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マッド ファンタジア ・ カーゴ カルト  作者: 囹圄
第三章

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第二十二節 『覚醒』

「ストレス……?」


 レミリスはおもわずサクヤに聞き返していた。

 たった今説明された〝爆発的に能力を向上させる方法〟というのが、あまりに拍子抜けするような内容だったからだ。


「そうだ。ただし生半(なまなか)なストレスでは意味がない。例えば、死に直面した瞬間に感じるような、脳に深刻なダメージを残す程のストレスが必用だ」

「理解できんな。なぜそんなもので力を得られるのだ?」

「……極度のストレスに晒された人間の脳を特殊な瞳術を用いて観察するとな、まるで雷雲のように見えるのだ。頭の中に火花が生じ、脳そのものを委縮さえさせる程の魔力が生じているわけだな。私が奴の頭に施した処置は、この脳の急激な変化を経ることでようやく完成に至るというわけだ」

「なるほど、つまり街道での迎撃を提案したのは、あの男に心的外傷を負わせるためか」

「まあ、そういうことだな。と言っても、結局当ては外れたわけだが。実際、(くだん)の任務で奴は死の直前まで追い込まれていた。しかし、得られた効果は微々たるものだった。要するに、奴の命だけでは不十分だったということだろう? ならば命を上乗せするしかあるまい」

「命の上乗せ、だと?」


 レミリスの目が剣呑(けんのん)な色を帯びる。

 しかし、サクヤは意に介した様子もない。


「ああ。あれを派遣した村、具体的なことは知らんが、何かが起こるという()()があったものでな。利用させてもらったまでだ」

「……貴様、住人を危険に晒す可能性を理解していながら己の利のため少ない手勢を派遣したのか?」


 問うた言葉の中に殺意を感じ取り、サクヤは迂闊(うかつ)な発言を自省する。

 こんなところで呪い殺されるのはごめんだ。


「勘違いするな。私は何かが起こる兆しを察知していただけだ。実際に起きるか否かは不明だし、何かが起きようとその規模は未知数だ。そんな不確かな情報で副王に大群の派遣を具申することなどできるわけがなかろう。ミツキを派遣したのは、村にとっても最良の選択だったと確信している」


 レミリスはしばしの間、サクヤに胡乱な目を向けていたが、思い出したように酒を煽ると、その目は再び泥のように濁っていた。


「さて、これ以上は特に報告することもない。急用ができたゆえ、他に要件が無ければ退出したいのだが?」

「急用?」

「ああ、()の知らせというやつだ。副王から手隙(てすき)の兵を借りて件の村に向かう。この本陣から早馬を走らせれば、日暮れ前には到着するはずだ」

「……そうか」


 そう呟くと、レミリスは盃に酒を注ぎつつ片手を振ってサクヤの退出を促した。


「最後にもうひとつだけ聞いておきたい」


 天幕の入り口まで進んだサクヤにレミリスは声を掛けた。


「その脳の処置とやらは、この世界の人間にも使えるのか?」


 首だけで振り返ったサクヤは、口元が微かに吊り上がっていた。


「……いいや。この世界の人間とミツキでは脳の構造が異なるらしくてな。元々、世界を満たす魔素に順応する形で発達したこちらの人間に対して、さらに魔素への干渉を可能にする器官を増設すれば、結果的に脳の処理能力が限界を超え廃人となるうえ、魔素中毒で処置から数日で絶命する」


 それだけ言うとサクヤは今度こそ天幕を後にした。

 レミリスは魔女の去った天幕入り口を見つめながら独り言ちた。


「実験済みというわけか」




 開拓村を襲撃した一党を仕切る入れ墨の男は、名をヤンブ・リゲルと言った。

 とある理由からアタラティアの兵士としてブシュロネアとの戦争に参加させられることになったが、元は第二十一副王領サリミアでそれなりに名を売った盗賊団の頭目だった。

 この男は全身に施した入れ墨の中に彫紋付与魔法を四つ紛れ込ませており、魔法による身体機能の強化と狡猾な性格によって二十年近くにわたり副王領を荒らし回って来た。

 本来、彫紋付与魔法には膨大な魔素を消費するというデメリットを伴うが、この男は一部の魔獣から採取される〝核石〟という素材を体に移植することで後天的に体内魔素量を増大させていた。

 この方法は一般には禁術とされており、移植の処置段階で命を落としたり体に障害を残すリスクがあるうえ、移植後も膨大な魔力によって体を蝕まれ寿命を著しく縮めることになるのだが、明日をも知れぬ人生を送る盗賊の中には寿命と引き換えに危険を冒しても力を得ようとする者が少なくなかった。

 そして、ヤンブ・リゲルの体に付与された魔法の中には、〝魔視〟があった。

 ミツキと死闘を繰り広げたアスル・グークスが片目に施していたものと同じだ。

 だから、その異変に真っ先に気付いたのも、ヤンブ・リゲルだった。


「なんだ、こりゃあ……!?」


 先程、女を助けようと飛び出してきた子どもを射殺した直後だった。

 〝魔視〟の魔法が付与された左目に激痛が走ったと思うと、視界が血のような紅一色に塗り潰されたのだ。


「どうかしたのか、お頭?」


 近くにいた部下のひとりに顔を覗き込まれ、ヤンブは咄嗟に平静を装った。

 ブシュロネアとの初戦をどうにか生き延び、事前の手はず通り拘束具を外して戦場からの離脱に成功したヤンブは、同じ境遇の仲間を集め今日まで率いてきた。

 傍に置いている男たちはその中でも選りすぐりの実力者だが、同時に頭目の座を脅かす危険な存在でもあった。

 決して弱みを見せてはならない。


「何でもねえ。それより、女を回収して来い。ジジイとババアばっかの村だが、ようやくお楽しみにあり付けそうじゃねえか」


 そう言う間にも、左目の異変の原因を探るべく、さり気なく周囲に視線を巡らせる。

 幸い、紅一色に染まった左目の視界も、慣れれば辛うじて周囲を確認することができた。

 ただし、血の霧の中にいるような情景は、寒気を覚える程に不気味だ。


「そうだな。おいザド、おまえが行ってこい!」


 ザドと呼ばれた男は卑屈そうな笑みを見せてから倒れている女の方へ走って行った。

 バリケードに立て籠もった連中に苦戦し、魔法による援護を懇願しに来た男だが、元々は結婚詐欺師だったとかで、戦闘ではまるで役立たずだった。


「それにしても、ガキに倒された連中、余程あんたが怖かったみてえだな。あの様子じゃ女は手付かずだぜ。普段よく締め上げているおかげで、優先順位ってもんを(わきまえ)えてやがる」

「ああ、まったくだ。久々のお楽しみだってのに、壊れた後じゃ興覚(きょうざ)めだからな」


 ならず者をまとめ上げるのに最も効果的なのは恐怖だとヤンブは思っている。

 集団を組織した後、何度か己に逆らおうとした者がいたが、両膝を射抜いた後、盗賊時代に培った拷問術を駆使して嬲り殺しにしてみせたのが奏功(そうこう)し、少なくとも下っ端の連中は完全に服従していた。


「しかし、あのガキも運がねえよな。せっかく苦労してふたりも倒したってのに、まさかこの距離から狙撃されるたぁよ」

「まったくだ。実際、よくあの距離をボウガンで命中させたな。大した腕前だよあんた」

「別に、盗賊なら弓と剣ぐらい扱えて当然だろ。あんぐれぇじゃ自慢にもなりゃしねえよ」


 と言いつつ、実は右腕に付与した〝必中〟の付与魔法のおかげだとは明かさない。

 ならず者の中にあって己の手札を晒すのは、愚か者と決まっている。


「でも、結局、若い女はあれとバリケードの向こうの兵士だけっぽいな。シケた村だとは思ったがこれ程とは……」

「この時期、開拓村の働き手は闇地に潜っているから、残っているのはガキかジジババだけになんだよ。魔獣相手に狩りをするような連中だから、留守中でなきゃこう簡単には落とせなかったかもな」

「関係ねえって。警備の兵士も友軍の鎧に油断して簡単に殺れたろ? まあ、最初の奇襲で殺ったのが全部じゃなかったのは計算外だけどよ」

「つか、包囲させてる奴ら、焦って女まで殺っちまわねえだろうな? いい加減心配になって来たぜ。おいベスタ、おまえもう一度魔法使ってバリケードをどうにかしろよ」

「てめえでやれよタコが。魔法一発でどんだけ魔素持ってかれると思ってんだ。ったくあんな男ひとり殺んのに炎熱魔法使うとかもったいねえ……あん?」


 左目の異常の原因を探ろうと周囲を窺っていたヤンブだが、部下たちの会話が急に途切れたことに気付いて振り返った。


「なんだ? どうかしたか?」

「いや、なんかさっき魔法で燃やした男、生きてるっぽいんだけど」

「ああ?」


 燃やした男とは、森から唐突に姿を現したものの、最初の奇襲で殺した警備兵と同じように、自分たちを友軍と勘違いして制止しようとした若造のことだった。

 どうしたわけか、詠唱も始めていないのに体から魔力を発散しているのが見え、何か嫌な予感がしたヤンブは、バリケードを破壊するために使わせようとしていた部下の魔法で焼き払わせたのだ。

 しかし、その男はどういうわけか焼け野原の中心に佇んでいる。


「おい、なんで人間が炎熱魔法喰らって五体満足なんだ?」

「それが、魔法自体はどういうわけか奴に直撃する前に弾けたっぽいんだよ」

「ああ!? どうしてそういうことを黙ってんだ!?」

「いや、だとしてもよ! 炎に囲まれ燃やされているうえに、あの状況じゃ呼吸だってできるわけがねえんだ! 吹っ飛ばなくたって、数秒で死ぬのは確実だったんだよ!」

「でも死んでねえじゃねえか! っつうかよ、何で火ぃ消えてんだ!?」


 攻撃魔法として起こされる炎は、本来容易に消すことができない。

 それがすべて消火され、男の周囲には黒々と焦げた地面が広がっている。


 盗賊たちが死にぞこないの若者に気を取られていると、唐突に、何かが破裂したような音が響いた。

 一瞬だったが、身を震わせるような音量に、男たちは身を竦める。


「な、なに――」

「うわ、うわあぁぁぁ!」


 男たちのうちのひとりが、悲鳴を上げ尻餅をついた。


「うるっせえぞ、いきなり! なんだってんだ!」

「あ、あれ……!」


 腰を抜かした男の指差した方向に視線を向け、一同は息を呑んだ。

 女の回収に走らせていたザドが倒れている。

 その死体は頭部を喪失しているようにヤンブには見えた。


「おぉオレ、見てたんだ! 奴の頭が、弾けるところを! あ、あんな……なにが、一体なにが!」

「落ち着けよ! 敵が来たんならヘタってる場合じゃねえだろ!」

「て、敵!? 敵ってことは人間なのか!? あれを人間がやったのか!?」


 部下の尋常でない狼狽えぶりを目の当たりにして、ヤンブは焦燥を覚えた。

 何かヤバいことが起きている。

 そして、おそらくそれは左目の異常とも関係している。


「お、おい、何か聞こえねえか?」


 部下の誰かが呟き、全員が口を噤み耳を澄ませた。

 ヤンブの耳にも確かにそれが聞こえた。

 否、先程から聞こえていたが、てっきり耳鳴りかと思っていたのだ。

 しかし、その音は確実に空気を震わせ、耳鳴りのような音のまま、やがて鼓膜に痛みを覚える程に音量を増していった。


「なんだよこの音はぁ!? どこから鳴ってんだよ!?」

「くそっ! 気味が悪いったらねえぞ!」


 もはや音は耐え難い程の大きさとなっていた。

 しかも、その響きは聞く者に強烈な不快感を催させた。

 例えるなら、老婆が悲鳴を上げながら、ガラスを刃物で引っ掻いているような、無駄に不安を掻き立てる不協和音だ。

 たまらず耳を塞ごうとしたところで、突然音が遠退き、男たちは互いに顔を見合わせた。


「お、おい収まったのか? 何だったんだ今のは?」

「待て、まだ鳴ってるぞ! でも、なんか離れて行った方向――」


 男らの会話を遮るように、先程よりも遠くで破裂音が響き、一同は再び身を震わせた。

 何が起こったのか確認する間もなく、バリケードを囲んでいた部下たちの悲鳴が上がる。


「お、おいまたかよ!」


 バリケードの方を窺えば、包囲していたはずの部下たちは蜘蛛の子を散らすように逃げまどっていた。

 何だ、と思う間もなく、それは起こった。


「お……い……今、のは……?」


 人間の体が、文字通り破裂していた。

 それも、唐突に。

 少なくとも、ヤンブ以外の男たちにはそう見えた。

 だが、深紅に染まった視界の中に、蠢く奇妙な魔素の筋をヤンブは認めていた。

 まるで、魔物の触手が周囲一帯に延ばされ、超高速で振られたその先端が、部下たちの体をえぐっているようだ。

 そして、ヤンブがすべての筋の発生源を目で辿ると、焦土の中心に佇む黒焦げの男に行き当たった。

 といっても、もはや左目で男を視認することはできなかった。

 男の周囲は異常な濃度の魔素に満ち、完全な紅に塗り潰されていたからだ。

 だが、左目をつぶり、右目だけで窺えば、その中心には確かにぼろぼろの男がひとりいるだけだった。

 おそらく、音の発生源もその男だったのだろう。

 その時、ヤンブの右目は男の口が小さく動くのを捉えた。

 盗賊の技能として読唇術を習得していたヤンブは、男の言葉を脳裏に再生することができた。


「馬鹿かオレは……炎を消すなんて、ジンツウの初歩の初歩だろ……おまえの間抜けが、あいつを殺したんだ」


 ジンツウというのが何なのか、ヤンブにはわからなかったが、男は魔法で起こされた炎を自力で消火したらしい。

 そして、今、部下たちを攻撃している。


 バリケードを包囲していた部下たちはあらかた殲滅され、続いて村中に散った部下たちが順次攻撃されていた。

 その威力は凄まじく、攻撃された部分を原型も留めぬ血煙に変えてまき散らした。

 しかし、精度はそれほどでもないのか、急所を外されたため体の一部を大きく損ないながらも死にきれず、のたうち回る者たちの悲鳴があちこちから上がっていた。

 それでも、攻撃を目視できない者たちはどこへ逃げて良いのかもわからず、中には失禁したままへたり込み動けぬ者もいた。


「お、お頭! なんかやべえって逃げよう!」

「動くんじゃねえ! 奴はひとりも逃がさねえつもりだ! その証拠に逃げようとした奴から優先して攻撃していやがる!」

「奴!? 奴って誰だ!? 誰の仕業なんだよ!?」

「いいから、死にたくなけりゃ黙ってろ!!」


 黒焦げの男は、腰のあたりから何かを取り出すと、それを空中に放っている。

 ヤンブの左目は、その何かが魔素の尾を引き凄まじい速度で飛んでいくのを視認していた。

 同時に先程の異音が響き、ならず者たちは不安と恐怖に顔を引きつらせるが、ヤンブだけは黒焦げの男の観察に集中していた。

 今、男の意識は村に散らばる部下たちに向いている。

 奇襲をかけるなら今しかない。

 ボウガンに矢をつがえると、ヤンブは男に照準を合わせた。


「あの野郎があれをやってるってのか!?」

「ああ、つくづく最初の魔法で殺れなかったのが悔やまれるな。だがこの一発で!」


 放たれた矢は、男の頭部目掛けて真っ直ぐに飛んだ。

 当然だ。

 腕には〝必中〟の付与魔法を掛けてあるのだ。

 外す方が難しいというものだと、ヤンブは心の中で勝ち誇る。


 しかし、頭部を貫くはずだった矢は、男の目の前すれすれで中空に制止した。

 男は微かに視線を動かしただけだったが、ヤンブの目には高密度の魔素が纏わりつくようにして矢を受け止めたのが視認できた。


「おぉい、止められちまったぞ!」

「なんで、あの矢ぁ浮いてんだ?」


 奇襲に失敗し、ヤンブは歯噛みした。

 あの化け物相手に、正面切って戦うのは得策ではない。

 では己はここからどう動けばいい。


「お頭ぁ、どうすんだよ!? 気付かれちまったぞ!」

「……騒ぐんじゃねえ、オレに考えがある。時間がねえからよく聞け」


 部下たちが自分に注目したのを確認し、ヤンブは話し始めた。


「いいか? ディルムとケネスは右、ヤッチとオラインは左から回り込むように突撃しろ。振り返ったりして走る速度を緩めるんじゃねえぞ。それから、オレとドン、ベスタはここから弓で狙撃だ。これで二人か三人死ぬことになるだろうが、残りは生き残れるはずだ」

「そんな、何を根拠に」

「根拠ならあるが今説明してる時間はねえだろ! 早くしろ!」

「いぃ嫌だぁあ! あんな化け物と戦うなんてオレぁごめんだ! あんたらだけでやってくれ!」


 最初にザドの頭が破裂するのを見て腰を抜かしたドンが喚いた。

 ヤンブは短剣を抜くとその首元を切り裂く。

 パックリと裂けた喉を押さえながら己に縋り付こうとするドンを蹴倒しつつ、ヤンブは青褪めた部下たちを睨み付け選択を迫る。


「イチかバチかで奴に挑むのと、オレに殺されるの、どちらか選べ」


 男たちは一瞬、互いを窺い合う。

 仮に、皆で協力してヤンブを殺しても、その直後に化け物に殺されるだろう。

 それなら、突撃した方が生き残れる可能性はまだ高い。

 そんな打算が決意を促し、四人の男たちは雄叫びを上げながら走り出した。


「ちくしょう! ちくしょう!」


 本来魔法を得意とするベスタは、詠唱する暇がないため、ドンの遺体から弓と矢筒を毟り取り、射掛けようと構えた。

 だが、構えた弓から矢が放たれることはなかった。

 ベスタの口を押えたヤンブは、背後から喉を掻き切って殺した。

 これであとは、前方の部下四人がおとりになって時間を稼いでくれるだろう。


 ヤンブは男と部下たちに背を向けると、走り出しながら足の入れ墨によって付与された魔法を発動させる。

 〝疾走〟。

 逃走用の備えだ。

 過去にも部下をおとりにしつつ、魔法で速度を上げた足で何度もピンチを脱している。

 〝疾走〟というといかにも地味だが、瞬間的には馬にも勝る速度を出すことが可能なのだ。

 今も、みるみる森が迫っている。

 あと数十歩、十数歩、このまま森に入れば逃げ切ることは難しくないはずだ。

 しかし、不運にも、何かに躓いたらしく、体が大きくつんのめった。

 おもわず舌打ちしていたが、次の一歩で体勢を立て直し、そのまま一気に森へ駆け込む。

 そう思い、右足を動かしたが、地面を蹴った感覚がない。

 奇妙に感じたヤンブが視線を下に向けると、両足の膝から下を消失していることに気付いた。

 愕然(がくぜん)とした表情のまま中空を半回転したヤンブは、宙にまき散らされた部下たちの体と、直立した状態で地面に残された己の足、そしてこちらへ悠然と歩を進める男の姿を確認したところで意識を喪失した。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 日本語で喋ってるだろうに読唇できるんでしょうか? 今更こんなしょうもない指摘で申し訳ないけど…
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