286 クルト商会 7
『『…………』』
「…………」
『カオル……。どうして、一番ヤバいところを忘れるのよ……』
「ごめん……」
定時連絡の時間じゃないけど、緊急呼び出しでレイコと恭ちゃんに連絡したところ、案の定、呆れられた後に、怒られた……。
『計画の大幅修正が必要ね。もう商品の納入は終わったんでしょ。カオルはすぐに帰投!
恭子も、なるべく早く戻って。本拠地でじっくり相談しましょう』
『了解!』
「わかった……」
仕方ない。今回は、完全に私のせいだ。
以前はもっと慎重に行動していたのに、レイコと恭ちゃんが来てくれて、安心して気が緩んじゃったかなぁ……。
いざとなったら、また逃げ出せる。それも、簡単に……。
心の底でそう考えちゃって、行動が杜撰になっちゃってた。
第一シーズンの私なら、絶対こんなことしなかったよね。もっと上手く立ち回ってたはず。
……まあ、私達のせいで、後遺症が残って人生に影響が出るような怪我を負わせた、しかも真面目で善人だと思われる若者に、となって、カッとなって視野が狭くなってた。
要・反省、だなぁ……。
よし、今はとにかく、帰投だ!
* *
私がリトルシルバーに戻った時には、恭ちゃんは既に戻っており、私の方が遅かった。
そして、私達3人全員が揃うと、子供達がはしゃぐ。
なのでちょっと豪華な夕食にしてやり、はしゃぎ疲れた子供達が沈没した後、部屋に運んで寝かせてやった。
その後、地下司令部に移動し、飲み物の用意をしてから会議を始めた。
「私達の作戦のとばっちりを受けて、人生が台無しになっちゃいそうな人ができて、ちょっと錯乱気味になって焦ったのは分かる。
カオルは、自分のせいで誰かに迷惑がかかった場合、異常に焦るからねぇ……。
……でも、さすがにちょっとグダり過ぎ。ここで立て直すよ!」
「うん、ごめん……」
レイコの指摘に、素直に謝罪した。
当たり前だ。
せっかくみんなで考えた計画を、私の勝手な行動のせいで、大幅修正が必要になるかもしれない状況にしてしまったのだから……。
「謝罪を承認!」
「同じく!」
よし、終わった!
いや、レイコと恭ちゃんも、失敗して他のふたりに迷惑をかけることはある。
なので、お互い様。
だから、その失敗が不可抗力だったり、情状酌量の余地があったりした場合には、本人がちゃんと反省したり、再発防止に努める旨の約束をしたら、謝罪によって水に流すことになっている。
……いや、悪かったとは思っているよ、さすがに……。
まあ、とにかく、これ以上私の非を責めることなく、仕切り直して3人一緒に考えよう、ってことだ。私が引け目に感じて意見を出すのを遠慮する必要はない、ということで……。
「まず、状況の再確認。これから、どうなると思う? 一番状況が分かっている、カオルから説明して頂戴」
レイコの仕切りで、本題がスタート。まずは、私の説明から。
「通信機での報告の通り、私達の作戦のとばっちりで後遺症が残りそうな怪我をした善人が、職と結婚相手を失いそうだったため、ポーション能力を使用して治癒。
焦っていたため情報の秘匿に失敗、3グループの目撃者が発生。
グループのひとつは、うちに関係する商人で、情報の拡散の確率は極小。
もうひとつは、医師とその助手であり、情報拡散の確率は小。
最後のひとつは警備隊関係であり、3人のうち、怪我をした者とその恋人は、何を喋っても信用されそうにないから脅威度は極小。
そして、残ったひとりが、……怪我人の上官であり、一番の問題点。
この人物が、上に報告したかどうか。その内容は、どういうものか。その報告を受けた上の人物が、それを信じるかどうか。更に上へ報告するかどうか。この件を信じたり、食い付いたりする者が現れるかどうか。それを利用しようとするか、ただ女神に祈るだけかどうか。
……不確定要素が多過ぎて、どうしたものやら……」
「「…………」」
ま、そう言われても、レイコと恭ちゃんも判断に困るよねぇ……。
そして、レイコから根本的な提案が。
「とにかく、身バレ問題の前に、クルト商会を何とかしちゃおう。放置すると、また何かしでかしそうだからね。こっちが他のことで忙しい時にやらかされちゃ、堪んないからね。
それに、次は怪我人だけで済むという保証はないし……。
で、襲ってきた犯人はどうなったの?」
「逃げられた、って……。警備兵さんは怪我をさせられてたし、商人さんも打撲傷を受けていたし、そして相手は3人だったらしいから、無理もないよ。誘拐を阻止して追い払えたのが不思議なくらいだよ。
多分、警備兵さんが頑張ったから、これ以上やると大怪我をさせるか殺しちゃうと思って手を引いたんじゃないかと思う。
さすがに、殺人や重傷者を出したとなると、万一バレたら大変なことになるからと、雇い主から止められていたんじゃないかなぁ。誘拐の機会なんかまたいつでもあるし、攫う相手も、別に他の従業員でも構わないんだから」
「ま、そんなところでしょうね。捕まえても、多分雇い主の名前も知らないチンピラでしょうね、使い捨ての。前金少々と、後払いの成功報酬で雇った……。
攫った従業員の引き渡しと交換での支払いなら後払いでも取りっぱぐれはないから、チンピラ達もそれで了承するでしょうし。
じゃ、実行犯はスルー。黒幕が逮捕されて自白したら、警備隊に捕らえてもらいましょ。警備隊にも仕事をさせてあげないと悪いからね」
うん、それには賛成だ。少しは手柄を回してあげないとね。今回は、非番なのに大活躍してくれた若者がいるんだし。
「それと、診療所に対する態度だけど……。
カオル、あなた自分が理系だからか第一シーズンのせいか、神殿勢力には辛辣で、医学の進歩に貢献している人をフォローしたがるのは分かるんだけど、ここではあなた、女神側の人間なのよ? あんまり科学至上主義、神殿下げの言動は、ちょっと……」
「え……」
「あの、しゃわしゃわする……」
「「それは、三ツ矢側の人間!!」」
「……恭子は、ちょっと黙ってようか?」
「……うん……」
レイコに睨まれ、ビビる恭ちゃん。
「や~い、怒られた!」
「カオル……」
ヤバい、レイコが本気で怒る寸前だ!
「ご、ごめん……」
とにかく、とりあえず、先にクルト商会の方を片付ける!
その後に、警備隊から上の方に上がったであろう報告によって引き起こされるかもしれない事象に対する対応を考えよう。
……そういうわけで、後は、だらだらと駄弁りながらの相談が続くのだった……。




