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104 牧 場

 今日は、お店は休んで、みんなでお出掛け。

 行き先は、郊外の牧場だ。そろそろ一度顔を出さないと、また怒られる。……エド達に。

 そういうわけで、6人揃って、お馬の稽古。


「エド、来たよ~!」

『おう、来たか~!』

『いらっしゃいませ』

『カオルおねーちゃん、角砂糖持ってない?』

 相も変わらぬ、エド一家。

「どう、ここでの暮らしは?」

『おぅ、嬢ちゃんが割増し料金払ってくれてるおかげでメシも特別食だし、自由に馬場や草原を走れるし、妻子と一緒にいられるから、大満足だぜ! 他の奴らからの嫉妬の眼が快感だぞ!』

「あはは……」


 隣では、ロランドとフランセットが、自分達の馬と親睦を深めている。

 あ、勿論、あの2頭もエド達と同じく、トウモロコシやニンジン、リンゴ、角砂糖等を加えた、特別食だ。角砂糖は、私が管理人に現物を渡しておいた。……少しくらいなら、ピンハネして自宅に持ち帰っても大目にみよう。転売とかじゃなく、自分の家族に与える程度ならね。

 ロランドもフランセットも、馬には入れ込むタイプらしく、たてがみを梳いてやったり、色々とスキンシップをしている。割増し料金の威力で、身体の手入れは万全なんだけど、それとこれとは別だよねぇ、やっぱり……。

 馬達が、『そうじゃねぇよ! もっと毛並みに沿って優しく、愛を込めて!!』とか言っているのは、通訳して伝えたりはせずに、内緒にしておこう……。


 そして、エミールとベルがそれぞれエドの奥さんと娘さんに乗ってそのあたりを軽く走り、エドには、レイエットちゃんを乗せた。

 エドより娘さんの方が小柄で乗りやすいかも知れないけれど、レイエットちゃんを乗せるには、やはり乗用馬としての経験が長いエドの方が安心だ。未熟な若手同士の組み合わせだと、どんな『思わぬミス』が起こるか分からないから、安心できない。

 そう言うと、エドも『さすが嬢ちゃん、分かってるなぁ……』とか言って、満足そうな顔をしていた。


 いつもは戦車(チャリオット)で移動するけれど、時には私が抱えてふたり乗りすることもあるし、これから先、万一の時にはレイエットちゃんだけで乗って貰うこともあるかも知れない。

 エドとレイエットちゃんにははっきりとそう言って、とにかく安全に、早く移動できる乗り方をマスターするように言っておいた。

 そして、エドが言いたいことを私がレイエットちゃんに通訳することで、私の時と同じく、レイエットちゃんも急速に腕を上げていった。


 その後、休憩を挟んで、今度はベルがレイエットちゃんとふたり乗りして脱出する訓練。

 うん、私がエドと共に現場に残って時間稼ぎ、その間にベルとレイエットちゃんを逃がす、という場合のための練習だ。

 ふたりは、「カオル様を置いて逃げるなど!」と憤慨していたが、『命令だ』と言うと、しぶしぶ訓練をしてくれた。

 いや、まぁ、実際には『時間稼ぎ』とかではなく、凄惨な蹂躙の場面をふたりに見せたくないだけなんだよねぇ、離脱させる理由は……。


「……で、エド、何が言いたいの?」

『え……』

「分かるよ、エドと私の仲じゃない。何か、頼み事か相談事があるんでしょ? 遠慮するような仲じゃなし、さっさと言ってよ、みんなと離れているうちに。

 ……まぁ、みんながいても、人間側にはヒヒンヒヒンとしか聞こえないんだけどね」

『嬢ちゃんにゃあ、敵わねぇなぁ……』

 そしてしばらく躊躇った後、エドが口を開いた。


『実は、この牧場に、気のいい爺さんがいるんだがよ。色々と面白い話を聞かせてくれたり、娘の話し相手になってくれたりして、ホント、いい爺さんなんだよ。

 で、その爺さんが日向(ひなた)ぼっこしているうちに眠っちまってな。……寝言を言ったんだ。「おのれ、御主人様の仇!」、「お嬢様、そいつが、そいつが下手人でございます!」ってな。その時、眼から涙がこぼれ落ちていた……』

 うむむ、馬の世話をする、下働きのお爺さんかな? 何やら、曰く付きの過去がありそうな……。


『俺達馬は、人間と違って、滅多に涙は流さねぇ。それは、余程のことがあった時だけなんだよ』

 ……って、『爺さん』って、馬の爺さんかよ!

 あ、『話を聞かせてくれたり』、とか、『話し相手に』とか言ってたな。そりゃ、馬か。


『で、その爺さん、もうすぐ処分されちまうんだよ。もう、乗馬としても馬車馬としても、そして農耕馬としても働けそうにないからな。

 ……でもな。でもな。何とかしてやりてぇんだよ! 思い残すことなく、満足して、笑顔で逝って欲しいんだよオォ!』


「……エド、気付いてる?」

『え、何をだ?』

「あんたが今、涙を流してる、って……」

 エドが、そこまでの思いで頼むなら、引き受けないわけにはいかない。

 何せ、エドは私の愛馬であり、友人であり、……そして、戦友だからね。

 よし、やるか!


「我が乗馬である、神馬エドよ。そなたの望み、叶えて遣わす。我と共に、不義を討つがよい!」

『へへぇ! ありがたき幸せ……』

『『我らも、御助力致しますぞ、エド殿!』』

 あ~、コイツら、女神である私にゴマをすりたいのか、もしくは、エドに気に入られて娘さんを、とか考えているんじゃあ……。

 ま、いいか。戦力は多いに越したことはない。

 これは私の乗馬であるエドの頼みなのだから、フランセットやロランド、そしてエミールとベルには手伝わせるわけにはいかない。エドの主人としての私の勝手な行動であり、無関係の者を危険に巻き込むわけにはいかないからね。

 でも、老馬のために自ら参加を申し出るなら、この2頭は仲間に入れてもいいか。どうせ出番があるわけじゃないから、危険はないし。単なる共犯者扱いというだけのことだ。

 だから……。

「分かった。じゃ、みんな、この話はロランドやフランセット達には内緒だから、怪しまれないように、一斉に笑うよ。いい? せ~の!」

『『『ブヒヒヒヒヒヒ!』』』

「あっはっは!」


「「…………」」

 突然自分の乗馬が私達のところへ近寄って、何やら言葉を交わし、そしていきなり大袈裟に笑い始めたら。

 ……うん、そりゃ、そういう顔になるよねぇ。胡乱うろんげな眼というか、ジト眼というか……。

 そして、話の内容を聞いてきたロランドとフランセットには、『私のギャグネタって、馬にも受けるんだ』、『馬語をもじった馬専用のネタだから、人間には理解できないよ』、と言って誤魔化した。


 そして、エドにそのお爺さんとやらを教えて貰い、人間のみんなには『エド達が悪さをしていないか、他の馬達に確認してくる』と言って、ひとり、その場を離れた。




「あなたが、カルロスさんですね?」

『なっ! 人間が喋る? そんな馬鹿な!』

 ……。

 …………。

 いや、ま、そりゃそうかも知れないけどさ……。

 ま、いいや。それに、私は人間じゃないってことになってるし。

 よし、モードチェンジ!


「我は、この世界の女神、セレスティーヌの友人である。そなたが、カルロスであるか?」

『め、女神様! へへぇ~~っ!』

 慌てて頭を下げる、老馬カルロス。

「我が乗馬である神馬エドに休暇を与え、妻子と共に地上界でのんびりさせておったのだが、何やら頼みがあるといって呼ばれたのだがな。何でも、世話になったそなたの願いを叶えて欲しい、とのことでな……。

 なので、先日の働きへの褒美の代わりに、その願いを聞くことにしたのだ。さ、そなたの願いを申すがよい」


 うん、今回は、こういう設定で。

 これなら、素直に喋ってくれるだろう。

 ……でも、コイツら、本当に馬か?

 馬って、こんなに意思伝達ができる言語を持ってるの? ヒヒン、とか、ブルル、とかいう音の組み合わせで? それに、馬って、3歳児並みと言われている犬より知能が低いと言われていて、猫より下で、ウサギより上、とかいう説があったはず。まぁ、個体差とか、ジャンル……数字、図形把握、記憶力、理解度等の、項目別……によってばらつきが大きいだろうから、一概に比較できるものでもないだろうけど……。

 しかし、それにしても、私と普通に高度な会話ができるのがおかしい。

 やはりセレスが……。

 いや、考えちゃ駄目だ、考えちゃ駄目だ!

 これは、こういうもの! 深く考えない! 細かいことは、気にしない。大きなことも、気にしない。エド達とあれだけ会話しまくっておいて、今更だよねぇ。

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― 新着の感想 ―
新たな神馬候補登場、やはりこの世界の馬は頭がいいわ、えっ動物全般ですか?そうですね!リスが道を教えてくれたものね!
[一言] 馬語をもじった馬専用のネタだから、人間には理解できない …ああ、『右の照明は軽い』とか『お母さんが馬を叱った』 って言っても ギャグに聞こえないのと同じか。 ※英語で『ライトライトライト』…
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