達也の気持ちと加奈子の思い
俺は、三頭さんの家から戻りながら全く頭の中が思考停止になっていた。好きでも無い人とただしてしまった事に。
家に戻る頃にやっと頭が少し戻って来た。何も言わずにそのまま家の中に入り自分の部屋に入った。
俺は最低な男なんだろうか。涼子の時は好きという気持ちがあった。だから抱いた。お互いが嬉しかった。
でも加奈子さんとはどうなんだ。図書室の担当で先輩。後から確かに綺麗な人だとは思ったけどそれだけだ、恋愛感情はない。
その後も花壇の小屋や体育祭で告白されたけど、俺は涼子の事も有ってそんな気持ちにはとてもなれなかった。
涼子の事で女性に恋愛感情を持つことを頭が拒否しているのかも知れない。普通に見たら素敵な人だ。
でも今日はプールに一緒に行った。彼女に何の思いも無ければ行かなくても良かったはず。じゃあ、俺の心の中に彼女はいるのか………………。
大切な人だ。でもこれは好きという感情ではない。
今度会う時、どんな顔して会えばいいんだ。彼女は俺にどんな態度で接してくるんだろう。
駄目だ。俺の頭のレベルでは全く分からない。陽キャ諸兄、頼むからマニュアルつくってくれ。
幸い、早苗とプールに行くまで後三日ある。あいつには迷惑掛けたくない。なんとか気持ちの整理をしてから会わないと。
次の日、俺は爺ちゃんに頼んで稽古をつけて貰った。午前中二時間びっしりと空手と棒術で自稽古と組手をした。でも吹っ切れない。
稽古が終わり、爺ちゃんと冷たい麦茶を飲みながら
「爺ちゃん、明日も来て良いか」
「構わぬよ。達也、顔にどうすればいいんだと書いて有るぞ」
「えっ?!」
「達也は昔から思いがよく顔に出る。組手している時は、何処から来るか分からぬまでに成長したが、人間としてはまだまだだな」
そういう事か。
次の日も爺ちゃんに稽古をつけて貰った。
「達也、迷いが多すぎる。次の手が遅すぎるぞ。動きが丸見えだ」
「はい」
また午前中二時間昨日と同じ様に稽古をした。それが終わり冷たい麦茶を爺ちゃんと飲みながら
「爺ちゃん、聞いてくれ」
「うんっ?」
俺は素直に今の自分の気持ちを話した。三頭さんとの事も。
「そうか。達也は自分の心に素直にしているだけなんだろう。ならばそれで良いではないか。飾っても直ぐにばれる。
その三頭さんという子もお前を本当に好いたからこそお前を頼った。その子は無理して付き合って貰っても嬉しくないだろう。
他の子も同じじゃ。しかし…三頭、どこかで聞いたような?」
三頭さんと会ってから二日目の夜、三頭さんから連絡が入った。
『達也、私』
『はい』
『どうしたの元気ないなあ。あれから二日だけど、達也の声が聞きたくなって』
『そうですか』
『ねえ、どうしたの。あんな事した私が嫌いになった?』
『それは絶対にありません』
『そっか、良かった。達也この後の夏休みの予定ってどうなっているの?』
『正直に言うと、明後日早苗とプールに行きます。その後、立花さんと二人で彼女の家の別荘に行きます。その後、家族で海に出かけて、あっ、その時早苗も来ると思います。そして道場の合宿。全部終わるのは八月の二十日です』
えっ、立花さんと二人で彼女の家の別荘にいく!
『達也、立花さんと二人で別荘って?』
『親の依頼です。俺の意思じゃ有りません。心配しないで下さい。従者の方も一緒です。それに…絶対にしませんから!』
何で俺こんなに強く言うの?
『分かった。信じている。後八月終わりの方で良いから会えないかな?』
『良いですよ。いつがいいですか?合宿が終わった翌々日の二十二日で良いですか?』
『うん。行く所は二人で考えよ。達也』
『はい』
『達也、私の名前呼んで』
『…加奈子』
『ふふっ、嬉しい。達也またね』
『はい』
どうしたんだ俺?
私、三頭加奈子。達也と体を合せてから色々考えた。あの時は計画していたとは言え勢いでしたところもあった。
それから二日間、彼から連絡が無かった。私からもしていない。だからもしかして、彼に嫌われたんじゃないかと思った。
だから今電話した。そしたら初めとんでもない事を言われて焦ったけど、彼「ぜったいしないから」って思い切り大きな声で言ってくれた。
彼は嘘をつかない人。だから安心出来る。桐谷さんは、まだ問題なさそう。彼は彼女の事を幼馴染の範疇でしか見ていない。態度もそうだ。だから彼女が割込もうとしてもブロックできる。
でも立花さんは別。彼と彼女の親の合意の下で付き合い始めている。いやまだか。彼は彼女を友達としても受け入れているようには思えない。問題は私が卒業した後、彼女のアドバンテージは大きい。
もっとも彼が私に向いてくれたらの話だけど、さっきの電話だとほんの少しだけどアリの一歩だけど進んだ感じ。
だって次会う事も躊躇なく受けてくれた。ふふっ、可能性あるかも。
――――――
ふむ、どうなる事やら。
次回をお楽しみに
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