表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
406/458

406 攻 撃 2

「よし、わんにゃん部隊、先制攻撃開始! 一番槍だよ!」

『わん!』

『にゃん!』


 ここは、例の商店の横の、狭い路地。

 こんな深夜には誰も通り掛からないだろうけど、さすがに店の真ん前の大通りに突っ立っているのは、精神的に不安なので……。


 そして、戦闘には不向きな鳥達には周辺警戒を任せ、その他は直接攻撃を……。

 その先鋒として、わんにゃん部隊に先制攻撃を任せたのだ。

 相手に悟られることなく、静かに忍び込む、犬と猫達に……。


 静かに、静かに相手の寝所に忍び込み、……そしてその首筋を、ぺろりと舐める……。


     *     *


「うひゃあああああ〜〜!!」


「どうなさいましたッ!!」

 深夜に突然飛び起きて、大声で悲鳴を上げた商会主。

 そして大慌てで隣室から飛び込んで来た、警護の者達であるが……。


「くっ、首! 首筋を、べっ、べろんと、何かが……」

「「「はァ?」」」

 手燭……手持ち燭台……で周りを照らしてみても、誰もいない。


(……寝惚けたのか?)

(深夜に、人騒がせな……)

 警護の者達はそう考えて苦笑するが、不寝番は退屈であり、いい眠気払いと気分転換になったため、別に怒ったり迷惑そうな顔をしたりはしていない。


 この商会主は、下っ端従業員への給金は渋いが、上級従業員、そして警護の者達の給金はしっかりと払う。そこは、決して節約してはいけない部分である、として……。

 そのため、警護の者達にとっては良き雇い主であり、嫌われているわけではなかった。


「……大丈夫です、怪しい者はおりません。今、他の部屋や中庭も確認しておりますが、異状はないようです」

 室内は問題ないと分かった瞬間、他の者達は周囲の確認に走っている。

 ……彼らは、プロなのだから……。


「あ……、ああ……。

 ……ゆ、夢か……? いや、それにしては、生々しい感触が……」

 何かに舐められたような、あまりにも生々しい、あの感触。

 しかし、何者かが侵入した形跡はない。

 そもそも、害意がある者がここまで侵入したのであれば、とっくに心臓をひと突きされているはずである。


 危険を冒して忍び込み、首筋を舐めただけで帰る。

 ……そんな物好きが、いるはずがない。

 狙った相手が、絶世の美女とかであればともかく……。


「すまんな、騒がせた……。

 今夜の警護の者達には、小金貨1枚ずつの騒がせ賃を出そう。当番明けに、それで一杯やってくれ」

「おお、ありがたい! すみませんなぁ。

 これなら、毎晩悪夢で飛び起きていただきたいですな!」

「馬鹿もん、そんなに小金貨を毟られて堪るか!」

「「「「わはははは!」」」」

 この商会主、自分にとって重要な人物に対しては、かなり人心掌握に努めているようである。


 そして、その様子を部屋の隅、置物の影からそっと窺っている、一頭の犬。

 真っ暗な中で手燭のロウソクで照らされた程度では、物陰に隠れた犬は見つからなかった。

 探す相手は人間であるため、明らかに人間が隠れるには狭すぎる場所は、照らすことも慎重に探すこともされなかったのである。

 ……当たり前のことであった……。




 そして、それから数十分後。


 べろり……。

「うひゃあああああ〜〜!!」


「……またですかい……」

 呆れたような顔で、再びやって来た警護の者達。

 ちゃんと給金を貰っているのである、また悪夢で飛び起きたのだろうな、とは思っても、きちんと確認に来る。……まともな警護者達のようであった。


「一応、事情は聞いちゃいますけど、あんまり気にしなくても……」

 手燭を前方に差し出して、そう言った男の言葉が途切れ、半笑いの顔が強張った。

 手燭のロウソクに照らされた、寝床の中で身体を起こした雇い主の姿。

 ……そして、その後ろにちょこんと座り、舌をだらりと伸ばした、一頭の犬。


「え……、い、犬、いぬ……」

「犬が居ぬのは、分かっておるわ。すまんな、何度も……」

「……あ、い、いや、犬が、いぬが……」

「だから、犬が居ぬのは分かっておると言っておろうが!」

「ちっ、違……、う、後ろ、後ろ……」

 ここで、ようやく警護の者の様子がおかしいと気付いた商会主が、指差された自分の後方へと振り返り……。


 にたり……、と笑ったかのような表情を浮かべ、舌を垂らした犬。


「うわああああぁ〜〜っっ!!」


 ばっ、と犬に飛び掛かられ、手燭を取り落とした警護の者。

 そして室内は暗闇に支配された。

 夜目の利かない人間が、獰猛な犬と共に、真っ暗な狭い室内に……。


「うわ! うわああああぁ!!」

「「「ぎゃああああぁ〜〜!!」」」


     *     *


「やってるやってる……」

 店舗の奥の方、住み込みの従業員や使用人、商会主一家、そして警備の者達がいるあたりから次々と上がる悲鳴。

 一時的に灯る明かりは、すぐに消える。

 ……わんにゃん部隊に、明かりを狙って消すように指示しといたからね。


 元の(タネ)火も全部消せば、真っ暗な中では火打ち石も見つけられないだろうし、多数の獣が跳梁跋扈ちょうりょうばっこする暗闇の中で、落ち着いて火をおこせる者は、そういないだろう。

 ……もしいたとしても、わんにゃん部隊が邪魔をするしね。


 わんにゃん部隊には、寝ている者がいたら、最初は気付かれないようにべろんと舐めてから隠れ、次は再び舐めた後で姿を見せて、それから暗闇の中で遊んであげる(・・・・・・)ように言ってある。

 ……その中に、商会主や番頭、大番頭とかが含まれているといいな……。

 少しは楽しんで(ビビって)くれるかな?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
わんにゃん部隊…名前可愛すぎないか?…
BOW WOW where? 犬(いぬ)の語源は、往ぬ(帰ってくる)もの 「ケン」漢文の語源は、鳴き声 日本にも「わんこ」の別名がある
これが本物の「犬将軍」だというのか?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ