追跡癖
どうして俺はこうも追跡されやすいのだろうか。
でも日常生活で追跡される経験なんてあるわけじゃないし、追跡するのは探偵かストーカーだっていうのは相場で決まっている。例外で警察。俺は悪いことしてないから可能勢はほぼ0。
「なんだよ。なんなんだよ」
「いや、見かけたから声かけようと思っただけですけど…」
「滝くんが先生を見つけたんです。私たち、別に付き合ってるわけじゃないですからね」
なんでいきなりそういう否定するの? 何も言ってないじゃない。
「たまたま玄関で会って、同じ地下鉄だったので、一緒に帰ってただけです」
「何も疑ってないから。あと笑顔な。そんな感情無いような顔で弁明されると、なんか怖いから」
そう言うと、吉田は口角を釣り上げたが、依然として目が笑っていないので怖い。
「なんでこんな遅くまで? 部活でも入ってたか?」
「図書室で勉強してたんです。テストも近いし」
「私は司書の先生のお手伝いを」
「手伝い?」
司書の先生は、藤井先生という女性だ。
メガネをかけていて、髪をいつもシュシュでポニーテールにしていて、職員室か図書準備室にいることが多い。まさしく図書室の番人だ。
「私、将来は司書になろうと思ってるんです。だから弟子入り的な感じでお手伝いしてます」
「ほー。それは意外な」
「意外?」
眉間にシワが寄った。怖いよー。
「いや、最近の子って本とか読まなくなってきてるじゃん? 電子書籍とかあるし。昔は電車とか乗ったら本読んでる人だらけだったんだぞ」
「私だって読書しますよ。ほら」
そう言ってカバンから本を一冊取り出す吉田。こいつ、文学少女だったのか。意外…口に出したらまたなんか言われそうだから、心の中に留めておく。
「へー。吉田さんって司書になるんだ。すごいねぇ」
「すごくないわよ。本が好きだから本に関わることがしたいの。それで選んだのが司書ってわけ」
「人生に目標を持ってるだけでもすごいと思うよ」
「…褒めても何も出ないわよ」
あ、デレた。今、表情は変わってないけど、絶対に照れが入った。
滝、なかなかやるな。
「そーゆー滝は何かないのか?」
「僕ですか? 僕はパソコン関係の仕事がしたいですね。パソコン得意だし」
「へー、ゲームとかってこと?」
「まぁそんなとこです。今年、兄と一緒にイベントで販売するゲームを作ってるんです」
「へー。そんなイベントもあるのか」
「まぁ兄がそこそこ有名なゲームクリエイター集団の一人なので、僕はその手伝いって感じですけど」
そんな集団が存在しているのか。世の中まだまだ知らないことだらけだな。
「なんかよくわからないけどすごいな」
「あはは」
頭をポリポリとかく滝。
アナウンスで、俺の降りる駅が次だと放送が入った。
「じゃあ俺は次だから。気をつけて帰れよ」
「え? 私も次ですよ」
「あっ、僕も…」
「マジで? なんという偶然…」
そして駅に止まり三人揃って地下鉄を降りる。
階段を上り、改札を抜ける。
「まさか出口まで同じ、なんてことはないよな?」
「私は2番」
「僕は1番」
「ふー。俺は4番だ。じゃあここでお別れな」
「近所なんですね」
「じゃあ学校行く時とか会うかもですね。その時は声かけてください」
「俺は教師だから早めに行ってるぞ」
「じゃあ滝くんだけでも声かけてね」
「うん。吉田さんもね」
そう滝くんはニコッと笑った。
最初の日直の時の険悪ムードなど微塵も感じさせない笑顔だった。
お互いにクラスに馴染んできたこともあり、お互いがどんなキャラなのかをわかってきたのだろう。いい傾向だ。
吉田は吉田で、口元に笑顔を浮かべているが、やっぱり不自然極まりなかった。
そして二人と別れ、一人家路へとつくのであった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
感想とか書いていただけると嬉しいです。
また遊戯王5Dsの最終回を見てました。かれこれ10回位は見てるんじゃないかと…
遊星の『俺はこの街に残る!』のセリフが大好きです。
次回もお楽しみに!




