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7 主のテリトリー⑤

 津田高校から戻り、結木はまず、離れの庭の片隅に僕自身だと遥が言っていた苗を植えた。


 その後、離れのダイニングでるりと結木は、一緒にお茶を飲んだ。

 急須やゆのみ、お湯をつめたポットなどが、お茶の葉やあられの入った上品な菓子鉢などと一緒にちゃぶ台に用意されていた。

「ある程度用意してくれはったら、後は自分でしますっちゅうのを野崎さん側が受け入れて下さるまで、結構かかりました」

 あられをつまみながらお茶を飲み、結木は笑う。

「ボクは母が仕事で忙しかったんもあって、小学校高学年の頃から一通り家事を手伝(てつどう)てきました。基本、自分のことは自分でせえ、みたいな方針のウチでしたから、至れり尽くせりでやられると却ってシンドイんですよね」

 そして自分でお茶をおかわりしながら、彼は続ける。

「もっと()うたらこの離れにはキッチンもあるし、自分でメシ炊いてたまごでもぶっかけて簡単に済ませたいくらいなんですけど。それでは張り合いがないって和代さんに言われましてね。そこは甘えることにしてます」

「結木さんがそんな風に野崎さんから丁重に扱われてこられたのは、クサのツカサでいらっしゃるから、ですよね」

 軽い気持ちで確認すると、結木は意外にも首を振った。

「野崎さんにとってのボクは、クサのツカサやなくて『おもとの(もり)のツカサ』です」

 首をひねるるりへ、結木は苦笑まじりで説明する。

「前に少し言いましたが、神様がもたらした泉の、広い意味での番人がここの土地に古くからいましてね。それを『おもとの守』と呼びます。泉の力が及ぶ範囲で生まれ育った、泉と、なんちゅうか一種のシンパシーがある者が、男は数えで十五、女は数えで十三の秋に呼び出されるんです」

「野崎さんに、ですか?」

 るりが問うと、結木が再び首を振った。

「いえ。泉から直接、です。最初にまず、小指の先ほどの小さい綺麗なアオガエルが目の前に来て、こう()うたんです。『ツカサの若葉よ。()く来よ。マツリの季節じゃ』って。いやあ、あの時は自分の正気を真面目に疑いましたよ。リアル中二の厨二病患者やったとしても、この状況はそうあっさり受け入れられる訳ないでしょう?思い過ごしやとか気のせいやとか、色々自分をごまかしてましたけど、目の前にしゃべる猫が二匹も現れて『これがツカサの若葉か?』とか何とか、言われましてね。人語を操るカエルや猫に会うやら、そうそう、確かその前後にスズメにも人語で、ツカサツカサと囃し立てられましたね。こんなんが続きましたから、思い過ごしやら気のせいやら、()うてられんようになりました」

 結木は目を伏せ、少し寂しそうに笑った。

「あの頃は泉がご存命でしたから。普通やない生き物がちょいちょい、紛れ込むように暮らしていたんです。ヒトのふりして木霊が数人、しれっと混ざり込んで暮らしてたり。でも、フツーの人間の前では彼らは、フツーに人間やったりカエルやったり猫やったりスズメやったり、するんですよ」

「すごい……ですね」

 子供じみた感想だったが、るりにはそうとしか言えなかった。結木は寂しさのにじむ綺麗な笑みを浮かべた。

「はい。すごい、奇跡やと思います。この奇跡をひっそり守るんが『おもとの守』の役割でした。泉を現実的に所有・管理してる野崎家と手を携えて、時代を超えて守ってきたんです。その『守』の中で最も神様に近付ける能力を持つ者が、『おもとの守のツカサ』つまり代表者になります。ボクは、最後の『おもとの守のツカサ』でした。泉を守るんが先祖代々至上の使命やった野崎家にとって、『おもとの守のツカサ』はたとえ義務教育中のガキであっても、目上として扱うのがしきたりなんやそうで。お陰で尻のこそばゆい思いをずっとしてます」

 冗談半分のようにそう言うと結木は、ふと目を伏せ、冷めかけたお茶を飲み干した。

「『守のツカサ』を務められるくらいの能力者の中で、小波の草木に認められた者を『クサのツカサ』と呼ぶんやそうです。だからこの肩書は草木にとっての肩書で、野崎さんにとってボクは『最後の守のツカサ』なんです。あはは、スイマセン、ややこしいですよね。まあ、どっちもツカサですから、結木という男はツカサとか呼ばれとる、ちょっと胡散臭いふたつ名持ちやくらいに(おも)といて下さい」


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