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186 やっぱり……。うん、知ってた。〇| ̄|_ 1

 じりりりりりり!


「敵襲!!」

 ある夜、うちの敷地に沿って張ってある警報システムが、侵入者を感知した。

 いや、まぁ、ただの訪問者や野生動物だという可能性もあるけれど、物事は、最悪の事態を想定して対処するものだ。

 ……そして大抵は、現実はその左斜め上45度くらいでやってくる。


 レイコと一緒に居間でのんびりしていたから、対処は早かった。

 監視パネル形ポーション容器で、侵入者を感知したセンサー形ポーション容器の位置を確認。

 屋根の上に付けてある赤外線カメラ形ポーション容器をその方向に向けて、ズームさせる。

 それを液晶モニター形ポーション容器で……、って、面倒臭いわ!!

 もう、『~形ポーション容器』というのは省略!

 この世界にあるはずがないものは、全部ポーション容器として造った!

 自分達の安全のためには、自重しない。

 安全第一。これ、常識!


 ……で、モニターに映っているのは……。

「「子供?」」

 そう、5~6歳くらいの男の子と、10歳前後の女の子。そのふたりが、辺りを窺いながらゆっくりと建物に接近している。

 白人系だから私達にはもう少し年上に見えるけれど、もう慣れたから、大体の年齢は分かる。その子が平均より極端に大きいか小さいかでない限りは。

 そして勿論、年齢の判断には『生育環境補正』も加味している。

 ……孤児は、栄養状態の関係上、大体は平均より小柄な場合が多い。そして、太っている孤児など、いようはずもない。


「……孤児?」

「多分」

 レイコの問いに答えた通り、絵に描いたような孤児だ。

 元は幾分マシな服だったようだけど、それも、既に薄汚れている。

 あまりボロボロではないけれど、普通の家庭であれば洗濯くらいはするだろう。その様子がないということから、孤児と判断していいだろう。それも、孤児院にすら入れない、浮浪児のたぐいだ。

 ……って、そういえば、ここ、元孤児院だったなぁ……。


「とにかく、5~6歳の窃盗犯も、10歳前後の殺人犯もいるんだから、油断大敵だよ!」

「分かってる!」

 私の注意喚起の言葉に、そう言って頷くレイコ。

 そう、ここはそういう世界だし、現代地球にも、そういう国はいくらでもあった。

 そして私達は所詮、平和な国で生まれ育った甘ちゃんでひ弱な女性だ。死にもの狂いで生きてきた者達に本気を出されれば、一瞬の隙をいてブスリ、とナイフで刺される可能性は充分にある。ポーション作製も魔法も、ナイフを突き出されるコンマ数秒より速く対処できるとは限らない。

 そう、私達はふたりとも、後衛というか、遠距離戦タイプなんだ。それに、レイコは人を殺したことがない。それは、あまりにも大きな不安要素だ。

 だから、敵は接近される前にる。なので……。


「侵入者、第一防衛ラインに到達。正規ルート上……」

 ありゃ、こっそり侵入するんじゃなくて、真っ直ぐ玄関に向かってきてる。

 玄関への道から外れて回り込むと、落とし穴とか色々な歓迎施設が待ち構えているんだけど、さすがに玄関への道にはそんな仕掛けはしていない。たまには来客があるかもしれないし、自分達がうっかり引っ掛かるかもしれないからね。

 しかし、真正面から来るということは、物盗りとかじゃないのかな。

 でも、夜中に浮浪児が他人の家を訪れるなんて、盗みか物乞いくらいしか思い付かない。そして物乞いならば、日中か夕方の、残飯が出るあたりの時間帯だろう。決して、こんな夜遅くに来るようなものじゃない。


 不必要に秘密を教えることもないから、私は左手に短剣を持ち、右腰に爆裂ポーションの小瓶を着けて、レイコはショートソードと小型のクロスボウを装備。

 ……この日に備えて、日本で色々な武器の扱い方を練習していたらしい。

 ちぇっ、私も転生するのが分かっていれば、色々と準備したよ!

 とにかく、準備万端で、来客を待ち受けた。


 カツン、カツン!

 そしてしばらく後に、ドアノッカーの音がした。

 どうやら盗人ぬすっとではなく、本当に客だったらしい。

 しかし、こんな時間にアポなしで薄汚れた風体の子供がふたり。まともな客ではあるまい。

 だけど、居留守を使っても意味がない。それは問題を先送りするだけだし、次に来る時は正面からではないかもしれない。ここは、情報を得るために普通に、いや、友好的に出迎えるべきだろう。


「は~い!」

 そのため、ドアを開けて明るく出迎えたところ……。

「「ひいっ!!」」

 ふたりの子供は、飛び退すさって尻餅をついた。

「こ、殺さないで!!」


 あ。

 私は左手に短剣を持っているし、後方ではレイコがクロスボウを構えて狙いをつけている。

 ……そりゃ、ビビるわ……。


     *     *


「……じゃあ、あなた達は以前ここに住んでいたと?」

「は、はい、私はこの孤児院で育ちました……。そして1年前に隣領の商人に引き取られ、なぜか事前に説明されていた養女としてではなく奴隷として働かされていたのですが、そろそろ身の危険を感じてきたので隙をいて逃げ出しました。私と同じように引き取られてきたばかりだった、この子を連れて……」

 おおぅ、ヘビーだねぇ……。

 しかし、最初から奴隷として使うために引き取ったのか。……極悪人だな。


「で、他に行くところもないから、ここに戻ってきたわけか。引取先のやり口を報告することも兼ねて……」

「は、はい……」

 そして長い道のりを年下の子を抱えて死ぬ思いで歩き続け、やっとのことで帰り着いたと思ったら、院長先生や仲間達にではなく、短剣とクロスボウで迎えられたというわけか。

 そりゃ、尻餅もつくか……。


 必死で説明している9歳の少女、ミーネの隣で、アラルという名の6歳の少年は、ひたすらパンとスープをがっついている。

 肉料理とかを出してやっても良かったんだけど、あまりにも空腹が続いたところに消化の悪いものを食べさせると、身体が受け付けなくて吐くことがあるらしいから、敢えて柔らかいパンとスープにした。一応、スープは具沢山にしてある。

 ミーネも、話をする前にパンとスープを食べている。少食なのか、いきなりたくさん食べてはいけないことを知っているのか、あまり多くは食べていないけれど……。

 しかし、アラルが食べ続けているのを止めないということは、個人的な理由なのかも。


 ミーネは、本名をミーネットというらしいが、孤児院特有のルールで、短く『ミーネ』と呼ばれていたらしい。

 孤児院では幼い子にも発音しやすいように、そして危険行為を制止するために名を呼ぶ時に少しでも時間が短くて済むようにと、短くて発音しやすい名前を付けるのが一般的らしいのだ。

 そして引き取られた時に名前が分かっている時には、その名が長かったり幼い子に発音しにくいものであったりした場合、愛称として名前を短縮して呼ぶことが多いらしい。

 ま、長い名前は生存競争には不利だからねぇ。日本にも、『寿限無じゅげむ』という教訓話があるし……。


 とにかく、今日は食事させてやって風呂に入れてやって泊めてやって、明日、この孤児院を経営していた人達が今どこにいるかを不動産屋に聞いて、この子達の去就を考えなきゃならない。

 さすがに、このまま放り出してのたれ死にかスラム行き、ってのは、寝覚めが悪い。

 それに、普通の人にとっちゃあ『ただの孤児』かもしれないけれど、私にとっちゃあ、エミール達『女神の眼』の子供達と同じだ。

 この子達を突き放すのは、エミールやベル、レイエットちゃん達を突き放すのと同じ。

 せめて、まともな行き先を見つけて送り出してやらないと……。


 考えてみれば、ここ、孤児院だったんだよなぁ。

 どうしてそれが空き家になって売られていたんだ?

 普通、孤児院とかはそうそう倒産するようなものじゃないよねぇ。元々営利企業ってわけじゃないんだから、業績悪化だとかライバル会社ができたとかいうわけじゃないだろうし……。

 国もまとも、領主もまとも、街の人達も概ねまともなら、今まで運営していた孤児院が急に潰れるとか、あまり無さそうなんだけど……。

 運営資金は、国か領主が支援していたか、街の人達からの寄付金とかで賄っていた? それが急に途絶えた?

 う~ん、明日、不動産屋に聞いてみるか……。

 買う前に聞いておくべきだったよなぁ、ここが売りに出された理由。

 まさか、事故物件だとか、大島てる案件だとかじゃないよねぇ……。



毎年恒例の、年末年始休暇を取らせて戴きます。

そのため、2回お休みで、次回更新は2020年1月9日(木)0000となります。

来年も、よろしくお願い致します!(^^)/

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― 新着の感想 ―
新たな組織ネオ女神の眼 or ゲル女神の眼発足か?!
新たな使徒か犠牲者かミーネット(ことミーネ)とアラル登場!第一次防衛ラインには色々と罠があるようですね?
[一言] >ちぇっ、私も転生するのが分かっていれば、色々と準備したよ! それがわかってて現世での一生の一部を転生の準備期間にした人は(なろうの)世界でも、礼子と恭ちゃんくらいだと思う・・・
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