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129 面倒事 5

 一流の諜報員並みの手際の良さで、もしかするといたかも知れない見張りをく行動を取ったマリアル。

「ま、そこまでやったのなら、今回は安心かな。

 でも、続けてやると危ないかも。次に私に連絡したい時には、なるべく下働きっぽくて大事な用事は任せられないっぽい若いメイドの子に、何か買い物に来させてね」

「は、はい」


 自分達も女神様とのコネを得ようと、マリアルがまた御使い様と接触するのではないかと思い見張りを付けている勢力があるという可能性は、否定できない。そして、数回やれば、自分達が撒かれている、ということに気付くだろう。

 撒かれている、と気付かれた時点で、アウトだ。

 それはつまり、『見張りがいることを想定しており、そしてそれを撒かねばならない』ということであり、バレてはならないことをしている、と自白したも同然だからね。

 プロにそう思われた時点で、詰みだ。

 プロが人員と手間とお金を惜しまずに本気で追跡する気になれば、素人の小娘が少々頑張ったところで、どうにもなるまい。


 なので、大事なのは、『そもそも、疑いを抱かせない』ということだ。

 だから、腹心の配下ではなく、あえて下働きの若い娘を使う。手紙を届けるだけならば、『決して裏切らない』ということが確実であれば、それで充分だ。

 そして、この世界には、女神を裏切る者はいないだろう。……少なくとも、過去のセレスの行状を知っているならば。

 うん、ま、そういうことだ。


 その後マリアルから聞いた話は、概ね薬師の弟子、タオナから聞いた通り。レイフェル子爵家の者は一切の情報を漏らしていないから、特に新情報という程のものはない。

 後は、王宮からの、手の者か……。

「王宮からの手の者は、始末致しましょうか?」

 ぶはっ!

 い、いったい、どこからそんな話に……。

「女神様の周りを嗅ぎ回るなど、冒涜ぼうとくにして神敵。お命じ戴ければ、今夜にでも……」


 いや。

 いやいや。

 いやいやいやいやいや!

 いったい、どうしちゃったのかな、マリアルさん!


「心配は御無用です。如何にも国の使者として行動しているかの如き言動をしていましたが、巧妙に言葉を選んでおりました。あれは、王宮関係の者の指示で動いてはいても、国からの正式な命令ではなく、誰か個人的に動いている者の手下でしょう。

 なので、もし行方不明になったところで、その事件を調査されて、その者達が国の指示で動いているかのように見せかけていたこと、そして誰がそれを指示したかということがおおやけになると困る人がいるでしょうから、握り潰されて事件にはならないでしょう……」


 ふむ、タオナと同じ分析結果か。さすが、切れる者同士。同じ情報を分析すれば、同じ答えに辿り着くか……。

 しかし、その対処法が怖いわ!


「始末って、例の、『暗部』とやらに依頼でもするの?」

 暗部。マリアルの家族の命を奪った、非合法の、闇の組織……。

「いえ、暗部はほぼ壊滅しましたから。今は、僅かに残った残党狩りの段階です。残っているのは雑魚ばかりなので、もう完全に無力化されています」

 え?

「ど、どどど、どうやって……」

 マリアルが、両親と兄の命を奪った暗部を憎むのは分かる。

 しかし、寄親である伯爵家でもどうしようもなかった、半分地下に潜った秘密組織を、いったい、どうやって……。

 ふふふ、と微笑むマリアルが、ちょっと怖いよ。

 同席しているフランセットでさえ、ちょっと引いてるじゃん……。

 もしかして、アレか? エミールとベル、そしてフランセットと同じパターンか?


「領軍を使いました」

「え?」

 そんなはずがない。

 ここは、レイフェル子爵領ではない。そこに隣接した、寄親であるマスリウス伯爵の領地だ。

 レイフェル子爵領は小さな領地で大した街があるわけではないので、勿論領都(というのも恥ずかしいくらいの、田舎町)に子爵邸があるものの、年の内のかなりの期間をマスリウス伯爵領にある別邸で暮らすと聞いている。そして今も、そのマスリウス伯爵領にある別邸に滞在している期間であった。

 その方が生活しやすいし、政治的な活動には便利だかららしい。自領は小さな領地なので、信頼の置ける家臣に任せておけば心配ないらしい。領地が隣接しており、領都同士が割と近くなので、伯爵領に滞在している期間でもたまに様子を見に行けるし、大事な案件がある時は、家臣の使いや、家臣本人がやってくるから問題ないとか。


 で、何が言いたいかというと。

 他領で、自分の領地の兵を自由に動かせるはずがない。それも、格上である寄親の領地内で。

 それに、伯爵が手出しできなくて放置状態であったという暗部を、子爵家の領軍の一部を使っただけで、こんなに早く壊滅させられるわけがない。

 絶対、おかしい。

 ……でも、何か怖いので、それ以上聞くのはやめた。




 その後も色々とマリアルから話を聞いて、その後、解散。

 王宮からの手の者や、その他の間者達に私との接触を悟られないよう、マリアル自身はもうここには来ないように、と言うと、世界の終わりみたいな顔をしていたけれど、それは仕方ないだろう。

 奴らを殲滅すれば……、とかいう危険な言葉が聞こえたような気がしたけれど、小さなことは気にしない。精神衛生上、よくないからね。どうせ、考えても無駄だし。


「で、どうするのですか、カオルちゃん……」

 マリアルが帰った後、フランセットがそう尋ねてきたが、そんなの決まってる。

「別に、何も?」

「え……」

 そう、わざわざこっちから動く必要はない。

「私は、ただの美少女商店主なんだから、何も気にする必要はないでしょう?」

「「「「…………」」」」

 フランセットとベル、そして隣室からやってきたロランドとエミール!

 どうしてそこで、私を見詰めて黙り込むんだよ!!

 私の味方は、レイエットちゃんだけだよ! くそ……。


「とにかく、私と、様々な件との関連性は一切なし。バルモア王国の御使い様とは髪の色も瞳の色も違うし、ポーションも売っていない。営業時間と品揃えが少し変わっているだけの、ただの雑貨店の店主に過ぎないからね」

「そ、それはまぁ、そうですけど……」

 そう言うフランセットは、納得していない様子。

 ま、王宮からの使いが、そう簡単に誤魔化せたり引き下がらせたりできるとは思えないのだろう。


「まぁ、ここは王都からは少し離れているから、何かあっても、連中がここから王都に戻って雇い主に報告して、対応を考えて、またここへやってきて、というだけで、何日もかかるでしょ。伝わる情報も、連絡に行った者が伝える情報しかないから、一部の情報からその者達が勝手な憶測で尾ひれをくっつけた不正確なものが伝わるだけだし。

 それに、もし何かあったとしても、王都に連絡がいって、対応するための者がここへ来る前に、さっさと移動しちゃえば済むことだし。ここから海岸線沿いに進めば、王都に連絡が届いて、使いの者か追っ手か何かがやってくるまでに、楽々東側の国境線を越えられるよね? こっちは騎馬と軽量高速型の特製馬車(チャリオット)なんだから」


 アイテムボックスのおかげで、店の撤収作業には数分しかかからない。エド達は、ポーションでドーピングできる。そして特製馬車(チャリオット)をアイテムボックスに入れたり出したりすることによって、『騎馬5頭の一団』と『馬車1台、護衛の騎馬4頭の一団』と構成を変えることで追っ手の目を誤魔化し、混乱させることができる。

 うむ、完璧である!


「いやぁ、王都じゃなくて、海辺の街にしてよかったなぁ。王都だと半日で進むイベントが、ここだと半月とか一カ月とかかかるから、のんびりできるよ」

 決定権を持っている権力者から物理的な距離がある、ということは、それだけで大きな防壁になる。ま、地方都市だと人口が少ないから商売の稼ぎは少なくなるけど、それは私にはどうでもいいことだからね。海辺の街は魚介類が新鮮で美味しいし。

 ……いくら状態維持のアイテムボックスがあっても、買った時点で日が経っていたら、意味がないからね。


 さて、あとは、王宮(の関係者のひとり)からの手の者を、うまくあしらうのみ!

 髪と瞳の色変え、よし! 黒のウィッグ、よし! フランセットに対する『呼ぶまでは絶対に2階から下りてくるな。私達が客を連れて2階に上がっても、呼ぶまでは自分の部屋で待機しているように』との強い念押し、よし!

 手の者撃退の、準備はできた!



更新日が月曜に移籍した、無料webコミック誌「水曜日のシリウス」連載の『ポーション頼みで生き延びます!』、移籍後第1回更新は、10月1日でした。

それとは別に、「お気に入り登録10万件記念イラスト」も更新1回分として投稿されているため、どちらかひとつを見ただけで、もう片方を読まずに飛ばしてしまうことのないよう、御注意を。

もう1~2話、遡って読んで下さい。(^^)/


当初、記念イラストが最新話になっていて更新話数に気付かず読まない人がいたり、更に、そのふたつの間に宣伝ページが挟まる時間帯もあったりして、今現在、どういう順番になっているか……。(^^ゞ)

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― 新着の感想 ―
領軍って、やっぱワン!ワン!とかカー!カー!とかいう軍隊だよね。種類も増えてそうだけど。
タオナやマリアル2人とも切れますね〜、ちなみにマリアルの領軍はアニマル軍団の事では?空軍、打撃部隊、誘導部隊、色々取り揃えてございます?
[一言] フランセットへの念押しが現場ネコ懸案な件
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