375 次の段階 3
「ミッション・コンプリート!」
「……本当に? 何かミスってない? 余計な面倒事を背負い込んでこなかった?」
王宮から戻り、トレーダー商店でみんなに結果報告をしたところ、レイコからそんな突っ込みが。
レイコの奴、私を信用していないな?
「完璧の母!
詳細情報は国王と宰相様のみに限定。
その他の者に対しては、私はそのふたりのお気に入りで目を掛けてもらっている、実家が太くて篤志家の、何となく他国の王族か高位貴族出のような気がしないでもない自由巫女、ってことになってる。
そしてふたりには、私は『女神の加護が与えられし愛し子』ってことに……。
どの女神かは言っていないから、一部の宗派では女神ということになっている私が『自分自身を愛しく思っている』ということで、別に嘘じゃないからね。
セレスから貰った能力は加護と言えるから、それも嘘じゃないし……」
うん、そういうことだ。嘘は言っていない。
「あと、私が勝手に、私の基準で選んだ相手に加護の力を使うことと、自分達もその対象になることを望むならこちらの頼みを聞け、私達を守れ、という意味のことを、オブラートに包まずに言っといた」
ファルセットには、『オブラート』が何かは分からないだろうけどね。
「計画通りね」
「良くできました!」
よし、恭ちゃんの『良くできました』が出たぞ!
「守るというのは、頼む必要がなかったのでは?」
ファルセットから、物言いが付いた。
あ〜、王様に余計なことをされちゃあ、自分の出番がなくなるもんねぇ。
そして、敵対者は全て、自分ひとりで叩き潰せるという自信があっての言葉なのだろう。
でも、慢心は禁物だ。
いくらファルセットが強くても、ひとりじゃ、どうしても護衛に穴ができるだろう。
また、同時に射掛けられた数十本、数百本の弓矢全てから私達全員を護ることができるのか?
いや、時間的余裕があれば、そりゃ私達で何とかできる。
でも、事前の兆候もなく突然矢が降りそそいだら、瞬時には対応できずにハリネズミ、ってことはあり得るだろう。
そして、心臓や頭部に刺さって即死、とか……。
雑踏ですれ違いざまに胸をひと突き、とかいうのは、防ぎようがない。
まあ、私達は『生かして捕らえて、利用してナンボ』だから、問答無用でいきなり暗殺、という確率はそう高くはないとは思うけれど、人間、何を考えるか分からないからねぇ。
他者が持っている、自分には手に入れられないオモチャを壊そうとする子供もいる。
自分が受けられない恩恵を敵対者達が受けられるとなれば、全てをぶち壊そうと考える者がいても不思議じゃないだろう。
それでも、普通はセレスを怒らせるのが怖くて馬鹿な行動は自粛するものなんだけど、世の中、後先考えない馬鹿がいるからねぇ……。
高齢だとか重病だとかで後のない、無敵の人とかもいるだろうし。
それに、私はトラブルが多発するのも、その度に毎回誰かの手首が落ちるのも、あんまり好きじゃないからなぁ……。
そのうち『手首』から『手』の字が抜けた部分も落ちそうで、怖いし……。
ま、ファルセットは仲間だけど、あくまでも私達の護衛、女神の守護騎士であって、私達、『運命(をねじ曲げること)を司る3女神』のメンバーじゃないから、意見具申はできるけれど、作戦方針決定に関する投票権はないんだよねぇ。
いや、決してファルセットを軽んじていたり仲間外れにしていたりするわけじゃないんだけど、私達の能力や立ち位置を全て知っているわけじゃないファルセットには、目先の戦闘に関することならばともかく、長期的な視野での作戦方針には口を挟めないからねぇ。
とにかく、そういうわけでファルセットの物言いは却下され、私達3人は王都とその周辺で商人、ハンター、野良巫女としての仕事、及びたまに御使い様の役割をこなしつつ、港町で孤児達と共に『リトルシルバー』での生活を続けるのであった……。
* *
「……巫女……、様……?」
「え?」
王都の市場で買い物をした後、お店に戻ろうとしていたら、何か声を掛けられた。
今日は、たまたまひとりで歩いていた。
……いや、私が出掛けようとするとファルセットが護衛のためについて来ようとするけれど、そんなに毎回くっついて来られるのも気詰まりだからと言って、ひとりで出掛けることが多いんだよ。
そりゃ、ふたりで買い物とかも楽しいけれど、ひとりでのんびりと回って、他の者が退屈していないかと気を遣う必要なく、自分の好きなようにやりたい時もあるよ。
それに、私達3人の中で、奇襲に一番弱いのは、恭ちゃんだ。
いくら私達は『殺さず、捕らえて利用してナンボ』だからいきなりヘッドショットという確率は低いとはいっても、絶対ないとは言いきれないし、奇襲で捕らえられるかも知れない。
そういう場合、一番脆弱性が高いのは、恭ちゃんなんだよね。
私はポーションで、レイコは魔法で、割と無理が利く。
でも、恭ちゃんは自分の身ひとつでは何の能力もない。母艦製の装備品と、私が渡したポーションを除けば、普通の……、いや、普通以下の、女の子に過ぎない。
なので、いきなり捕らえられてぐるぐる巻きにされたり、武装解除されたりすれば、完全に無力化される。
そのため、私達がバラバラで行動する時には、恭ちゃんを重点的に護るようにお願いしてあるんだよね、ファルセットには……。
でも、ファルセット、それが少し不満みたいなんだよ。
私達3人は対等の立場である仲良し女神トリオだと説明してあるけれど、同じ女神であっても、ファルセットにとっては『真祖様』の大恩人にして女神の守護騎士達が忠誠を捧げるべき対象なのは私ただひとり、ということらしく、レイコや恭ちゃんとは明らかに別扱いなんだよねぇ。
まぁ、ファルセットには説明していないからなぁ。
ファルセットに恭ちゃんを特に気に掛けるようお願いしている理由の半分は、確かに仲間内で一番脆弱である恭ちゃんを護るためなんだけど、後の半分は、恭ちゃんから敵を護るためだということを……。
「……誰……、って、ダルセンさん!」
そう。あの、私が野良巫女として単独行動をしていた時に、地方の町でどこかの貴族の子飼いの連中と雇われたゴロツキ共に襲われた事件。
あの時に助けてくれた、商隊を率いていた商人、オーリス商会のダルセンさんだ。
そりゃ、地方の町の有力商人なら、王都にくらい来るか。
「お久し振りです! あの時は、お世話になりました!
私、今は王都を拠点にして活動していまして、駆け出し商人の友人がやっているお店に間借りしてるんですよ」
ダルセンさんの方からは、いきなり独身の女性が住んでいるところを聞いたり、根掘り葉掘り質問するのは気が引けるだろう。だから、教えても構わないことは、私の方からぺらぺらと喋った。
ダルセンさんはあの時、大損をしてまで商隊を引き返させる必要はなかったし、私を騙してお金を儲けることもできた。その機会はいくらでもあったのに……。
……でも、そうはしなかった。
つまり、ダルセンさんは信用できる人だってことだ。
商人としての実力もあり、人間としても立派で、信仰心に篤い。
あの町でのことは、恭ちゃんとファルセットにも話している。
黒幕だった貴族のこともあるし、あの手の貴族がどういう行動に出るかということの参考になるからね。
レイコは姿を消して一部始終を見ていたから、説明するまでもない。
話を聞いたファルセットが、すぐに『その貴族家を滅ぼしましょう!』とか言い出したけれど、あそこの領主様が『自分に任せてくれ』と懇願してきたから任せた、と言って、止めた。
まあ、自分の領地での出来事だったし、悪い貴族に対して毅然たる態度を示せば、国の上層部から評価されるのかもしれないな。この国のトップは、まともな人みたいだから……。
とにかく、まぁ、何というか……、『ダルセンさんは、使える』ということだ。




