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127 面倒事 3

 よしよし、これで、この連中を咬み合わせて、と……。

「まず、一緒に行動していた仲間を裏切るような人とは、安心して取引できませんよね。いつ私も裏切られるか、分かったものじゃないですから……」

「なっ!」

 驚愕に眼を見開いたエレクディルさんと、そら見たことかと、薄ら笑いを浮かべた3人の商人達。

 次に……。


「そして、商人なのに、取引や言葉ではなく、暴力に訴えたあなたも、ちょっと……。

 自分に有利な契約を強要するために暴力を振るわれたのでは、ただの小娘に過ぎない私にはどうしようもありませんので……」

「なっ……」

 先程、エレクディルさんの襟首に掴み掛かった『マンティコア屋』さんの方を向いてそう言うと、同じく、信じられない言葉を聞いたかのように眼を見開き、絶句する『マンティコア屋』と名乗った商人さん。

 どうして驚くのか、そっちの方が不思議だ。

 新規取引を望む相手の前で、暴力で同業者を押さえつけようとする姿を見せておいて、非力な女性が安心して取引に応じるとでも思っていたのだろうか。


 そして、お前のせいだ、と言わんばかりの、殺人光線(ビーム)が放たれそうな眼でエレクディルさんを睨み付ける、『マンティコア屋』さん。残りふたりの顔には、笑みが浮かんでいる。

 よし、次に……。

「さて、どの方と取引をすれば良いのやら……」


 ギンッッ!!


 うむうむ、闘気が噴き出してるねぇ、おふたりさん……。

 ここで……。

「何か、空気が悪くて、怖いです……。どうも、取引のお話ができそうな雰囲気じゃないので、今日のところはお引き取り戴いていいですか? 皆さんの間でのお話は私には関係がないですし、何だか怖いので……。

 また、皆さんの間でお話が纏まりましたら、その時におひとりで来て戴けましたら……」


 商人達は互いに顔を見合わせた後、これ以上ここで揉めても状況は良くならないと判断したのか、いったん撤収することにした様子。

「……では、また、明日参りますので……」

 そう言って、商人達は引き揚げていった。

 いや、もう来なくていいけど。

 ま、とにかく、今日はこの辺で勘弁しといたろか、というヤツだ。

 どうせ、明日また来るのだろうけど、その時は、多分ひとりだろう。利権を独り占め、とかは、他の3人が許容するはずがないから、取引の代表とでもいうような形にして、他の3人にも商品を分配する、というような形かな。


 でも、いったいどんな商品を仕入れるつもりなのかなぁ。こんな地方都市で仕入れて、わざわざ輸送費や護衛の依頼料とかを払って王都まで運びたいというような商品って……。

 いや、私は自分が『御使い様』だなんてひと言も言っていないし、たとえそうであったとしても、ポーションを販売するなんて言っていない。そもそも、自分の店でも売っていないような物を、どうして他の商人に売ると思うのだろうか?

 とにかく、代表になった商人には、私が焼いたクッキー、エミールが作った木彫りの動物、そしてベルが作った竹細工あたりを勧めてみよう。うちの店では、一番お買い得の商品だ。材料費が安いから、格安なんだよね。

 フランセットも、細工物に挑戦したんだけどね。

 ……うん、フランセットは、剣の鍛錬に専念しようね。


     *     *


「失礼致します!」

 翌日、朝の部の営業時間が終わる前にやってきたのは、昨日の商人達のうちのひとり。掴み合いに加わらなかったふたりのうちの、『角うさぎ(ホーン・ラビット)』とかいうお店じゃない方の人。確か、昨日は店の名前を聞いていないな。


「ソルカス商会の、ラトンと申します」

 うん、交渉担当はこの人になったか。

 まぁ、抜け駆けの人と暴力の人は私が忌避すると思っただろうから、選択肢はふたつしかなかっただろうけどね。

「では、2階へどうぞ」

 さっさと入り口の扉に閉店の札を掛けて、鍵を掛けて、2階へ御案内。

 今回も、同室しているのはフランセットだけだ。フランセットが、私が他の人と会うのに立ち会わないはずがない。いつ、何があるか分かりませんから、とか言って。

 まぁ、確かにその通りなので、好きにして貰っている。


「……で、結局、この店で買いたい品物というのは……」

「勿論、ポーションです! あの、バルモア王国で販売されていたという、伝説のポーションを!」

 やっぱりねぇ……。でも。

「え、液状薬ポーションですか? 今、うちで扱っている液状の薬は、のどの薬と傷薬の2種類ですね。どちらも、小瓶で銀貨1枚ですけど……」

「え? そ、それは、奇跡的な効き目がある、女神の加護を受けた魔法の薬では……」

「いえ、ただの、普通の薬ですけど? 薬師さんのところで買うのと大差ない効き目で、値段も同じにしてあります。多分、王都の薬師さんのところで買った方が、値段も安くてお得だと思いますよ」

「…………」

 おや、何だか、お困りの御様子。


「あ、あの、御使い様がバルモア王国で売っておられたものは……」

 いつまでもとぼけていないで、さっさと本命を出してくれ、とでも言いたそうな、ラトンさん。そうは言われてもねぇ……。


「あの、そもそも、その『御使い様』というのは、何のことですか? そして、こんな小さな店にそんなに固執される理由は……」

「え? いやいや、お隠しになられる必要はございません。私共は、全て承知致しておりますので……。バルモア王国で御使い様として活動されておられましたこと、そしてドリヴェル男爵家の長子をお救いになり、レイフェル子爵家にお力をお貸しになられたこと等、全て承知しております。

 そして、御使い様のおしるし、その黒髪と黒瞳が、何よりの証拠……」

 よし、来た! ここだ!!


「え? 私、その『御使い様』とかじゃありませんよ? 女神に誓ってもいいです」

「え?」

 ぽかんとした顔の、商人さん。

 そりゃまぁ、女神の御使いだと確信していた相手が、自分は御使い様じゃない、ということを女神に誓われては、驚くのも無理はないか。

 でも、私、この世界に転生した最初から、ずっと否定しているんだよねぇ、私は『御使い様』とかじゃないって。いくら否定してもその名で呼ぶ人がいなくならないから、もう諦めて、最近は必死で否定するのをやめちゃったけど、今まで自分からそう名乗ったことはないんだよねぇ。だから、決して嘘じゃない。

 そして、トドメに……。


「それに、私、黒髪黒瞳とかじゃないですよ。瞳はちょっと黒っぽいかも知れませんけど、茶色ですよ。ほら、よく見て下さい」

 そう言って顔を近付けると、商人さんが眼を見開いてまじまじと私の瞳を覗き込んだ。

「……本当だ……。黒どころか、濃い黒茶ですらない。薄茶色ヘーゼルってとこだ……」

 愕然とした様子の、商人さん。

 ここで、更に駄目押しを。


「そして、髪の毛なんですけど……」

 おもむろに頭髪を掴んで、ウィッグを取った。

「このように、これはお洒落として着けているウィッグ、つまり人工の付け毛であり、カツラの一種です。私の地毛は、この通り、茶色で……」

 あ、石化した。

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