167 転 生
本話数には、一瞬(数秒)だけですが、登場人物が炎に巻かれるシーンがあります。
それを御不快に思われる方は、本話数を読まず、飛ばしていただけますようお願い致します。
「図々しい? 香をあっさりと見失っておきながら、捜そうともせずに放置しているあなたが、その代わりに捜索に来た私に、そしてそのために最低限絶対に必要な能力を求めた私に、そう言いますか?」
「うっ……、って、え? 捜しに? カオルちゃんを? でも、カオルちゃんは、魂も意識体も完全に消滅して……」
「それを決めるのは、あなたではありません。別に、アカシックレコードで確認したというわけじゃないんでしょう?」
「あ、はい、私くらいの低位存在には、アカシックレコードにアクセスすることはできませんから……。本体であれば、どうしても必要、という場合であれば閲覧が可能ですけど……。
なので、私に確認できるのは、この惑星上の、かなり限定された簡易的な記録だけです」
地球の神様から聞いていた通りだ。
「ならば、可能性はあります。確率は、決してゼロじゃない」
「…………」
女神は、黙り込んだ。
「当時の状況と、分かっている限りの情報を教えていただけますか?」
「……わ、分かりました……」
特典については、うやむやのうちに何となく認めさせた……ということでいいのかな、これ。
よし。久遠一族の『諦めの悪さ』を見せてやる!!
* *
「ここが異世界、『ヴェルニー』か。香がいる世界……。そして、向こうに見えるのが、ブランコット王国の王都、アラス。香が消えた場所……」
よし、まずは能力を試すか!
いきなり、ぶっつけ本番で魔法を使ったりすると、『悲しい出来事』が起きたりするからね。
まぁ、『魔法』とはいっても、実際には、科学的な方法でサポートされて発現する現象らしいけれどね。さすがに、魔法の精霊とかがいるわけじゃないらしい。
どんな方法でサポートしてくれているのかは分からないけれど、アレだ、アレ。『十分に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかない』というやつ。
ま、深く考えるのはやめよう。
「ウォーター・ボール……」
おお、水の塊が!
よし、これで水筒を持ち運ぶ必要はなく、水が尽きて死ぬこともない!
「ファイアー・ボール……」
よし、これで凍えて死ぬこともなく、料理も簡単に!
次は……。
「黄昏よりも暗き存在、血の流れよりも赤き存在……」
……うん、何もなかった!
向こうの方にある山は、元々大きく抉れていた!
多分そう。きっとそう。
よし、王都へ向けて、しゅっぱ~つ!!
* *
街門で銀貨3枚を払って、無事、王都アラスへ。
この『銀貨3枚』というのは、大昔から変わっていないらしい。
そして、そのまま真っ直ぐ、王宮へ。
勿論、一般人が簡単に王宮に入れるわけがない。……ある一箇所を除いて。
そう、ある一箇所。『聖地』である。
御使い、カオル様。一部の者からは『異界の女神』とも呼ばれる……って、何やってんだか、あの子は……。
とにかく、香がバルモア王国とブランコット王国の戦争を防ぐためにその身を犠牲にし、天に召された場所。
香を押し潰したとされる大岩は、ピッタリと穴に嵌まり込んでいたため持ち上げて取り除けることができず、横に同じ大きさの穴を掘ってそちらに岩を転がす、という方法で退けたらしいのであるが、そこには原形を留めぬまでにボロボロに炭化した欠片があるばかり……。
それらの炭化物は、『聖遺物』として大切に保管されているらしいが……。
この『聖地』へ至るルートだけは、道全体が強固な壁に囲まれて王宮の他の場所へは行けないようになっており、参拝者が行き来することができるのであった。
元謁見の間を含むその建物自体が今は神殿のような扱いをされており、隣接した場所に、代わりとなる新たな建物が建設されている。
一般の参拝者達に交じって、その『聖地』をじっくりと観察した私は、王宮を後にした。
勿論、宿を取り、食事をするためである。
* *
……そして、深夜。
こっそりと宿を出て、王宮へ。
さすがに、昼間は開放されている『聖地』への通路も、夜間は閉鎖されている。
しかし、魔法の前には、そんなことは何の意味もない。
「不可視フィールド!」
姿を消す魔法……実際には、可視光線を透過させるとか、空間湾曲とか、何らかの科学的なものであろうが……により、完全に見えなくなった私は、堂々と兵士達の前を通って通路を歩き、建物の中へ。
扉の鍵は解錠魔法で開け、少しだけ開けた扉の中へと、ささっと滑り込む。
そして無人の建物の中を、暗視魔法を使って進む。あの、『聖なる間』へと……。
「さて、と……」
警備兵は、建物の中にはいない。なので、少しくらいの独り言は問題ない。
まぁ、あれだけ外側を警備していれば充分だろうし、そもそも、『聖地』に盗みに入るような者がいるはずがない。ここは、『女神が実在する世界』なのだから。……それも、ムカついた人間に対しては、些か厳しい女神が……。
地球の神様は、ここの女神であるセレスティーヌ様から報告を聞いただけ。それも、あまりにも落ち込みと焦燥が酷かったセレスティーヌ様はまともに報告できるような状態ではなく、セレスティーヌ様の途切れ途切れの話を、なんとか自分で再構成して状況を理解したらしい。
そして異世界の女神セレスティーヌ様は、どうやら、基本的には『陽当たりのよいお花畑に住んでいる人』らしかった。
セレスティーヌ様が言うには、香の魂と意識体の反応が完全に消滅、探査範囲を惑星全域に広げても反応なし。それをもって、香の完全消滅を確認、ということらしいが……。
それは、香との付き合いが高々5年弱しかない者の判断だ。
あの香が、それくらいで私達を残して死ぬわけがない。そう、前回のように……。
今回も、香は必ず待っている。私達を……。
話は、全て聞いた。
何度も繰り返し、細部に至るまで。
香が得た身体について。香が得た能力について。……そして、あの時の状況を全て、微に入り細を穿って。
その時、香なら。
香なら、どうするか。
そして、考え抜いた末に得た、結論。
最後に出し入れ口が開かれたのは、どこか。
一番出し入れ口に近いところにあるのは、最後に入れたものだと考えるのが妥当。
ならば……。
「時空間振動魔法! 次元振動を起こして、他の者の精神波に同調した異次元収納庫の扉を無理矢理引き裂いて、こじ開ける! 開け、次元の扉!!」
ぶぅん……
時空が震え、世界が歪む。そして、巨大な次元震が……。
「『歪み』の発生源は、ここですかあああぁっっ!!」
そして、必死の形相の女神が現れ……。
ぽんっ!
ひとりの少女が現れた。
年の頃は、12歳前後。(この世界準拠。)
その少女は、凶悪なまでに目付きが悪かった。
そして、更に……。
「ぎゃあああああああ! あつ、あつ、熱いぃぃぃぃぃぃ~~!!」
そう、その少女は炎に包まれて、文字通りの『火だるま』となっていた。
「消火剤のポーション、出ろおおおおぉ~~!!」
「超特大ウォーター・ボ~~ルっっ!!」
「きゃあああああ! み、みず、みずううううぅ~~!!」
どっぱ~~ん!!
そして目付きの悪い少女は、大量の水に押し流されて、どこかへと消えていったのであった……。
本話数の最後の部分に、一瞬(数秒)だけではありますが、登場人物が炎に巻かれるシーンがあります。
こんな時に、と思われる方もおられるかもしれませんが、こういう状態になることを示した部分は既に3週間前に記述・発表しており、おかしな意図や他意があってのものではないということは、読者の皆様にはお分かりいただけていることと思います。
また、3週間前に書かれた『炎による危機』を無事乗り越え、一瞬で助かるという旨の記述であること、一流クリエイターであった方々は作品の流れを無理に変えてのおかしな忖度は望まれないであろうと思うことから、この物語の展開、この作品として最も自然な流れとして、ずっと以前から決めていた通りの進展としました。
御理解の程、よろしくお願い致します。




