いや、さすがにあの連中を輸送艇に乗せるわけには……。
なので、自力で帰ってもらうことにした。
連中とは王都で別れたから、輸送艇は見られていない。
……と思う。
一応、尾行されていないか確認はした。
私には尾行に気付ける能力はないけれど、そこは、ファルセットの野生の勘を信じよう。
まあ、見られたとしても、連中になら特に問題はない。
女神が、配下の動物達と共に、天の浮舟に乗って移動した。
ただ、それだけのことだ。別に、不思議でも何でもない。
連中も、驚きもしないだろう、多分。
それに、私達は真っ直ぐ恭ちゃんのお店に向かうわけじゃない。
……そう、あそこの始末をしなきゃならないんだよね。
あそこ、……『片足島』の連中の……。
それと、アイテムボックスの中に入れたままになっている、暗殺者達も……。
「全員、乗船完了しました!」
「……よし、発進!!」
* *
「到ちゃ~く!」
あっという間に、島に到着した。
連中を降ろした場所の上空に来たのだけど、誰もいない。
……まぁ、当たり前か。
もっと暮らしやすい場所に移動してるよね、水場があって、雨風が凌げるところへ……。
よし、外部スピーカーのスイッチを、ポチッとな……。
『あ~、あ~……。「片足島」の諸君、私は帰ってきた!』
アナベル・ガトー? いやいや、あれの元ネタ、マッカーサーさんだよ!
本当の元ネタを知らない人は、パロディやオマージュの方を元ネタだと思っちゃうけどね。
しばらく待っていたら、あちこちから人が出てきた。みんな、自作の松葉杖を使って……。
住みやすい場所に移動はしていても、私が戻ってくるのは最初のこの場所だと思っていただろうから、そう遠くへ行くはずはないか……。
モニターの映像をズームしてみると、みんな、思ったより元気そうで、顔色も良い。
生きて行くためにちゃんと働いていて、食べ物にも困っていないのかな。
チンピラやゴロツキをやっていた時より、ずっと健康的な生活をしているとか?
……みんな、片足だけど……。
連中の真上に移動して、少し高度を下げる。
絶対に手が届かないくらいの高さは保つよ、勿論。
石や槍を投げられたら届くだろうけど、そんなのが当たったくらいでどうこうなるわけじゃないから、気にしない。多分、傷も付かないだろう。
真下もモニター画面で見えるし、超高性能の集音マイクで向こうが喋っていることも聞こえるから、意思疎通には問題ない。
恭ちゃんから貰った装備があるから、連中の前に姿を現しても、特に問題はない。
でも、それでもむさいおっさん連中に襲い掛かられるのは嫌だし、余計な罪を重ねて処罰が更に厳しくなるのも気の毒だしねぇ……。
『みんなの、これからのことなんだけど……、あ、ちょっと待ってね!』
イカンイカン、忘れるところだったよ。
えい!
どさどさどさ~……。
アイテムボックスから、収納していた暗殺者達を輸送艇の外へ放出。地面まで5~6メートルの高度から……。
捕らえて、縛り上げた状態で入れていたから、受け身なんか取れるわけがない。
まあ、もし縛られていなかったとしても、自分の状況が分からず、何もできずにそのまま落下しただろうけどね。
本人にとっては、暗殺に失敗して捕らえられ、縛られた瞬間に空中に、ってことだから、そりゃ、思考も状況の認識も追いつかないよね。落下時間、1秒チョイしかないんだから……。
まぁ、骨折くらいはするかもしれないけれど、死ぬことはないだろう。
……もし死んだとしても、特に問題はないしね。
だって、私を暗殺しようとして襲い掛かってきた連中だよ?
その場で殺されたり、雇い主の名前を吐かせるために死ぬまで拷問されても文句は言えないよね。
それに較べれば、数メートル落下するくらい……。
あ、落ちた連中、みんな動いてるな。首を折った、とかいう者はいなかったか……。
よし、先住者に説明しなきゃね。
『今、落としたのは、私達を暗殺しようとして襲い掛かり、返り討ちに遭った連中だよ。
私達の事は何も知らないみたいだから、後で色々と教えてあげてね。
……で、みんなのことだけど……』
片足組のみんなは、ドキドキしながら私の言葉を待っているみたいだ。
では、御期待に応えて……。
『全員、母国に運んで官憲に引き渡します。
あとは、申し渡された刑に服し、罪の償いをするように。
幸い、あの襲撃で死者は出ていないから、おそらく死罪にはならないと思います。
一応、私からも口添えはしてあげますから……』
うん、元々、この連中は襲った商隊の者達を殺すつもりはなかったみたいだからね。
それに、本職の盗賊ではなく、掻き集められたチンピラやゴロツキの類いであって、悪い奴らではあるけれど、人を殺したりはしていないみたいなんだよね。
悪徳商人や悪い貴族よりは少しマシだったりする。
……但し、さっき落とした暗殺者連中は違うけどね。
「待ってください!」
え? 何か、連中の内のひとりが、大声で叫んでいるぞ?
超高性能の集音マイクだから、普通に喋っても十分聞こえるのだけど、向こうにはそんなことは分からないだろうから、仕方ないか……。
でも、まあ、見逃してくれ、とかいう頼みは聞けないよ、さすがに……。
「女神様、どうか俺達を、このままこの島で暮らさせてください!!」
「「「「「「お願ぇでごぜえますだ~!!」」」」」」
……え?
えええええええっ?




