321 王都進出 4
「王宮へ御案内いたします。どうぞ、馬車へ」
何じゃ、そりゃあああ〜〜!!
私、何かおかしなことを言っちゃったか?
とんでもない失言とかがあったか? 王家を侮辱する言葉とか、体制側を批判する言葉とか……。
心当たりはないぞ……。
それに、罪人を捕らえるにしては、派遣されてきた人の階級が高すぎるし、態度が丁重すぎる。
馬車も、立派なやつだし。
どうして……。
……あ。
さっきの下っ端の報告か!
あれがこの人達を呼ぶためのものだったとすれば、事情聴取における私の失言とかは無関係だ。
報告のための伝令が出るまでに私が与えた情報は、私が野良巫女……自由巫女であることと、名前と、王都に来た目的が休養と資金調達であるということだけだ。
自由巫女としては、ごく普通の、ありふれたことばかり。
他の自由巫女達と違うところなんかない。違うのなんて、せいぜい名前くらい……。
って、それかああああぁっっ!!
『ほんのちょっぴりの女神の加護を受けた、野良巫女エディス』、バージョンアップしなくても、いきなり上から確保に来たんかいっっ!!
* *
「よく来てくれた、巫女エディス!」
うん、まぁ、神殿ではなく王宮の方にとっては、巫女が神殿派閥であろうが自由であろうが、関係ないか。『巫女』という点では変わらないからねぇ。
……って、そんなことはないか。
神殿勢力上層部の言いなりになる神殿巫女か、それを嫌って神殿に所属せず、劣悪な環境の中で自力で活動している自由巫女か。
他の勢力が取り込むのに都合がいいのは、どちらか。
そして、お金が集められる都市部でのみ活動する神殿巫女と、危険を冒してど田舎まで足を運び、無料……せいぜい、宿泊場所と食べ物の提供くらい……で祈祷してくれる自由巫女。
一般民衆に人気があるのは、どちらか。
まぁ、同じ女神セレスティーヌの信徒を名乗っていながら、神殿側が自由巫女達を快く思っていないことから、それは明らかだ。
さすがに、神殿側も非力な自由巫女達と敵対したり嫌がらせをしたりするような大人気ない真似はしていないらしいけれど……。
恥という概念があったか、それとも自由巫女に手を出すと民衆からの反発が起きるかも、とでも考えたからか……。
「……で、何の御用でしょうか?」
「「「「「「…………」」」」」」
私が頭も下げずにそう言うと、周りにいる人達に、怖い顔で睨まれた。声を掛けてきた人も含めて……。
よく来てくれたも何も、有無を言わせず連行してきただけじゃん。
そして、一応はちゃんとした声を掛けてくれたけれど、こっちが畏まった態度を取らなかったら、これだ。
だから、この連中には塩対応だ。
これで、ちょっと様子見。
いや、聖職者は現世の身分や権力とは無縁、ってことになってるんだよね、一応。
勿論、それは建前であって、実際にはそんなことはないんだけど、一応は、そういうことになってる。
女神のしもべである聖職者がただの人間より下位であるはずがない、ということだ。
王族や貴族の身分なんか、人間が勝手に決めたことであって、女神には何の関係もないからね。
これは神殿勢力が王宮や貴族の言いなりにならないための最大の武器なので、表立ってこれを否定する者には、神殿勢力の総攻撃が加えられる。
……勿論、武力ではなく、政治的なもの、民衆を扇動してのものとかで。
その貴族の領地産のものの不買運動。
その領地出身の者へのあからさまな冷遇。
女神に喧嘩を売った背信者、という扱いになるわけだ。一族郎党のみならず、領民や、同じ派閥の人達も、みんな。
単一宗教しかない世界で、これは効く。
なので、『巫女である私が忠誠を誓い、頭を下げるのは女神とその眷属の方々に対してのみ』という私の態度は、誰にも責められない。
……普通は、そんな態度を取る自由巫女はいないけどね!
みんな、自分の身が可愛いし、無用な危険を冒したり、余計な敵を作ったりはしたくないし、そもそも、そんな馬鹿じゃないから。
でも、私は違う。
これからのことを考えると、貴族や王族達の言いなりになって、ペコペコと頭を下げるわけにはいかないんだよね。
……それに、私がそんなことをすると、セレスに申し訳が立たない。
ほんの僅かであってもセレスの御加護がある者が、貴族や王族の奴隷になるわけにはいかないのだ。
それは、セレスが認めた人間が、その他の有象無象より格下だということになってしまうから。
それをちゃんと認識していれば、いくら貴族でも私に対してこんな態度は取らないはずなんだけどなぁ……。
……見たところ、ここには王族っぽい者は見当たらない。
そりゃそうだ。いくら何でも、身元不明の平民に、いきなり王族が会うはずがない。
ここにいる6人の男達……私の後ろにいる騎士ふたりは員数外……は、貴族か平民の上級官僚あたりかなぁ。
様子から見て、本当に私がセレスの加護(ちょっぴり)を受けていると信じているわけじゃなくて、『そういうことにして、利用するだけ』みたいだな。
信じていなくて利用する気がなけりゃ、私を呼び出すはずがない。
信じていれば、こんな態度は取らない。
だから、『信じていなくて、利用する気』一択だ。
こっちは小娘なんだ、形だけでも取り繕って、信じてる振りをしろよ!
いくらちょっと生意気な態度を取ったからといって、これから利用しようとしている相手に、初っ端から不信感や警戒心を抱かせて、どうするよ……。
「……少し甘い顔をして下手に出てやれば、小娘が付け上がりおって……。
聖女とか御使いとかを騙ればどうなるか、分かっておるのか!
縛り首になりたくなければ、儂らの言うことを聞いて……」
「あ、私、そんなこと一度も言ったことありませんよ。誰からそんなデマを聞かされたんですか?」
「……え?」
「いえ、ですから私はほんのちょっぴり女神の御加護をいただいているだけのただの自由巫女ですから、そんな大それたことを言うはずがありませんよ。
縛り首にするなら、みなさんにそんなデマを吹き込んだ人にしてくださいよ!」
「「「「「「…………」」」」」」
うむうむ、困ってる困ってる……。
「うるさい! お前は黙って……」
ばぁん!
ありゃ、部屋のドアが乱暴に開けられて、何やら偉そうな人と、警備兵らしき人が数人、入ってきたぞ……。
「きっ、貴様達、何をしている! 巫女様を勝手にお呼びして、陛下の御前に御案内することもなく、このような粗末な場所で、いったい何をしておるのだ!!」
「え……」
「さ、宰相閣下が、なぜ……」
おや? 王様の次くらいに偉い人?
それなら、大臣とか侯爵、公爵クラスの貴族でないと、頭が上がらないか……。
「巫女様、とんでもない御無礼をいたしました! すぐにご休憩の部屋を用意いたしますので、とりあえず貴賓室の方へ……。
せっかく王宮へと足をお運びになられたのですから、陛下とお会いになられますか?
王女殿下や王子殿下達と御一緒に、王宮内のご見学など、如何でしょうか?」
「「「「「「「えええええええええ〜〜っっ!!」」」」」」」
必死で平静を保っている護衛兵以外のみんな……勿論、私も含む……が、驚愕の叫びを上げた。
……ない。
いくら自由巫女が聖職者であり敬われてもおかしくないとはいえ、それはないだろう!!




