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114 その後・・・・・・

「……ということがありました」

 フランセットが、夕食の後で今までの顛末てんまつをロランドに説明していた。

 今後、もしこれ関連で何かが起きた時のために、情報は共有しておかねばならない。なので、これは必要な処置である。

「どうして私を仲間外れにした!」

 ……いくらロランドが怒ると分かってはいても。


「それは勿論、王族であるロランド様を他国の貴族家の問題に関わらせるわけにはいかないからです。万一、ロランド様の御身分が露見したり、御身分を明かす必要が生じたりした場合に、国際問題になりますから……」

「それを言うなら、フランセット、お前も我が国の貴族だろう! 国際問題になるという点では、大差あるまい!」


 あ~、やっぱり、そう反論するよなぁ……。いや、私だってそう突っ込むよ、多分。

 でも、フランセットは平然としている。

「その場合は、私が子爵位を返上し、『国を追放された、流浪の剣士』となれば済むことです。ロランド様には国にお帰り戴き、婚約も破棄ということに……」

「なっ! フラン、お前、そこまで……」

 国や家族、そして婚約者も捨て、国無しの流浪の身となってでも。その意気にロランドが感じ入っていると。

「そして、女神の守護騎士として、カオル様、レイエット、そしてベルと4人で、楽しい日々を……。ふふ、ふふふふふ……」

「なっ! 貴様、それが狙いか!!」

「俺が入ってないよ!!」

 だらしない顔で願望を垂れ流すフランセットに、怒りの声を上げるロランドと、抗議の声を上げるエミール。

 うん、そんなことだろうと思ったよ……。

 大体、神剣授与の救国の大英雄にして女神の寵愛を受けし若返りと復活の騎士、『鬼神フラン』を追放するような国があるもんか。そのあたりの国に戦争吹っ掛けてでも、フランセットの方を取るに決まってる。下手したら、ロランドより優先されるかも知れないぞ。いや、マジで……。


     *     *


「王宮からの使者の方がお見えです」

「お通ししなさい」

 遂に来た。王宮からの使者が……。

「大丈夫だ、陛下には私からも書簡を送っている。おそらく、ただの確認に過ぎないだろう」

 そう言って、寄親であるマスリウス伯爵が、心配するな、というような顔で私の方を見ておられます。両親が亡くなる前から、レイフェル家に、そして私に良くして下さる、頼りになる、そして尊敬すべきお方です。今日も、王宮からの使者が来るということを知り、心配して駆け付けて下さいました。両親亡き今、私にとっては父親のようなお方です。


 ……王宮からの使者。

 そう、両親と兄の死の真実と、叔父であるアラゴンの犯罪、そしてその処刑について私が国王陛下に宛てて送りました書状に対する、事情確認のための使者の来訪です。

 マスリウス伯爵からも状況説明の書簡を送って戴けたそうなので、あくまでも事実確認のための形式的なものに過ぎないだろう、とのことなのですが……。

 そして使者の方を応接室で迎え、早速事情説明なのですが、詳細は全て書状にてお知らせしてありますので、今更付け加えることもないのですが……。


「で、その、カルロスとかいう馬が連れてきた神馬や御使いのカラスや犬はどうしたのかね?」

「え? 勿論、皆、お帰りになりましたけど?」

 使者として来られたのは、何と伯爵位の方でした。てっきり、平民出の官吏か、せいぜいが下級貴族の三男か四男くらいの、無爵の文官あたりが来るものと思っておりましたのに……。

 そして、叔父、……いえ、アラゴンの犯罪行為については殆ど質問されることはなく、もっぱら質問事項は怪奇現象……と言うと失礼ですわね、『女神の奇跡』的な事柄に集中していますわ。

 これは、私が行いましたアラゴンに対する処分や、レイフェル家におけるゴタゴタには特に口を出すつもりはない、と考えて良さそうですわね。尤も、元々何か非難されるようなことがあるわけではありませんが。


 身内に現れた悪人を当主自らが討ち、正統な後継者が継いだ貴族家に下手な口出しをすれば、自分達の家にも口出しをしたり難癖をつけたりして何かを企むのではないかと心配した貴族達が団結して王家に敵対する可能性がありますから、有力貴族達と比較的良好な関係を保っている今の王家がそんな馬鹿な真似をするとは思えません。しかも、取り潰しても何の益も無い、弱小子爵家などに。

 そして、もしそんなことになれば、寄親であるマスリウス伯爵が黙っておられるとは思いませんし、それは王宮の方々も御存じのはず。

 ……つまり、我がレイフェル子爵家は安泰、のはずなのですが……。


「……で、最近、眼付きの悪い少女と出会ったりはしておらぬか?」

 え? いったい、何のお話でしょうか? あの方は優しそうな垂れ目でしたし。何か、顔が突っ張っているような、少し不自然な感じではありましたけど。

「いえ、別に、そのような方とは……」

「そ、そうか。では、何か、そ、そうじゃな、たとえば『女神の奇跡』を起こせる者とかは……」

「先程も申しました、カラスと犬、そして馬達の行動だけですね、不思議な出来事というのは」

「そうか……。では、その馬達に会わせて貰えるか?」

「え? あ、はい、それは構いませんが……」


 厩に御案内すると、すぐにカルロスと他の馬達が寄ってきました。

 元々馬達とは仲良しだったのですが、あの日以来、ますます仲良しになりました。

「カルロスとやら。此度こたびは大活躍であったそうだな。陛下も感心しておられたぞ!」

『ぶひん? ぶふー!』

 あっ、自分に向かって何やら馴れ馴れしく喋っている初対面の人間に対して、カルロスが鬱陶しそうに鼻息を吹きかけましたわ。

「うわっ!」

 あっ、少し、カルロスの鼻水が……。



 その後、他にも色々なことをお尋ねになりましたが、使者の方に私やレイフェル子爵家を責めるような言葉は一切無く、最後に国王陛下からのお言葉であるとして、『大儀であった。以後もお家を守り、領地と領民を守り、そして国に尽くすように』との言葉を伝えて、お帰りになりました。


「立派な態度であったぞ、マリアル! あのお言葉を伝えられたということは、お前の行為の正当性が全面的に認められ、陛下がマリアルをレイフェル子爵家の正統な後継者とお認めになっている、ということだ。いや、元々、それ以外の判断はあり得なかったのだがな。何にしても、良かった。

 さ、今日は使用人達に半日休暇と小遣い銭でも与えてやり、皆の働きをねぎらって、お前はゆっくりと休みなさい。事件から今まで、色々と心身共に多忙であり、疲れていることであろう。

 自分の体調管理も、貴族家当主としての義務、仕事のうちなのだ。少し休みなさい」

 そう言って、御自分がいると私がゆっくり休めないと思われたのか、伯爵もすぐにお帰りになりました。


     *     *


 伯爵がお帰りになった後、勧められた通りに、特別支給金として僅かばかりの小遣い銭を与え、今夜は門限までに戻ればいいと言って、警備の者を残し、皆に半日休暇を与えました。

 料理人にも休暇を与えましたので、居残っても夕食はありません。そう言うと、皆、苦笑しながら外出の準備を始めました。勿論、与えた小遣い銭は、多少豪華な夕食を摂っても充分な余裕がある金額です。いくら『僅かばかり』とは言っても、そんなに少額のわけがありません。弱小とはいえ、一応は貴族家、それも、男爵家ではなく、子爵家なのですからね、子爵家!

 さて、手が空きましたから、もう一度厩へ行って、カルロスのお相手でもしますか。


「カルロス! 色々とありがとう。全て、あなたのおかげです。あなたが神馬様のお嬢様のお世話をして神馬様に気に入られ、セレスティーヌ様のお友達の女神様に御紹介戴いたからこそ、復讐の成就と我がレイフェル子爵家の安泰がもたらされたのです。本当に、ありがとう……」

『ぶるる、ぶるるるる!』

「……女神様に、魔法のお薬でお前を人間の言葉が喋れるようにしようか、と言われた時に、断ってしまってごめんなさいね。お前には、それは必要ないと思ったの……」

『ぶひひん、ぶるぶる』

「だから……」


『ひひん、ぶひひ!』

ぶひ(そう)! ぶひひ(わたしを)ぶひひんひん(どうぶつのことばが)ぶるるぶひひん(しゃべれるように)ひひひんひんぶひひ(していただいたのです)!」

「だって、その方が便利ですものね。これで、他の馬や犬達ともお話ができますし、怪我や病気でやってきたカラスや野良い……、いえいえ、『自分で生計を立てている犬』の皆さんともお話ができて、御恩返しが確実に行えます。完璧です!」

『ぶひひ、ひひひんひん!』

「ひ~ん! ひひんぶひぶひ、ぶるるるる!」

『「ぶひひひひ!」』

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― 新着の感想 ―
女子爵様、そっちかよ!でも、切れ者だ。
レイフィト子爵はなかなか聡明な方ですね、自分が動物と意思疎通できれば更に色々と出来る手段が増えますからね〜、最も本人は意思の疎通(お喋り)が目的な気がします。
[一言] 女子爵様は、厩でぶひひんぶひひん言ってると噂になるから、注意(笑)
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