クリスマスイブの土曜日
昨日で二学期も終わった。期末考査もそれなりの結果を出した。そして今日は土曜日。早苗の家に午後一時に行く事になっている。お昼は食べない様にと釘を刺されて。
そういう訳で、俺は午前中瞳と一緒に爺ちゃんの所に行って稽古をする事にした。
稽古をしていると精神が集中して落着く。
空手自稽古、型、組手、棒術は自稽古だけにした。自稽古と型の違いは、型にこだわらず、自分が想定する一人から複数人を相手に乱取りするような稽古だ。広さを必要とするので大体庭で行う。調子に乗ると危ない目に遇う事も有る。
もう午前十一時半だ。そろそろ上がるかと思っていると爺ちゃんから呼ばれた。瞳は先に帰らせる。
「爺ちゃん何か用事か?」
「達也、おまえ三頭加奈子という子と深い仲になったと聞いているが本当か?」
何で爺ちゃんがそれを?
「ああ、本当だ。学校の先輩でもある」
「そうかそうか、一緒になる気はあるのか?」
「いまのところない。向こうもそれで良いと言っている。一応大学卒業までは付き合う事にしている」
「ほう。そうか。しかし大学卒業までと言っても後五年もあるぞ。今の関係のままで続けられるのか」
「向こう、加奈子さんは、それなりに考えているみたいだけど、俺はまだ決めていない」
「そうか。実はな三頭家の今の総帥三頭源之進殿と儂は小さい頃からの知合いでな。三頭と立石家の付き合いは、もっと先まで遡る。
何が縁でお互いの孫が付き合う様になったのかは面白い所だが、今度正月に源之進殿と加奈子殿を呼んでいるんだ」
「え、え、ええーっ!」
「驚く事はあるまい。昔ばなしをするだけだ。加奈子殿を呼ぶのはお前が深い仲だと聞いてな。喜ぶだろうと思っての向こうの計らいだ」
「爺ちゃん、三頭の家と立石とはどんな関係が有るんだ」
「話せば長くなる。正月に会った時で良いだろう。それに今日呼び止めたのは、ちょっと確認したまでだ。達也と加奈子殿の気持ちを何一つ曲げるものではない」
「そうですか」
俺は爺ちゃんの話を思い浮かべながら家に戻った。ますます拗れて来た。俺の気持ちと違う。どうしたものか。
家に帰り、シャワーを浴びてしっかりと石鹸当てて体を綺麗にしてから早苗の家に行った。
ピンポーン。
ガチャ。
「いらっしゃーい。達也」
「お邪魔しまーす」
「ふふっ、誰もいないよ」
「…………」
「達也、リビングで待っていて。大分用意して有るけど。暖かい物は達也来てからと思って」
「そうか、悪いな」
「ううん。嬉しいよ。達也と二人でクリスマスイブなんて」
リビングで待っていると
「達也、ちょっと来て」
「分かった」
「これ持って行って」
言われたのは丸ごと一匹のローストチキン。周りにクレソンとミニトマトが添えられている。
「凄いなこれ」
「うん、二人で食べよう」
二人でって。結構大きいぞ。
リビングのテーブルの上には、他にもクラッカーの上にキャビアやレモンを乗せたオードブル。ペペロンチーナのスパゲッティ、鯛のカルパッチョと一体何人で食べるんだという位が乗っていた。
そして、早苗が最後にクリスマスケーキを持って来た。俺三日連日ケーキ食べる事になる。
「達也、ローソクつけるからカーテン閉めて」
「分かった」
カーテンを閉めると早苗がクリスマスケーキのローソクに火をつけた。
「達也メリークリスマス」
「早苗メリークリスマス」
早苗がローソクの火を消すと
「カーテン開けて」
「おう」
「達也、これクリスマスプレゼント。はい」
「ありがとう早苗。俺もクリスマスプレゼントだ」
早苗は赤い大きな袋に緑のリボンを付けてあるプレゼントを俺に渡した。俺は小さいケースだ。
「開けていい?」
「もちろんだ」
「えっ、達也これ貰って良いの?」
「ああ」
俺がプレゼントしたのは、プラチナにピンクパールの真珠が固定で着いているイヤリングだ。瞳が早苗お姉ちゃんはこれが似合うと言っていた。
「達也付けていい?」
「もちろんだ」
リビングに置かれているピアノの上にある鏡を見ながら器用に付けている。
「どう達也」
「ああ、とっても似合っている。綺麗だぞ早苗」
「えへへ、達也にそう言われると嬉しいけど恥ずかしいな。私のプレも開けて」
早苗がくれたのは、紺色のマフラーだ。ちょっと長い。
「えへへ、達也と一緒に首に巻きたいから、少し長いんだ」
そういう事。
「そ、そうか。ありがとう」
「じゃあ、プレゼントは汚れない様に仕舞って食べようか」
「ああ」
料理はどれも美味しかった。玲子さんのホテルの食事はともかく涼子の手料理も早苗の手料理もとても美味しい。比較なんて言葉は失礼だと思った。それぞれにとても美味しい。
しっかりとほとんど二人で食べてしまった。
「達也食べたねえ。流石高校二年生」
「いや、それだけ早苗の料理が美味しかったからだよ」
「えへへ、嬉しい事言ってぇ。ねえ達也、食器キッチンまで一緒に下げて」
「もちろんだ。洗うのも手伝うよ」
「それはいいや。達也洗い物した事無いでしょ」
「…………」
事実だ!
「キッチンまで食器下げたらリビングか私の部屋で待っていて」
「リビングで待っている」
「早く洗うね」
洗うお皿が多い所為か二十分位掛かった。まだ午後三時前だ。
「達也、私の部屋に行こう」
「ああ」
俺が先に早苗の部屋に入って早苗が入るとドアの鍵を閉めた。
「達也、今日は午後七時まで両親は帰ってこない。約束したよね」
「早苗……」
立ったまま早苗が俺を抱きしめて来た。
「達也、私、あなた以外誰も考えられない。小学校の頃苛められていた私を助けてくれた達也が好き。
一緒に遊んでくれた達也が好き。一緒にお風呂に入ってくれた達也が好き。大きな目、がっしりした鼻。薄い唇の達也が好き。何処にいてもいつも私を守ってくれる達也が好き。だから私は達也の事が全部好き。
達也しかいない。私の一番は達也しか受け取れない。お願い」
「早苗、本当に俺で良いんだな」
「うん、達也がいい」
「分かった」
早苗には出来るだけ優しくしてあげた。
……………。
「うっ、痛!でも大丈夫」
「早苗」
俺は生まれて初めて早苗の柔らかくて言いようのない可愛い声を一杯聞いた。この前とは比較にならない位。
ゆっくりと終わらせると
「達也がしたいならもっとしていいよ。今日は思い切り大丈夫な日だから」
達也嬉しい。やっとこれで、これで達也と一緒になれた。
俺の腕を枕にして寝ているとても可愛い幼馴染。ずっと小さい頃から一緒だった。中学の時俺から離れた理由も聞いた。
こいつが望むなら俺はそれで良いと思っている。
「あっ、達也寝ちゃった。結構疲れるのね」
「そうか。早苗、正月はどうしている」
「なによ。こんな時に」
「いや都合聞いておきたくて」
「うーん出来れば達也と初詣行きたい。でも達也無理っぽいよね。家の事もあるし」
「そんな事無いぞ」
「えっ、ほんと期待して良いの?」
「ああ期待して良い」
「えへへ、じゃあ、証明して」
「証明。キスの事か?」
「ばか、今日は二人で何しているの。こっちに決まっているでしょう」
「分かった」
えへへ、達也と一緒になっているとこんなに気持ちいいなんて。癖になりそう。
午後五時半になった。
「早苗、シャワー借りていいか」
「ふふっ、おば様と瞳ちゃん対策ね。いいわよ。でもそれだけじゃ駄目よ。取敢えずシャワー浴びて来なさい」
なんだ、それだけじゃ駄目って?
俺はシャワーを浴びて出て来ると、早苗は外出する支度をしていた。
「達也、駅前の喫茶店に行って外の匂い付けよう。それなら分からないわ」
「はははっ、参ったな早苗。策士だな」
「当たり前でしょ。達也の為だもの」
早苗の知恵を借りて駅前の喫茶店で三十分位コーヒーを飲みながら冬休みの宿題の話をした。明後日から四日間、二十九日まで集中だ。
それから、俺は自宅に戻り
「ただいま」
タタタッ。
「お兄ちゃんお帰り…」
瞳がじっと俺の顔を見て顔を近づけてクンクンしている。そして
人差し指を顔の前で振り子の様に振りながら
「チチチッ、甘いわねお兄ちゃん。どうせ早苗お姉ちゃんの策でしょうけど、まだまだ石鹸の匂いが一杯よ。どこ行っていたの?まさか…」
タタタッ。
「お母さーん。お兄ちゃんが早苗お姉ちゃんとラブホに行ったー」
お、おいなんて事言うんだ。
手を洗いダイニングに行った俺は、母さんが驚くような顔で
「達也、早苗ちゃんとラブホって本当?遂にしたのね。直ぐにお父さんに知らせないと」
「ちょ、ちょっと待った。俺はラブホになんか行っていない。早苗の家にずっと居た。あっ!」
「お兄ちゃん語るに落ちたね。ふふふっ、夜は長いよ。ねえお母さん」
「そうねえ。楽しみだわ」
俺は生まれて初めての失態に午後九時半頃までしっかりと根掘り葉掘り聞かれてしまった。解放された後、直ぐに早苗に連絡した。
『早苗俺だ』
『達也、どうしたの?』
『母さんと瞳にバレた』
『え、ええ、えええーっ!』
いくらなんでも早すぎる。こういうのはゆっくりと浸透させないと。
「早苗ー。いるでしょう。リビングに降りて来てー」
『まずい、達也のお母さん、もううちのお母さんに話したみたい。どうしよう』
『え、ええ、えええーっ!』
明日からどんな顔して会えばいいんだ。
――――――
大変な事になりました。でも達也、さっき気になる事言ったね。
次回をお楽しみに
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
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