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355 伯爵家 4

「……御無礼、まことに申し訳ございませんでした!

 そして、娘をお助けいただき、ありがとうございます……」


 床に跪いて、感謝の言葉を述べている伯爵。

 他の人達も、その後ろで平伏している。

 剣を抜いた兵士さん達は、ブルブルと震えている。

 平伏しているから顔色や表情は見えないけれど、まぁ、真っ青なのだろうなぁ……。


「いえ、その点については、お気になさらず。

 ちゃんとした訪問であればともかく、侵入したというか、押し入ったというか、……ともかくそういう手段で強引に入り込んだこちらに非がありますので。

 急いでおり時間を惜しんだためとはいえ、失礼を……」

「勿体なきお言葉……。それも全て、我が娘のためでございましょう……」


 うん、まぁ、その通りなんだけどね。

 でも、こっちには大きな負い目があるんだよね……。

 だから、あまり頭を下げさせるのは、申し訳ない。


「いえ、それも『女神の涙』が原因でお嬢様の病状が悪化したのですから……」

 うん、一応、その点はちゃんと謝っておかなきゃね。


「いえ、それは偽の『女神の涙』を売りつけようとした悪党共の仕業。御使い様には何の責任もございません!」

 あ〜……。

 このままだと、拷問の挙げ句殺されちゃうよね、あの連中……。

 それはちょっと、厳しすぎるか……。

 アイツらも、別に人を不幸にさせるつもりはなかったのだからねぇ。


 私達が気付かなきゃ、私が渡した普通の『女神の涙』はちゃんと重病人の手に渡って、伯爵家の皆さんは幸せ、大金を稼いだ奴らも幸せ、そして私も別に損をしたわけではなく、ひとりの少女を救うことができて幸せ。三方幸せの、円満解決だったはず……、って、そんなわきゃーねぇよ!

 でも、まぁ、ちょっと口添えをしておいてやるか……。


「あ、あれは別に、偽物だったというわけではありませんよ」

「「「「「「え……、えええええっっ!!」」」」」」

 伯爵夫妻だけでなく、子供達や医師、護衛の兵士達からも驚愕の叫びが……。


「あれは、連中が私を騙して手に入れた、本物の『女神の涙』でした。

 勿論、連中が私を騙そうとしていることはお見通しでしたから、すぐに飲ませるよう何度も念押しして、時間が経つと効力がなくなるようにして渡したのですけれどね。高額で転売したり、犯罪組織のボスに渡したりできないように……。

 そしてそれを連中は、勿論病人の振りをしていた子供に飲ませることはなく、伯爵様に売ったわけです。

 なので、あれは確かに元は『女神の涙』だったものであり、連中は本物であると思っていた品です。

 入手方法と結果はともかく、お嬢様を助けるために本物の『女神の涙』を手に入れてお渡しした、という点だけ(・・)においては、誠実と言えなくもないですよね」


 伯爵は、微妙な顔をしている。

 じゃあ、もうひと押し。


「伯爵様。もし連中が持ってきた『女神の涙』が通常のもので、お嬢様がそれで全快されていたら。

 そしてその後に、それが私を騙して手に入れたものだったと分かれば。

 あの連中に、感謝なさいましたか?

 それに、そもそも『女神の涙』が商品として世間に出回ったり、お金で売買できたりするものではないことくらい、当然ご存じですよね? なぜそれの納入依頼を出されたのですか?」

「うっ……」


 今度は、何とも言えない顔の、伯爵。

 ……うん、そりゃあ、答えづらいわ……。

 その場合、多分伯爵は、感謝して正規の謝礼を渡すだろう。

 依頼内容は完全にクリアしているのだから。やり方は受注者の自由であって、依頼主が口出しするようなことじゃない。

 おまけに、あの依頼は明らかに『ルール違反』を容認するような内容だった。

 そして伯爵は、相手が平民であっても契約を破るような人じゃなさそうだから、御使い様を騙すという危険を冒してまで依頼を果たしてくれた連中には普通以上に感謝するんじゃないかな。

 でも、それを今、私達の前では言えないよねぇ……。


 ま、そんなことはどうでもいい。

 実際にはなかったこと、IFの世界だ。この世界の、私達には関係ない。


「それで、謝礼の方は……」

 伯爵が困っていると、横から奥さんが口を出した。

 うむ、夫が困っていると、さり気なく手助けする。

 内助の功だね、主婦の鑑だねぇ……。


「要らない」


 うん、今回は、こちらからの一方的なほどこしじゃない。

 どちらかというと、私の不始末の尻拭いだ。

 だから、報酬はなしだ。

 まぁ、報酬とは言っても、いつも大して価値があるものを受け取るわけじゃないけどね。

 貧乏な者からは、ダイコン1本とかタマネギ1個とかだったりするし、逆にこっちが銀貨数枚を置いて帰ったりもしているからね。


 それに、伯爵には、病気治癒の効果なんか全くない一角獣ユニコーンの角を超高額でお買い上げ戴いている。なのにこれ以上お金を巻き上げるのは、精神的にツラいのだ。

 それ以外でも、娘さんの病気のためにたくさんのお金を使ったらしいし……。


「よし、撤収!」


     *     *


「そろそろ、変装を解くか……」

 帰りは、ゆっくりと歩いた。明日か明後日の筋肉痛のことを考えて……。

 そして、家が近付いてきたので、変装を解かなきゃならない。

 こんな時間に出歩いている者がいるとは思わないけれど、万一近くの人に『御使い様』モードの私を見られるわけにはいかないからね。


『御使い様』モードは、聖女エディスが変装し、仮面を被った姿だ。

 最終的には、ごく一部の支配階層の者にだけエディス、イコール御使い様、ってことにするけれど、今はまだ両者の繋がりは完全に隠しているのだ。

 でないと、『聖女エディス』のところに色々なのが寄ってきて、王都の借家が危険になるからね。


 借家の中では、私達はみんな変装なし、それぞれカオル、レイコ、恭ちゃんのままの姿だしね。

 来客の時はすぐに変装するし、『女神の眼』の連中には、普通に元の姿で対応している。今更隠すこともないしね。

 じゃあ、まずは仮面を取って、と……。


 すかっ!


「……あれ?」


 すかっ すかっ


「……」

「…………」

「………………」


「……私、仮面、着けてない……。そして、カオルのままだ……」

「あ……」


「そして、レイコもファルセットも、素顔だ……」

「「あ…………」」


 ……やらかした……。

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― 新着の感想 ―
アレ!あれ〜ヤバイ!主に恭ちゃんが!
そーだよー!ここまで読んで気が付いた。
[気になる点] ガバガバ感、マッチポンプ、焦っていたとはいえ、三人とも変装やらの準備不足に気が付かないエトセトラ 情報が大事なのは隔離前ですらわかってたことなのに、貴族の裏背景の調査不足。 何度同…
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