201 料 理
「さぁ、どうぞ!」
テーブルに並べられた、料理の数々。
全て、私とレイコ製。ミーネとアラルは、見学のみ。
練習でミーネに作らせるのは、私達だけの時に、ゆっくりと。余計なプレッシャーを掛けたり焦らせたりするのは良くないからね。今日はお客さんの接待だから、急いで作らなきゃならなかったから、私達二人だけで作ったのだ。
料理は、角ウサギの臓物鍋、フライドウサギ、角ウサギの照り焼き、シチュー、ロースト、その他諸々。
勿論、角ウサギだけでなく、野菜や魚料理もある。
……料理の一部は、アイテムボックスから出しただけのやつ。シチューは、もう出来てるやつに軽く炙った角ウサギの肉を入れて再度煮込んだだけ。シチューは元々温かいままだったから、肉に充分火が通るのは割と早かった。
「もう出来たのか! 早ぇな、オイ! それに、この品数……」
うん、アイテムボックスが無ければ、もっと時間がかかっただろうね。
「遠慮なく食べてね。保存の利く加工食品にするための練習用のお肉は充分残っているし、また依頼を受けたハンターの皆さんが色々と納品してくれるだろうから、角ウサギ数匹分くらいどうってことないからね!」
自分達が納品して代金を貰ったものを自分達が食べる、しかも調理までしてもらって、というのが引っ掛かったのか、少し躊躇った様子の者もいたけれど、結局、みんなすぐに料理にかぶりついた。……まぁ、いい匂いがしているから、当然だ。うむ!
内臓料理にしても、充分香辛料を効かせてあるから、この辺りの平民にはちょっと縁のない味だろう。
……そもそも、内臓料理なんかに高価な香辛料を使うような奴はいない。
そんなことをするくらいなら、最上級の食材を使った料理に、たっぷりと贅沢に香辛料を使うだろう。みみっちく、節約してほんのちょっぴりしか使わないんじゃなくて……。
だから、そもそもこのあたりでは『香辛料を使った内臓料理』なんか存在しない。
当たり前だ。地球でも、昔は『胡椒は、同じ重さの金と同価格』とか言われていた時代があったんだ。金って、今だとグラム当たり6000円オーバーだぞ……。
ちなみに、私が生前買っていたテーブルコショー、20グラム入り168円。ここだと12万円相当かな……。
高いわ! 買っとられんわっ!!
……だから、『能力で出すのを自粛』の対象外にしてるんだけどね、香辛料……。
って、イカン! 早く食べないと食い尽くされる!!
オマエラ、ちょっとは遠慮ってものを……。
ミーネとアラル! お前達まで、釣られてがっつくんじゃない!!
* *
どうして8人しかいないのに、私が満腹になる前に料理が全部なくなるんだよ!
そしてミーネとアラルとレイコ、なぜお前達は満足そうな顔をしているんだよ!
……私だけか? 競争に敗れて充分食べられなかったのは、私だけかよ、クソっ!!
「「「「ありがとうございました~!」」」」
うるせえ! 依頼完了届けにサインしてやるから、てめーら、さっさと帰れ!!
* *
そして、オーク、猪、鹿等、種類ごとに同じようなことが繰り返されて、徐々にミーネの解体能力が上がっていった。
うちに納品すると旨いメシが喰える、という噂が広がったらしく、受注希望者が殺到して受付嬢が断るのが大変だったとかで、ギルドに顔を出した時に愚痴られた。
仕方ないので、販売用に持っていた干物のうち3枚と、飲み屋のオヤジに試食させるための試作ジャーキー類を少し渡して黙らせた。
『旨いと思ったら、ちゃんと宣伝するように』と言っておいたから、まぁ、宣伝費、先行投資、賄賂、交際費、……なんでもいいから、とにかく『経費』と考えよう。……くそ!
あ、ミーネが一度で解体をマスターできなかったやつは何度か解体のコーチを依頼したし、商品の試作や本番用として、買い取りの方はずっと継続している。あまり一度に大量に来ないよう受付嬢(干物とジャーキーの賄賂を渡した人)が調整してくれているし、納品が被っても問題ない。
……何のためのアイテムボックスか、ということだ。
斯くして、我が『リトルシルバー』は、加工肉部門の正式稼働と相成ったのである。
そして食卓に、魚や野菜料理だけでなく、肉料理が出るようになった。うむうむ。
……いや、それまでにも、たまには出していたよ、街の肉屋で買ってきて。
育ち盛りの子供がふたりもいるんだ、それくらいは考えているよ!
え、子供は4人だろ、って?
私とレイコはもう育たないよ、身長も、胸も……。
って、うるさいわっっ!
* *
肉の加工品販売の方も目処が立ってきたある日……。
ドアノッカーの音がして、私が応対に出ると、10歳前後の薄汚れた男の子がふたり、立っていた。
「「お腹すいた……」」
変なの、キタ~!
「……孤児?」
私が立ち尽くしていると、レイコとミーネ、アラル達がやってきた。
「お願いします、ここに置いて……」
「帰れ!」
「「え?」」
孤児らしき子供の懇願の言葉を、一刀両断。
……ミーネが。
「「えええええ!」」
私とレイコの声がハモった。
いや、私かレイコが言うならば、分かる。
しかし、元孤児であるミーネが、孤児院だったここを頼ってきた孤児に掛ける言葉としては、それは信じがたい台詞だ。
そもそも、ついこの間のオマエらの立場そのものじゃん! なのに、その台詞はないだろう、と。
アラルが何も言わず黙っているのは、状況がよく分かっていないのか。
そう思っていたら……。
「さっさと帰れ!」
「「えええええ~!!」」
何と、今度はアラルから、嫌悪に満ちた、吐き捨てるような口調でそんな言葉が……。
「ど、どどど、どうして……。あんた達、そういうキャラじゃなかったよね?」
そう、ミーネとアラルは、ライバルが増えるだとか、自分達の食べ物の割り当て量が減るだとか、そんな理由で他の孤児達を排斥するような子じゃない。
「も、もしかして、孤児院の敵対派閥の連中?」
……孤児院の敵対派閥って、何やねん!
動揺した私の言葉に続いて、何やらわけの分からないことを口走るレイコ。
しかし、明らかに異常なミーネとアラルのこの態度は……。
「お前達、いいトコの子だろう! その程度の変装で騙されるような者が、この歳まで生きていられるとでも思ってるの? 孤児業界を舐めるんじゃないよっ!」
な、何じゃ、そりゃああああぁ~~っっ!!
いや、完全に騙されてましたけど!
そして、『業界』なんだ、孤児の世界って……。
「な、なっ……。俺達は、本当に……。どうして俺達が変装しているだなんて……。しょ、証拠はあるのかよっ!」
二人連れのうち、年上と思われる方の子がそう言ってミーネに食って掛かったけれど……。
「誰が、わざわざ変装の不備なところを教えてやったりするもんか! さっさと帰って、雇い主に『自分達の変装と演技が下手だからバレました、警戒させてしまったから、もうこの手は二度と使えません』って報告するんだね!」
「くっ……」
悔しそうな顔をする年長の子と、何だか怯えたような様子の年下の子。
……多分、失敗したとなれば、この子達を派遣した連中に怒られるんだろうな。言葉で、そして暴力で……。
というか、年長の子の態度で、ミーネとアラルが言ったことが正しいってことが丸分かりだ。
ならば……。
「あんた達には、3つの選択肢がある。ひとつは、雇い主の名を吐いて警備隊で証言すること。もうひとつは、泣きながら逃げ出して、私達を敵に回すこと。そして最後のひとつは……」
ここで、にたりと嗤って……。
「いま、ここで死ぬか、だねぇ……」
「「ぎゃああああああぁ~~!!」」
あ、逃げた。
いや、ちょっとビビり過ぎじゃね?
「……やり過ぎです、カオル様……」
「その目付きは、卑怯……」
うるさいわっっ!
ミーネもアラルも、好き放題言いやがって……。
レイコ?
いないよ。
魔法を使って、こっそりとあのふたりを追跡してるに決まってるじゃん。
敵の存在を知って、しかも先制攻撃を受けたというのに、野放しにしておくわけがないじゃん。
見敵必殺。ここは、ハルゼー提督を見習うとしよう。




