140 王都へ 2
「想定1のC、ですね?」
「うん、多分ね。対処は、もしCじゃなかった場合に備えて、2番にしよう」
「分かりました!」
私が対処方法を伝えると、マリアルが呼子笛を吹いた。
そして、馬車がやや速度を落とし、護衛の騎馬が間隔を詰めた。犬達も馬車の近くに集まり、そして鳥たちが次々と扉を開けられた馬車の中へと飛び込んできた。
「はい、無理せずに、自分が確実に運べるやつを選んでね」
そう言って私が出した、『鳥が足で掴みやすいよう取っ手が付いた、様々な大きさのガラス球や柔らかそうな薄膜の球体』の中から自分でそれぞれ選び、しっかりと取っ手部分を足で掴んで飛び立つ鳥たち。
うん、何度も繰り返し練習したから、危なげない離陸だ。
よ~し、いってみよ~!
「止まれ~! 止まらないと、皆殺しに……」
どどどどど、ずばっ!
あ~、フランセットが突っ込んで、何やら警告か口上を述べようとした盗賊達の先頭の者を一刀の下に……。
ま、殺害予告があったから、盗賊確定で正当防衛なので、問題ない。
「て、てめぇ……」
どしゅ!
「な! は、話を……」
ずしゃ!
「は、話を聞いて……」
どす ぶしゅ ばしゅ!
あ、ロランドとエミール、それに子爵家の護衛達も加わった。入れ食い状態……、って、ちょっと違うか。とにかく、次々と一方的に斬り捨てられる盗賊達。実力が違いすぎる……。
「は、話が、話が違う! 待って、待ってくれえぇ!!」
ずば どしゅ ぶしゅっ!
20人以上いた盗賊達が、既に半数近くまで数を減らしていた。
そして……。
「逃げるぞ! 撤退! 撤退いいぃ~~!!」
そう叫んだ、盗賊達の親玉らしき男。
……しかし、回り込まれた。
「逃がすか! ふふ。ふふふふふふふ……」
フランセット、それじゃ、悪役だよ……。
『動いたよ!』
鳥軍からの伝令が来た。目立たない、地味な色の小鳥である。
「よし、攻撃開始!」
『わかった!』
そう返事して、元気に飛び去る伝令の小鳥。
よし、じゃあ、さっさと終わらせるか。
「みんな~、残りの半分くらいは捕虜にしてよ~! 盗賊の皆さ~ん、抵抗する人は殺して、素直に投降する人は捕らえることにしたから、好きな方を選んで下さ~い!!」
がしゃがしゃがしゃん!
ありゃ、残っていた盗賊全員が、一斉に武器を捨てちゃったよ。根性ないなぁ……。
そして、その頃。
どん、どん、どぉん!
「「「「「「うわああああぁっっ!!」」」」」」
待機が終わり、出番がきたため急いで進もうとした1個小隊の歩兵と十数騎の騎兵達は、目の前の地面が突然爆ぜ、棒立ちになったり急に針路を変えたりした馬達によって大混乱に陥った。そう、上空から『ニトログリセリンのようなもの』が入ったガラス球が投下されたのである。
そして、更に……。
ぱしゃ
ぱしゃん、ぱしゃぱしゃ……
何やら、兵士達に柔らかいものが当たり。
「「「「「「ぐげええええぇ~~!!」」」」」」
とんでもない悪臭が、周りに広がった。
吐きまくる兵士。
半狂乱になり、臭いの元である兵士を背から振り落とそうとして暴れまくる馬。
『とんでもない悪臭を放つ液体が入った、薄い膜状の容器、取っ手付き』を急降下爆撃により次々と兵士達に命中させた鳥たちは、投下と共に機体を引き起こし、再び高度を取った。そして爆撃の成果を確認し、飛び去っていったのである。
暴れる馬を宥めることもできず、そしてこの悪臭を放ちながらでは目標に近付くこともできない。
もし無理に近付くと、向こうの馬達が暴れ出し、自分達が襲撃者だと思われても仕方がないであろうし、そもそもこのような悪臭を放ちながら近付かせて貰えるとも思えない。
そんなもの、悪意以外の何ものでもないであろう。
そして、目標が接近してきた時、そんな怪しさ大爆発の自分達が街道上に停止し、道を塞いでいたとしたら……。
敵と認識されるのは、ほぼ確実であろう。とても、話を聞いて貰えたり、一緒に行動することを許可して貰えるとは思えない。
そして、国王陛下の使いというわけでもないのに、貴族に対して一方的に命令することなど、他の貴族家の私兵に過ぎない自分達に許されるはずもない。それこそ、悪意ある襲撃者だと断定されて即座に攻撃を受けてもおかしくない行為である。
「くそっ、いったい、何だというのだ! わけの分からない命令に、わけの分からない爆発、わけの分からない鳥、そしてわけの分からない、この酷い悪臭の鳥の糞……。
貴族の一行を襲う盗賊を、殺したり怪我をさせたりせずに追い払い、一行を王都まで護衛せよ、って、つまりそれは、アレだよな、『自演』ってやつ……。そんな悪事を企むから、女神の御不興を……、って、まさか!」
すうっ、と顔から血の気が引いたように蒼褪める指揮官。
そう、女神セレスティーヌの御不興を買った者の末路は、子供の頃から何度も聞かされている。『神話』ではなく、『実話』として……。
そしてこの指揮官も、つい最近、とある街の貴族家にて起きたという女神の奇跡の噂話は聞いていた。
今回の命令においては、それに関連する話は一切聞かされていないため、まさかその件と関係があるなどとは考えもしていなかったが、苛立ち半分でつい口に出た『女神の御不興』という言葉が、貴族、鳥、人智を越えた不可解な出来事、というキーワードと共に、最悪の事態を脳裏に浮かばせたのである。
「鳥貴族……。い、いかん! 作戦中止いぃ! 街道から離れるぞ、急げ! 街道から見えない位置まで移動する!!」
慌てて指揮官が声を張り上げ、皆が急いで街道から外れ、草地を林の方へと移動し始めた。嫌がる馬を何とか無理矢理引っ張って……。
* *
『前方の人間達は、道を外れて退避しました』
「ありがと。じゃ、こっちにちょっかいをかける様子がないか、引き続き監視をお願いね」
『御意』
今回の伝令役は、ちょっと身体の大きな鳥。私からの具体的な指示があるかも、ということで、脳の容量が大きな、……つまり、頭のいい者が派遣されたのかな。単純な伝言だけではなく、少し複雑な指示も理解できるよう……、って、鳥、頭良すぎイィ! 『鳥頭』じゃないのかよ!
やはりこれも、『あらゆる言語を~』という能力を可能にするため、セレスが一時的に、無理矢理知能を……、考えちゃ駄目だ、考えちゃ駄目だ!
「お嬢様、前方の兵士らしき者達は道を空けたようです。このまま手出しせず私達を通過させる確率、70パーセント。姿を現し接触を図る確率、20パーセント。襲い掛かる確率は10パーセント以下だと思われます」
「そうですか……。では、このまま進みましょう」
私の適当な報告に頷き、マリアルがそう決断した。そしてベルがマリアルの言葉を御者に伝え、更に御者から呼子笛の合図によって他の馬車や護衛達に伝達されて、出発の準備が始まった。
生きたまま捕らえた盗賊達8人は、既に縛り上げて馬車の中。
食料や飼い葉、その他消耗品をかなり消費しているし、商隊の馬車じゃあるまいし、貴族の移動のための馬車が、そうギチギチに荷物を詰め込んでいるわけがない。お付きの者や護衛達が乗る馬車にもそれなりの余裕があり、8人くらいは乗せられる。……その連中の乗り心地など考慮してやる必要もないし。
今、この馬車に乗っているのは、5人。
私、マリアル、ベル、レイエットちゃん、……そして盗賊がひとり。
そう、盗賊達のうちのひとりは、今、私達の馬車にいる。
「さぁ、楽しい質疑応答の時間だよ!」
1月9日(水)、講談社のKラノベブックスから、拙作、『ポーション頼みで生き延びます!』と『老後に備えて異世界で8万枚の金貨を貯めます』の書籍それぞれ第4巻と、コミックスそれぞれ第3巻の、4冊同時刊行です!(^^)/
第2回FUNA祭り、よろしくお願い致します。
特に、日曜までに買って戴けますと、オリコンの売り上げ冊数にカウントされるので、憧れのオリコンのランキングに載れる可能性ががが!(^^)/
そして、日々締め切りに追われて酷使されている身体を休めるため、年末年始休暇を取らせて戴きます。
来週と再来週、2週間のお休みです。
連載再開は、1月7日(月)からとなる予定です。
よろしくお願い致します。
……まぁ、実際には、その間に書籍化作業とか病院とか歯医者とか献呈本の封筒の宛名書きとか税理データの入力作業とか、色々やるんですけどね……。〇| ̄|_




