232 事業展開 6
あまり調子に乗らない。
なるべく、この世界のレベルに合わせた生活をする。
ちょっとした『この世界にはない贅沢』を楽しむのは、地下の秘密基地でのみ。
昨夜は、それらを再確認し、あとは呑み会になった。
子供達の前でお酒を飲むのは憚られるから、1階ではあんまり飲まないんだよねぇ。
いや、私達は全員、精神年齢も生活年齢も成人だし、この国では15歳で成人だから、肉体年齢としても、お酒を飲むことには何の問題もない。
それ以前に、この国には飲酒に関する年齢制限なんかないし……。
まぁ、地球でも、水やジュースよりビールの方が安いとか、水は不味くて衛生的に危険だからビールを飲む、とかいう国もあったし。
……で、3人共、久し振りに飲んだお酒で、酔っ払って潰れた。
あのまま地下の秘密基地でテーブルに突っ伏して寝たから、身体中が痛い……、って、イカン!
「みんな、起きて! 多分、子供達が起きて私達の姿がないから慌ててるよ!」
そう、完全に寝過ごした。
この世界、みんな早寝早起きなんだよねぇ。油もロウソクも高いから。
うちは、照明はズルをして『発光する液体を入れたガラス容器』を使っているから関係ないけれど、子供達の長年の習慣はそうそう変わらないからね。
……ちなみに、明かりは青白い光ではない。
慌てて、3人揃って私の部屋の地下出入り口から出て、居間へと向かうと……。
案の定、目を覚ましたら私達の姿がないもんで、子供達が半狂乱で家の中を走り回っていた。
今まで、私とレイコが地下へ降りる時は自室の入り口から入っていたし、その時には『部屋で大事な用事をしているから、邪魔をしないように』と言って部屋の鍵を掛けていたからねぇ。
それも、大抵はみんなが寝静まってから、こっそりとだし。
それが、3人揃って一緒に地下へ入ったものだから、他のふたりの部屋は鍵があいたままだし、いつもは子供達より少し早く起きる私達の姿がないし、慌てて地下1階を確認しても、外や馬小屋を見てもいないし、かなり陽が高くなってきても姿を現さないし、事前の説明もなかったし……。
そして子供達は、自分達が見捨てられて、せっかく手に入れたと思った安住の地を失うことを、すごく恐れているだろう。
……そりゃ、焦るわなぁ……。
「「「「「うわああああぁ~~!!」」」」」
子供達にしがみつかれて、泣きながらぽかぽかと叩かれ続けた。
……いや、ごめん……。
その後、子供達に『どこかへ行く時は、必ず事前に教える』と約束するよう強要されたけれど、それは拒否した。
……まぁ、気持ちは分かる。
でも、色々と水面下で行動することもあるし、出掛けるたびにいちいち子供達に行き先を教えるなんて、面倒でやってられない。プライバシーというものを、何と心得るか!
そもそも、どうして雇い主が従業員に行動を監視されなきゃならないんだよ!
で、心情が不安定な子供達を安心させるため、仕方なく、少し配慮してやった。
『3人揃って日を跨いで行動する時には、事前に教える』
『絶対に、黙っていなくならない。もしここを去る時には、ちゃんと事前にみんなに説明するし、みんなの次の仕事先も手配する』
『今のところ、ここを出ていく予定はない』
この3つを宣言してあげたら、ようやく落ち着いたのか、お腹をくー、と鳴らせていた。
朝食、食べてないよね。そして、お腹を鳴らす余裕もないくらい、身体が緊張していたか……。
朝食兼昼食は、私がパパッと作った。
死ぬ前……、生前……、転生前……、とにかく、『日本に居た時』は、お母さんを手伝ったり、私ひとりで全部やったりして、家族5人分の食事を作ることも多かった私は、レイコや恭ちゃんより遥かに料理の手際がいいのだ。勿論、味の方も。
なので、子供達が腹ぺこの今は、私が作るのが正解だろう。変に素人に手伝ってもらうと、却って時間がかかる。
……って言ったら……。
「それは、カオルが22歳で死んだ時の話でしょうが!」
「あれから、私達が家庭の主婦として何十年料理したと思ってるのよ!」
あ……。
* *
子供達が畑仕事をしている間に、私達3人は居間で相談をしていた。
「元気で明るく、気丈に振る舞ってはいるけれど、やっぱりかなり心的外傷を受けてるよねぇ。
カウンセリングとかをした方がいいのかなぁ……」
「いえ、多分あの子達は、私達が今、何を聞いても『大丈夫です、何も問題はありません』としか答えないわよ」
「うん。自分が弱く情けない姿を見せたら、見放され、捨てられるんじゃないかと考えそうだよね。
今は一生懸命強がって、気を張っているだろうから、本当に心から安心できるようになるまでは、変に突かない方がいいんじゃないかな」
「やっぱり、そうか……」
私の言葉に、レイコも恭ちゃんも否定的な意見を返してきた。……そして、私もそう思う。
あの子達は、幼いけれど、しっかりしている。悩んでぐじぐじしている者が生き延びられるほど、この世界の孤児業界は甘くない。『タフでなければ生きていけない』ってやつだ。肉体的にも、精神的にも……。
幸い、あの子達はひとりぼっちじゃない。仲間達と一緒なら、時間が経てば心の傷も癒やされるだろう。
「じゃあ、私達にできることは……」
「やり甲斐のある仕事を与えて、『お金を稼ぎ、貯金する』ということの楽しさを教え込む!」
「仲間達と一緒に、毎日忙しく働いていれば、嫌なことなんか思い出さなくなるよね!」
そう、私達は心理学の専門家じゃない。児童心理学なんか、齧ったこともない。
素人が、良かれと思って下手に手を出すと、ろくでもない結果を招くこともあるだろう。
アレだ、必死に頑張った挙げ句参っちゃってる人に、『頑張れ!』って励まして自殺させちゃうヤツ。
今はただ、安住の地、居場所を作ってあげて、自分の力で稼ぎ、一人前の人間なのだということを自覚させてやればいい。
ごく普通の生活、ごく普通の毎日、……そして、ごく普通の人生。
「但し、ごく普通の結婚相手を手に入れるのは、私の方が先だ!」
そして、思わず心の中の言葉を口に出してしまった私を、生温かい目で見守るレイコと恭ちゃん。
……放っとけ!!
「じゃあ、更なる事業展開を、ってこと?」
これまでの話の流れから、結論を察したらしいレイコ。
「うん。子供達も増えたし、恭ちゃんも来たから、今の細々とした零細企業じゃなく、もう少し手を広げようかと……。
今やっているのは、『元孤児院を買い取るのにお金を使い果たした余所者の女性ふたりが、元手なしで商売を始めて街の人達と交流しつつ地歩を固める』という目的で行う予定だった事業なんだよね。
それが、ミーネとアラルの参入でちょっと目的がズレて、更にイリー達が加わって、既にここは『見知らぬ余所者が始めた事業所』じゃなく、元々街の人達の顔見知り、つまり地元の人々である元孤児達が働いている事業所と認識されていて、もう完全に受け入れられているんだよ。
そして、子供達の手に職をつけるというのも、今やってる仕事に関してはミーネは既にやり方を身に着けているし、イリー達もそれくらいすぐに覚える。
私は、子供達はこのまま労働力として働かせるだけじゃなくて、教育を受けさせて、もっと色々な可能性を与えてやりたいんだ。
いや、子供達が『今のままでいい、この仕事をずっと続けたい』って言うなら、それはそれでいいんだけどね……」
そう、魚介類や海藻、加工肉とかは、最初のカモフラージュ用だ。
最初から、時間を取られて儲けの少ない仕事をずっと続けるつもりはなかった。
まぁ、早々と食品加工業をやめたのでは色々と支障があるので、今までの規模での生産は続けるけれど、ミーネとアラルだけの時に較べて約3倍になった子供達の労働力を全てそっちに注ぎ込むのではなく、事業の展開を前倒ししようというわけだ。
今は『裏稼業』としてのみやっている商家との取り引きを、表の顔、『リトルシルバー』の業務として行い、この街での地位を確立する。何かがあった時、権力者や金持ち連中に簡単に嵌められ、利用され、搾取され、弄ばれ、……そして潰されないように。
「んじゃ、作戦会議といきますか……」
私の説明を受けて、レイコが軽い調子で。
「あまりやり過ぎないでね。子供達の安全第一で……」
恭ちゃんが、少し心配そうに。
「何とか、なるなる!」
そして、私が暢気そうに。
ま、この3人が揃っているんだ。……しかも、チート付き。
何とかなるだろう。




