335 鳥と犬 1
「他の連中の様子は?」
「帝国海軍は、交替の船が来るまで現状維持の模様。
船会社と海運系商会の合同チームは、独立採算で黒字になり本国からの支援なしで長期行動が可能となるよう、地歩固めに専念している模様。
妖怪一派は眷属がいるため、街の中心部からはやや外れたところの元貴族家王都邸だった物件を確保、コードネーム『K』との接触の機会を窺っているようですね……」
「ちっ! 御本人……本神……、とにかく、『K』御自身の望みで、皆、直接の接触は自重しているというのに……。
いや、ま、分かるけどさ。
妖怪本人が来ていない以上、奴らは事前に取り決めた簡単な合図以外は眷属達との意思疎通ができないから、さっさと『K』との繋ぎを取って通訳をお願いしたい、ということは……。
だが、それは奴らの事情だ。だからといって、『K』を煩わせたり、この国の者に疑念を抱かせるような行為はすべきじゃない。
……ま、言っても聞くような奴らじゃないから、仕方ないか……」
そう言って、肩を竦める『女神の眼』派遣チームのリーダーであった。
* *
「じゃあ、『ファルセット検討会議』を始めるよ」
「ええ」
『うん!』
ファルセットは、今までの宿を引き払い、この宿へと移ってきた。
……まぁ、当たり前だよねぇ……。
そして、私とレイコの隣の部屋を取った。
私とレイコが同室だから、自分も同じ部屋に、とかなりゴネられたけれど、私達には女神としての秘密のお仕事があるから、と言って諦めさせた。
『依頼条件では、「宿では同室」となっていたはず!』との主張に、『それは、レイコが受ける出来レースの予定だったから……』と説明すると、何か、ブツブツ言いながら落ち込んでいた。
どうやら、自分のために用意された依頼だと思っていたみたいだ。
いや、知らんがな……。
フランセットも部屋は別だった、と言ったところ、一応納得してくれたみたいだ。
まぁ、フランセットはロランドと同室だったからねぇ。
……そして、恭ちゃんは通信機でのリモート参加。
恭ちゃんだけ顔が見えないのは何だか寂しいな。リモート会議用に、立体画像が浮かび上がる通信機でも用意するか。
私がポーション容器で作ってもいいけれど、それくらいなら、恭ちゃんの母艦で製造できるだろう。
あまり何でもかんでも『神様工房』に頼るのはアレだし、恭ちゃんの出番も作ってあげないとスネるから、これは恭ちゃんに頼むか……。
「私のことを、そして私が再び現れたことを知っているフランセットに命じられて私の護衛のために遥々やってきた狂信者だから、追い返すことは不可能。下手をすると騒ぎになって、大変なことになる。なので、受け入れるしかないということは分かるよね?」
『うん』
レイコにも恭ちゃんにも、昔の関係者については何度も話している。なので、そのあたりは改めて説明するまでもない。
「何かある度に周りで騒がれたり、最悪のタイミングで的外れな介入をされたりすると、色々と困ったことになる。
それなら、最初からこっちの手の内で動いてもらった方がずっとマシだからね。それに……」
『それに?』
「フランセットには、色々と助けてもらった。だから、ファルセットも、きっと私達を助けてくれる。……そんな気がするんだ……」
『……』
「……」
恭ちゃんもレイコも何も言わないけれど、ちゃんと分かってくれている。
私が色々と理由を付けようが付けまいが、私が『そうしたがっている』、ということを。
だから……。
『承認!』
「承認!」
うん、そういうことだ。
「秘密保持については、問題ないと思う。
元々、フランセット達は私のことを異世界の女神様だと思っているから、どんな科学製品を見せようが、どんな魔法を見せようが、『女神様だから』で済むからね。
そして、私を裏切ったり情報を漏らしたりするような奴らじゃない。それは『女神様を裏切る』ということだからね。
絶対裏切らず、秘密を守る、何を見せても問題のない仲間にして、護衛役。『リトルシルバー』の留守番も任せられるし、自分の馬を持ってきてるから、ハングとバッドの世話も一緒にやってもらえる。
……あれ? かなりお買い得だぞ?」
『確かに……』
「役に立ちそうね……」
こうして、ファルセットは私達の仲間となった。
私達の秘密を教えていない子供達とは違い、『こちら側』のメンバーとして。
「だから、ファル……うわっ!」
「きゃあ!!」
『どっ、どうしたの!』
何か……、って、鳥?
「あ、いや、窓から鳥が飛び込んできた……。別に猛禽類とかじゃなくて、普通の鳥。
小鳥というにはちょっと大きいけれど、まぁ、鳩かカラスくらいの大きさで、綺麗なやつ……」
そう。虫除けポーションがあるから蚊とかブヨとかの心配がないため、窓を開けていたのだ。
遮音シールドを張っているから話し声を聞かれる心配はないので、そよ風で空気が入れ替わるのが気持ちいいから……。
そうしたら、虫ではなく、鳥が入ってきた。
いったい、どうして……。
『メガミサマ、メガミサマ。グランマノツカイ。オアイシタイ、イッテル』
「……え? 誰よ、お祖母さんって?」
鳥の言葉が分かるのは、まぁ、そういう仕様なので、今更驚くようなことじゃない。
でも、お祖母さんって?
……そして問題は、ソイツが私のことを女神だと言っており、私に会いたがっている、ということだ。
バルモア王国から遠く離れたこの国で、私のことを『女神様』と呼ぶ鳥になんか、心当たりはない。
私が女神として関わった鳥は、みんな70年くらい前に寿命で死んでいるだろう。
そして、鳥の寿命は短いから……、って、いやいや、ちょっと待てよ。
確か昔、50~60年くらい生きる鳥もいて、オウムが90年くらい生きたという記録もあると聞いたことがあるぞ。前世でだけど……。
じゃあ、あの時の鳥たちの子孫? ハングやバッド達みたいに、私のことが口伝で先祖代々伝えられていたと?
『イヌタチヨリサキニミツケタ! トリノカチ。ウレシイ、ホコラシイ!』
「……え? 犬? 鳥と犬が競争して私を?
そんな、互いに言葉が通じない犬と鳥が私のことで競うとか、あり得、あり得る……、いやいや、マリアル!!」
そう。私達3人以外でそんなのが可能なのは、私があげた翻訳コンニャ……ポーションを飲んだ、マリアルしかいないよっ!




