番外編・中村回 その1
あたしは、なんとなくで心理学を専攻し、毎日講義やらなんやらを受けつつ、大学に通っていた。恭子みたいに夢があって心理学を専攻したわけじゃなくて、ただ本当になんとなくである。
高校のころは、まぁいろいろとあって学校をサボっていた時期とかもあったけど、今はほぼ毎日大学に行っている。意外と心理学も面白く、こういうのも向いているんじゃないかと思える程だった。
恭子も学校で心理学の授業があるみたいで、時々遊ぶ時には、共通の心理学の話題で盛り上がることもある。
そんな大学生活なのだが、あたしにも友達ができた。
高校を卒業するときに、恭子に『香恵も、大学で友達作らなきゃダメだよ!』と耳にタコができるくらい言われたもんだから、頑張ろうとは思ったんだけど、現実はそううまくはいかなかった。
そんなそんなある日のことだった。
大学一年の五月。特にこれといって入りたいサークルもなく、講義で一緒になる人とそれなりの会話をしていたが『それ以上の関係には……』と思って、ただダラダラと大学に通っていた頃だった。
大学の敷地内にある自販機でジュースを買って、近くにあるベンチで飲もうとした時だ。
いつも(とはいえ、まだ一ヶ月しか経ってないけど)そのベンチで飲んでいるのだが、そこを見ると先客がいた。その子は黒のロングスカートに白いブラウス、黒い長い髪、それに赤い眼鏡をかけて、ボケーっと遠くを見ていた。マスクをつけていたら昔のスケバンに見なくもないなーとか思った。まぁシルエットだけだけど。
恭子との約束もあったので、ここは思い切って話しかけてみることにした。ちょうど天気も良かったし、天気の話題にしようと決めて話しかけた。
「隣、空いてる? 座っていい?」
「え? あ、うん。どうぞ」
本当にボケーっとしていたらしく、あたしに焦点を合わせてから、少し横にずれて座れるようにスペースを作った。
あたしはそこに座ると、買ったばかりのパックのココアにストローを刺して一口飲んだ。
しかしここからが本番だ。そう思って心の中で深呼吸をする。
「あの」
「君さ、人生楽しい?」
「……え?」
あたしが話そうとしたタイミングで、それを上書きするような声でその子から訪ねてきた。
あたしは完全に虚を突かれて、普通に驚いてしまった。
「私さ、すごい後悔してるんだよね。なんかもうさ、思ってた大学生活と違うっていうかさ、ギャップっていうの? それに絶望しちゃってる感じ」
「は、はぁ」
うまく相槌が打てない!
なんだこの人!? 地雷系女子だったのか!?
一番話しかけちゃマズイ人だったんじゃないか?
「でも一応はさ、受験して合格して入学したわけだから、その苦労に見合うぐらいは頑張ろうって思ってるんだけど、なんか、ねぇ……」
暗っ……。
でもあたしも大学の生活といえば、『明るいキャンパスライフ』とか『華やかな大学生』っていうのを想像してたから、今のこの状況を高校の時の私に見せたら、鼻で笑っちゃうと思う。
でも。
「でも、まだ始まってから一ヶ月しか経ってないじゃん。だからこれからだと思うけどな。あたしは」
励ますというか、あたし自身も思ったことを口にしてみた。
するとその子は、驚いたように目を丸くしてあたしを見てきた。
「マ、マジで?」
「マジで。人生なんて長いんだから、これから頑張ればなんとかなるって。って、あたしの友達がよく言ってる」
「え、マジで?」
「な、何がだよ。そんなマジマジ聞いてくるなよ。嘘付いたってしょうがないだろ」
この子、変な子だなぁ……。
それがあたしの印象だった。
「そういえば、あんたも一年?」
「うん。君も?」
「そ。あたし、中村香恵。そっちは?」
「前原。前原ゆ……」
「ゆ?」
「唯衣!」
前原唯衣。それがあたしの大学生活での、友達第一号だった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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中村編スタートです。
全3話を予定しております。
次回もお楽しみに!




