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123 籠城戦 9

「傭兵か! しかし、ふたり増えたぐらいで、何が変わるもんか! ……そうか、お前達が村の奴らに余計なことを吹き込んだんだな? くそ、もう、こんな村、どうだっていい! 皆殺しにしてやる! そうすりゃ、次の村の連中も、おとなしく言うことを聞くだろうぜ!

 自分達の愚かな行為のせいで村が全滅する様を見て、後悔するがいい!」


 手下の半数が倒されて怒り心頭の頭目は、最早もはやこの村から長期的に搾取するつもりはなくなったらしい。皆殺しにしてありったけの物を奪い、その後、寄生する他の村へ移動するつもりらしかった。

 ……そりゃ、まともに戦いもせずに、搦め手で仲間の半数を殺された相手なんか、危なくて寄生先にできるはずがないか。いつ、また寝首を掻かれるか、分かったもんじゃないからねぇ。

 一度、『盗賊なんか、簡単に殺せる』と知った村人達が、理不尽な要求に、いつまでも我慢しているはずがない。それも、自分達の被害ゼロで、半数を殺せた相手などに……。


 そして始まる、剣戟けんげきの響き~!

 って、片方は剣じゃないから、打ち合いの響きはないか。

 柵を背後にして剣を振りかぶった盗賊達と、腰を落とした低い姿勢で竹槍を構えた、村人達。

 盗賊達はバラバラで統制の取れていない位置取りだけど、村人達は、互いの間隔を狭く取り、半円状に盗賊達を取り囲んでいる。ファランクス・シフトってやつ? 盾は持っていないけど。


 急に側方や後方からの奇襲を受けたり、騎兵に襲い掛かられたりすると弱点を晒すことのあるファランクス・シフトも、伏兵がいる可能性がない今は、弱点のない無敵の陣形だ。

 万一盗賊達に予備兵力があったとしても、それらが現れるのは柵の向こう側であり、村人達が奇襲を受けることはあり得ない。

 そして、まともに剣の鍛錬をしたわけでもなく、碌に手入れもされていない安物のナマクラの剣では、竹をすっぱり切断、などということが簡単にできようはずもない。


 盗賊達が、狩りの獲物は、相手ではなく自分達の方だと気付いた時には、もう遅かった。後ろを柵に遮られた狭い空間に閉じ込められ、追い詰められた盗賊達は、既に密集した槍衾やりぶすまの間を抜けることもできず、突き出された竹槍の前で、どうしようもなく追い詰められていた。


「くそがああああぁ~~っっ!」

 竹槍を剣で跳ね上げて村人に襲い掛かろうとした盗賊のひとりは、左右から突き出された竹槍に貫かれた。

 うまく竹槍をかいくぐろうとした者も、竹槍を持った村人の間に割り込んだ者が振り下ろした三つ叉の鍬に脳天を貫かれた。

 竹槍を持った者達の斜め後ろには、接近してきた盗賊に振り下ろすための農具を手にした者達がピッタリとくっつくようにして待機している。

 それらの農具は剣よりリーチが長いし、剣は腕を伸ばしきった状態で差し出していては、攻撃できない。もっと近付いて、間合いを詰めなければ。それに対して、鍬は、手を伸ばした状態で振り下ろせる。


 焦った数人の盗賊が、逃げ出すべく柵を突っ切ろうと振り返ったが、既に出入り口から回り込んだ村人達が柵の外側から竹槍を構えて並んでいた。

 中には女や子供も交じっているが、狭い柵の隙間をくぐろうとして、けることも剣を振ることもできない状態の相手に向かって、握り締めた竹槍を突き出すだけの、簡単なお仕事だ、何の問題もない。

 ……詰んだ。

 しかし、30人近くもの手下がいた、あの名高き盗賊団『災厄の獣』が、村人如きに、しかもひとりの敵も倒すことなく壊滅させられるなど、頭目には我慢ならなかったらしい。怒りの奇声を張り上げて竹槍の包囲を突破しようとしたようであるが、ここが勝負どころだと正しく認識したらしい村人達の全力攻撃を受け、何本もの竹槍に身体を貫かれ、そして多くの鍬をその身体に受けて、怨嗟の呻きと共に地に沈んだ。

 そして数人の盗賊がそれに続いた後、残った盗賊達は武器を捨てて降伏した。


 死罪というものが割と少ないこの地方では、盗賊であっても、降伏した商隊も皆殺しにするとかの余程悪質な者達以外は、終身奴隷で済む場合が多い。

 過酷な鉱山奴隷としてあまり長生きはできないかも知れないが、それでも、この場で殺されるよりはマシである。運が良ければ、模範囚として、途中でもっと楽で安全な職場に変えて貰える可能性もあり、そうすれば平均寿命まで、いや、粗食で健康的な生活をしているだけに、それ以上の長生きをすることさえあり得るらしい。


 この盗賊団は割と悪質な方らしかったが、問答無用で死罪になったであろう頭目、副頭目、そして盗賊団の作戦計画を担当していた参謀役の男は、既に皆、死んでいる。ならば、残った雑魚連中は、捕らえられても生き延びられる確率は、決してそう低くはないだろう。


 降伏した盗賊達を全て捕らえ、縛り上げた後、突っ立ったままでしばらく呆けていた村人達。

 しかし、しだいにその顔に表情が戻り、声が上がり始めた。歓喜の声が……。

 笑い声と泣き声が交じった喧噪けんそうの中で、私はフランセットとエミールに手伝って貰いながら、地道に作業を続けていた。

 うん、倒れている中で、まだ生きている盗賊達にポーションを飲ませて、治癒して廻っているんだ。飲めない状態だったり、毒ではないかと怪しんで飲もうとしない者には、傷口にぶっかける。

 勝敗が決したならば、無駄に死人を増やす必要はないからね。


 決して、甘い顔を見せるわけじゃない。ちゃんと街の衛兵に突き出して、罪に応じた罰を受けて貰う。盗賊を捕らえるのに『生死不問』であるならば、生きて捕らえたならば、生きたまま突き出せばいい。わざわざ殺してから引き渡すこともないだろう。

 ……それに、死んでいたら、死体が腐ったりウジが湧いたりして、色々と面倒だ。

 でも、それよりも心配だったのが、このままだと、今回も、そしてこれからも、村人達が降伏した者や負傷者達を全員殺そうとするんじゃないかということだ。

 今までの経緯いきさつや、過去に何度か盗賊達の略奪を受けた経験から、村人達がそういう行動に出る可能性は、皆無じゃなかった。

 でも、村人達が無慈悲な殺人者集団になったり、正義を掲げて盗賊達を殺して廻る怪しげな人達になるのも、気持ち悪い。自衛のためなら容赦はしないけれど、敢えて血を求めることはない。そういう節度をわきまえて貰うためには、私達が今、それを示しておく必要があった。


 そして更に、何よりも重要なことがある。

 生きたまま盗賊を衛兵に引き渡せば、懸賞金だけでなく、犯罪奴隷として売った代金の半分を貰えるのだ!

 ……あ、今までの話が台無しですか、そうですか……。


 ……で、生きてる盗賊達を縛り、危なそうな者には傷口に治癒ポーションを振りかけたりしていると、村の若い衆が慌てて駆け寄ってきた。

とどめなら、我々が!」

 ほらぁ!


     *     *


「……というわけで、戦いにおいては手加減する必要はないけれど、生きたまま捕らえた場合には、ちゃんとそのまま警吏に引き渡すように!

 でないと、降伏しても皆殺しになると思われて、誰も降伏しなくなります。そうすると、無駄にこちら側の被害が増えて、余計な死者や重傷者が出るだけです。犯罪奴隷の代金も貰えなくなりますし……」


 うん、説明したら、ちゃんと分かってくれたらしい。やはり、みんな一時的にハイになっていただけで、別に血に飢えた農民達というわけではなかったようだ。やれやれ……。


 結局、生きたまま捕らえた人数は、最後に降伏した者達以外は、ごく僅かしかいなかった。

 切れ味の悪い剣で防具の上からぶっ叩くのであれば、骨折や内臓破裂等で、致命傷で済んだかも知れない。……いや、致命傷ではあっても、即死ではない、という意味だ、うん。

 でも、さすがに竹槍を何本もぶっ刺されたのでは、大半の者が1分も保たずに死んでしまったらしい。盗賊がフルプレートアーマーなんか着けているはずもなし……。

 あー、まー、仕方ないよねぇ。アーマーだけに……、って、うるさいわ!


「本当に、ありがとうございました! この御恩は、一生忘れませんじゃ!」

 ……うん、そう長い期間じゃなさそうだな、その、村長の『一生』とやらは……。

 結局、フランセットとロランド、エミールは、いつでも村人達の危機を救えるようにと、剣の柄に手をやったままずっと緊張して戦いの推移を凝視していたが、幸いにも、出番が来ることはなかった。


 元々、村人達だけで何とかして貰う予定だったのだから、出番が無くて当然、もし出番があったなら、それは『村人だけでは、盗賊達には到底太刀打ちできない』ってことだ。それならば、今回はフランセット達に対処させて、次からは諦めてね、としか言い様がない。

 でも、村人達、そして老人達は、やり遂げた。

 次回……、もし次回があれば、今度は私達抜き、万一のためのバックアップも、便利なテッコンも無しで、うまくやれるのか。そして、本当に自分達だけでやる気概があるのか。もし失敗したら、き付けた私達の責任が……。


 って、そんなの、知らん!

 今回は、頼まれたから、手伝った。それ以上でも、それ以下でもない。先のことまで、責任取れるか! あとは、自分達で頑張れ!

 私は、遠くから生暖かく見守っている。……関与はしない。

 そんなの、世界中の農村や山村や漁村を全部護ったり、できるかぁ!


 よし、村人達が宴会の準備を始めたな。腹一杯喰って、引き揚げよう。

 孟宗竹もうそうちくみたいなのの先端部を炒めたやつとか、キクラゲっぽいやつとか、結構旨かったんだよね、この村の料理……。

 出番の無かったフランセット達も、別に不機嫌なわけじゃない。今回は、自分達の出番があれば、それは良くないこと、というのをちゃんと理解しているからね。勿論、エミールも。ロランドは、言うまでもない。

 さて、それじゃ、レイエットちゃんとベルを回収するか……。



来週、再来週と、2週間、夏休暇を取らせて戴きます。

今までは、年末年始、GW、夏休暇はそれぞれ1週間だったのですが、1週間だと、休暇前の更新分の感想返し、休暇明けのアップ分、そして書籍化作業を行うため、実質休めるのは1日か2日だけだったのです。

そこで、今回から、各休暇は2週間にして、1週間分は今までと同じような諸作業にあて、残り1週間は、「小説を書くこと関連には一切使わず(読むのはアリ)、本当に休む」ということにしたいと思いまして……。

申し訳ありませんが、御理解の程、よろしくお願い致します。(^^)/

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― 新着の感想 ―
[一言] 国盗りの為の英雄崩れとか、敗戦から国に帰れなくなった敗残兵とか混ざってなくて良かった…… って、殺された頭領とか副頭領辺りはそうだったかもしれないか
[一言] 7人の侍、ただし参加せず 最初が大事だね
[一言] ついでにとんちんかん思い出した。ギャグマンガの。 時代劇の話で盗賊に襲われてた村。 通りすがりの風の抜三郎に盗賊退治を依頼。 だが、「次はどうするつもりだ?」と言い、 村人を鍛え、盗賊撃退。…
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