クリスマスイブイブの金曜日
今日は二学期最終日終業式の日だ。例によって門で待っている早苗と一緒に駅まで行く。
「達也、昨日は何していたの?」
「まあ、普通に部屋で過ごしていたけど」
「そう?」
「早苗そう言えば教室直ぐにいなくなったな」
「うん、ちょっと用事が有ってさ。クラスのクリパ。一次会だけ行ったけどつまらなかった」
俺には声も掛かっていないけど。
「ふふっ、達也には声を掛けないわ。だって周りはがっちりホールドされているから」
「ホールド?」
「達也は知らなくていいの。それより明後日楽しみ。我が家で良いよね」
「ああ」
最寄駅から電車に乗り二つ目の駅から涼子が乗って来た。とてもすっきりとした顔をしている。プルンとした唇に薄くリップをしているのが分かる。
「おはようございます、桐谷さん、達也」
「おはよう本宮さん」
「おはよう涼子」
えっ、どういう事。電車の中では、もっと簡単に挨拶するだけだったのに。それに何このすっきりとした顔。
今も景色を見ながら微笑んでいる。周りの男子が注目しているのが分かる。昨日何か有ったんだ。まさか…。まさかよね。
学校のある駅に着くと早苗と涼子は先に降りた。俺はゆっくりと降りて改札を出ると
「おはようございます。達也さん」
「おはよう玲子さん」
「達也さん、今日は午後からが楽しみです」
「そうですね。俺もです」
「ふふっ、そう言って頂けると嬉しいです」
玲子さんと一緒に登校するようになった最初の頃は周りの生徒が興味本位や妬み、嫉妬で痛い視線を送って来たが、今は全く視線が無い。俺達は他の生徒から風景の一つとなった様だ。これはこれで良いのだが。
「達也さん、どうしたんですか?」
「いや、大した事ではないです。こうして玲子さんと登校するのも日常になったなと思って」
「ふふっ、嬉しいです。達也さんと一緒に登校するのが日常なんて、ちょっと恥ずかしくなってしまいました」
何か誤解しているよ絶対に。
俺達は、下駄箱で履き替えて教室に行き自分の席に着くと
「達也おはよ」
「おはよ健司」
「達也、クリスマスどうするんだ?」
「ああ、まあ適当に過ごす」
「実は昨日クラスでクリパが有ってな。声を掛けようと思ったんだが…」
「ああ、それは掛けなくて良かったよ。一人のんびり出来たからな」
「そうか、後付けで悪いんだが黙っておくのはちょっとと思ってさ」
「全然構わない」
どうせ行く気なかったし。
予鈴が鳴って担任の郷原先生が入って来た。
「今から体育館で終業式が始まるから廊下に出てくれ」
校長先生の長ーいお話を聞いた後、みんなで教室に戻って来た。もうみんな好き勝手状態だ。仲間同士で好き勝手に話している。
玲子さんは周りの人から色々話しかけられている。早苗も隣の女の子と仲良さそうに話している。良い事だ。俺が一人で窓の外を見ていると健司が話しかけて来た。
「達也、冬休みどうするんだ?」
「ああ、稽古と宿題位だろ。その位だ」
二人で話をしていると郷原先生が入って来た。
郷原先生にみんなで挨拶が終わるとそそくさと生徒が出て行った。玲子さんが目配せしている。下駄箱で待っているという所だろう。俺も席を出ようとすると
「達也、今日何か予定ある?」
「早苗か、ある」
「何するの?」
「ちょっとな」
俺の顔をじっと見た後
「そう。じゃあね」
何か用事あったのかな?
下駄箱で履き替えると
「達也さん、行きましょうか」
「はい」
私、桐谷早苗。今日は達也とクリスマスプレゼントを一緒に買いに行こうかと思っていた。でも用事が有るという。目の前を立花さんと一緒に歩いている。立花さんがとても楽しそうな顔をしている。
駅に着くと、あれっ。ホームには降りずに反対側の改札へ二人で一緒に行ってしまった。何だろう。ちょっと気になって近づかない様に見ていると
えっ、大きな黒い車。立花さんと達也が乗り込んだ。どういう事?走り出した車を見ながら凄い不安、焦燥感にかられた。もしかして二人は…。
私、立花玲子。今日は立花物産の関連不動産会社系列のホテルの一室を確保している。達也さんと二人でクリスマスを祝ってその後は、ふふふっ、楽しみです。
「達也さん、着きました」
俺は言われて車を降りると
「えっ、ここって?」
「どうしたのですか。達也さんと二人でクリスマスを楽しむ為に準備しています。さあ行きましょう」
ホテル玄関の前でドアボーイが頭を下げている。中に入ると
「立花様、お待ちしておりました。ご案内します」
この人胸の金プレートにマネージャと書かれている。なんか気合入っているな。
エレベータに乗り、降りたフロアは、レストランフロアと思ったら客室フロアだ。
「こちらでございます」
そう言ってマネージャに案内されてドアを開けられると
「えっ、玲子さん、これって?」
「はい、達也さんと私のクリスマスの為に部屋を用意しています。入りましょう」
マネージャがドアノブを持ったままお辞儀をしている。中に入ると完全な三部屋構成。リビング、ダイニング。ベッドルームだ。凄い。それにダイニングには、男の執事が二人、女性の執事が二人立っている。
「達也さん、お気に召しましたか。二人の為に用意しました」
執事の一人が近づいて来て
「お手持ちの物をお預かりします」
二人の鞄とちょっと勉強関連のファイルが入っているバッグを取られた。
「さあ、こちらへ」
男性の執事が玲子さんの椅子を引いて彼女を座らせると女性の執事が俺の椅子を引いて座らせた。
「お飲み物は如何しますか?」
全く、何処の高級レストランだよって感じで食事が進んで行った。会話は玲子さん主導だったが、今までの事や夏の出来事、そして少しだけ今後の彼女の考えも聞いた。
やがて食事が終わると
「達也さん、少しリビングで休みましょうか。ここは景色が良いですよ」
リビングにはミネラルウォーターやシードルが用意されていた。確かに景色は抜群だ。高層階だけに地平線に山々がしっかりと見える。
「達也さん、料理いかがでしたか?お口に会えば良かったのですけど」
「あれだけの料理です。満足しない訳がありません。しかし高校生のクリスマスの食事にしてはちょっと」
「そんな事ありません。達也さんは私の全てです。あなたが居なければ私はこうしてここに居れたかも分からないんです。その事を考えればささやかな事です、気にしないで下さい。
もうダイニングは片付いたようですね。達也さん、あちらに行きましょうか」
「えっ?」
ダイニングを見ると綺麗にテーブルは片付いて誰もいなくなっていた。
手を引かれていくと大きなベッドルームが有った。
「達也さん、約束してくれましたよね」
「…………」
「達也さんは嘘をつかない人ですよね」
「しかし」
「私は言ったはずです。あなたに私の初めてを受け取って欲しいと。それで立場を有利にしようなどとは微塵も思ってはいません。
あなたが居なければ私はこの世にいなかったかも分からないのです。
私の大事なものは達也さん、あなた以外には受け取ることが出来る人はいなんです。どうかお願いです。玲子の気持ちを受け取って下さい」
「玲子さん…」
思い切り抱き着いて来た。俺はこれを断る事が出来るのか。
「玲子さん、シャワーを浴びても良いですか」
「はい♡玲子もその後浴びます」
時間稼ぎのつもりなんだけど。
おれはシャワーを浴びながら自問自答した。
どうする達也。今ここで玲子さんを抱けば、理由はどうあれ立花家に対してそれなりの責が生じる。
加奈子さんの事、早苗の事、いずれにしろしっかりと責任ある態度を示さなければならない。
でも玲子さんがあそこまで思っていて、これを断るのは帰って彼女を傷つける事にならないか。それは立花家に対しても。割り切る事が必要か…。
「玲子さん、出ました」
「はい、私も浴びて来ます」
ふふっ、やっと、やっと達也さんに…。考えただけでも顔が赤くなります。しっかりと体を綺麗にして…。ふふふっ、
でもまさか、私が出たら達也さんいなかったなんて事無いですよね。やはり早くでしょう。
急いで体を洗ってシャワールームを出ると、あっいてくれました。良かった。バスローブのままです。達也さん、もう大丈夫みたい。
………………。
「っ!…」
「大丈夫ですか?」
「大丈夫です」
結構痛いです。涙が出ました。でも嬉しい。達也さんと一緒になっている。ずっと望んでいた事。
俺の横にとても綺麗な女性が目を閉じている。体もとても綺麗だ。もう覚悟決めるか。正月辺りはっきりした方がいいな。父さんに俺の気持ちをはっきり言おう。
あっ、目を開けた。
「達也さん、玲子とても嬉しいです。もっとして下さい」
「…………」
大丈夫かな?
結局、午後六時過ぎにホテルを出た。家まで車で送って貰って、車のシートから出ようとした時、いきなり頬に柔らかい物が。
「達也さん。またご挨拶に来させて頂きます」
「はい」
車が見えなくなるまで見送った後、玄関を開けて家に入った。
「ただいま」
タタタッ。
「お兄ちゃん、お帰り…」
タタタッ。
「お母さーん。お兄ちゃんの頬にリップの後がー!」
「あっ、さっき玲子さんの…」
また、しっかりと母さんと瞳から聞き取り調査が行われた。
――――――
ふむっ、達也が決めた心の中とは?
次回をお楽しみに
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
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