秋は少しずつ過ぎて行く
夕食も取り風呂も入り終わった俺は自室で涼子に電話を掛けた。
私は自室のベッドで寛いでいるとスマホが震えた。
あっ、達也からだ。
『達也、私』
『涼子か、昼間の事だけど』
『ごめんなさい。勉強ついて行くのがやっとなの。だから達也と一緒に勉強出来ないかなと思って』
『…涼子は俺より頭いいだろう。少し位遅れても簡単に取り戻せるんじゃないか?』
『そんな事無い!』
何とか達也と二人で会える時間を作りたい。過去の事は有るけど、今の私は達也だけ。彼がいなかったら私はこの世にいないんだから。
もう私の一生を彼に捧げる。他の人には見向きもしない。例え一番でなくても。その為にはもう一度彼との距離を詰めなくてはいけない。
『お願い達也』
『勉強するって言ってもどこでするんだ。それにいつ出来る?放課後はそんなに時間無いぞ』
『放課後は図書館。土日は私の家で』
『…涼子、図書館はいいが、土日は無理だ。稽古とか色々入っている』
『土曜の午後だけでも』
流石に彼女の家に行くのは不味い。
『放課後図書館で勉強するのは良いけど土日は様子見てからにしよう。後、月木金土は図書担当が有るから出来ない。出来るのは火水だけになるけどいいか』
『分かった。ねえ達也…』
『なんだ?』
『…ううん、何でもない。ありがとう電話してくれて』
『良いよこの位。じゃあお休み』
『おやすみなさい』
達也と放課後木金だけだけど二人きりで会える。表向きは勉強だけど図書館なら煩わしい人達はいない。土日は無理だったけど。最初はこれでいい。
涼子の命を救ってから、俺の心の中に少しだけ変化が有った。彼女は俺を裏切り、クラスメイトから嫌がらせを受けて自殺を図った。それも二回。
その二回目に何が縁で何が一致したのか分からないが、彼女が服毒入水自殺をしようとした場面に、俺は偶然彼女を見つける事が出来た。一秒遅かったら彼女の命は無かったかもしれない。テレビドラマでもない限りこんな偶然はあり得ない。
そして俺は彼女を助ける事が出来た。だから彼女が生きようとするならば、それを助けるのも俺の役目なのかも知れないと思う様になった。
でもそれは恋人同士のそれではない。あくまで友達としての範囲だ。
涼子は自殺から立ち直ってから俺との距離を急に詰めて来た。理由は分からない。今回の事もそれの一端だろう。彼女が俺に勉強を教えて貰う理由は見つからない。
日曜日午後一時。俺は三頭さんの家のある駅の改札で彼女を待った。いつもの様に改札で待っていると通行人がジロジロ見て来る。そんなに目立つか俺。
目を駅前の交差点に向けると信号の反対側に三頭さんの姿を見つけた。いつもながら綺麗だ。周りの人がチラチラと横目で見ているのが分かる。
「達也待った?」
「いえ、さっき来た所です」
「ふふっ、そう。ねえ今日は今から私の家に行こう。家族は午後六時まで帰ってこない。お願い」
「…いいですよ」
目的は分かっているけど、俺も抵抗が少なくなってきている。
「じゃあ、行こうか」
俺の手を握って来た。握り返してやると
「ふふっ、達也♡」
彼女の家に着くと直ぐに彼女の部屋に入った。
「達也」
いきなり抱き着いて来た。
「もう一ヶ月もしていない。我慢、結構きつい。はしたない女と思われてもいい。お願い」
「加奈子さん」
………………。
自分がこんなに好きな人間だとは思わなかった。彼にこうされていると幸せで堪らない。
達也もっと。
俺の隣には本当に綺麗な女性が目を閉じている。顔だけじゃない。体のどこを取っても綺麗の一言だ。
慣れてしまったんだろうか。三頭さんとこういう事する事に。
三頭さんが目を開けた。
「達也、ふふっ、幸せ」
唇を塞がれた。そしてもう一度。
「ふふっ、一杯して貰っちゃった。これで二週間は持つかな」
「えっ、たったの二週間ですか」
「そうよ、たったの二週間。だから二週間後はまた…ねっ!」
「三頭さん、もう午後五時ですけど」
「ぶーっ、二人の時は加奈子でしょ。もう一度言って」
「加奈子さん。もう午後五時ですけど」
「午後五時がどうかしたの?」
「だってご家族の方が午後六時には帰って来るって言ってましたよね」
「ふふっ、まだ一時間もあるわ。だから、ねっ」
俺達は結局午後一時に会ってから午後六時ぎりぎりまでしていた。流石に疲れた。
「加奈子さん、大丈夫ですか?」
「大丈夫よ。こうして達也の腕を掴んでいれば」
「そ、そうですか」
加奈子さんは、足がおぼつかない感じがするのは気の所為だろうか。腰の辺りがふらふらしている。
「達也、駅の傍の喫茶店で少し休もうか?」
「分かりました」
ふふっ、しすぎたかな。ちょっと腰に来ちゃった。えへへ。でも嬉しいだけ。
喫茶店の中で
「そう言えば、加奈子さん、大学は何処に行くんですか?」
「だいたい決まっているけど。達也は何処にするの?」
「俺ですか。全く決めていません」
「じゃあ、私と同じ所にして」
「何処ですか?」
「帝都大文学部」
「はっ?ムリムリ。俺なんかがいける所じゃないです。俺は私学で十分です」
「駄目よ、達也は私と同じ大学に入って。お願い。そして二人でキャンパスライフ楽しもう」
なんか加奈子さん、頭がお花畑になっているような。
この季節になると夜の帳が降りるのは早い。もう一度加奈子さんの家に送ってから自分の家に戻る事にした。
「達也、今日はありがとう。また二週間後に会おうね」
「はい」
「達也」
チュッ、チューッ…。
「ふふっ、じゃあまた明日」
「…………」
完全に加奈子さんリードになっている。しかしこのままでは。玲子さんの事、早苗の事、そして涼子。もっと真剣に考えないと。時間は勝手に過ぎて行くから。
――――――
さてさて達也君。ますますですね。頑張ってえ~。
次回をお楽しみに
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