図書室は静かにしよう
今日は月曜日。三頭先輩と図書室担当として打合せの日だ。だから担当も一緒にする。俺は放課後早めに職員室に行って鍵を借り図書室を開けた。
PCを立ち上げて開室処理をしていると先輩がやって来た。
「達也、今日も早いわね」
「…………」
無言の抵抗だ。
「分かったわ。立石君。生徒が来ない内に連絡事項だけ言うね。本当は桃坂先生も一緒だと良いんだけどね」
「はい、三頭さん始めましょう」
「まったく。もうすぐ中間考査で図書室利用者が多くなるから室内の汚れに注意するようにという事と退室時間を厳しく守らせるようにという事よ。いつもの考査前と同じね」
「分かりました」
「じゃあ、私がPCの操作を行うから席を換わって」
「いえ、今日は俺が担当します。変更日無しでいいです」
「どういう事?」
その時、来室し始めた中に立花玲子の姿が有った。
「達也さん、あなたが終わるまで私がここでお待ちします」
「…………」
どういう事。誰この子。私がじっと見ていると
「初めまして。今日2A達也さんと同じクラスに転入して来ました立花玲子と言います」
「私は三頭加奈子。立石君と一緒に図書室担当をしています」
「そうですか。これから宜しくお願いします」
「こちらこそ」
なんなんだろう。この子。いきなり達也を名前呼びして来た。なんか不味い予感。
「達也さん、PCの操作は三頭先輩に任せて学校の案内をして頂けませんか?」
「だめです。月曜日は二人体制にしています」
「そうなのですか。仕方ありませんね。案内は明日にするとして、今日は達也さんが終わるまでここで待たせて貰います。幸い教科書も先ほど郷原先生から頂けましたから。今日は一緒に帰りましょう」
なるほど、それで大きな紙袋を持っている訳か。
何この子。月曜日は達也と一緒に帰れる日なのに。でも今日だけか。
「三頭さん、達也さんはこれから毎日私と帰ります。お気遣いなく」
「何言っているの!」
つい大きな声を出してしまった。室に居る生徒がこちらを見ている。
「三頭さんも立花さんもここは図書室です。静かにして下さい」
「「ごめんなさい」」
やっと予鈴がなり生徒が退室すると、俺は本棚への返却処理と本の本棚への戻し、図書室内の確認を行った後、締め処理をして図書室を閉めた。
三頭さんは今日は帰っている。立花さんは、下駄箱で待っていると言っていた。俺は職員室に鍵を返すと急いで下駄箱に行った。
案の定、男子生徒に囲まれている。俺は意図的に声を掛けた。
「立花さん」
「あっ、立石さん。遅いから知らない人たちから声を掛けられてしまいました」
「ちっ、立石の知り合いか、行こうぜ」
「そうだな」
二人の男子生徒が立ち去って行く三年生みたいだ。しかしまいったな。目立ちすぎるよこの人。
ふふっ、やはりこの人の側なら安心出来る。
「立石さん、玲子怖かったです」
そう言って俺の腕に巻き付いて来た。
「止めて下さい。ここは学校です」
「ふふっ、それでは学校の外では宜しいのですね」
「…それも勘弁して下さい。俺達はクラスメイトだけですから」
「ふふっ、聞いてないんですね。今は宜しいですわ」
「…………」
何言っているんだ。この女。
仕方なく、立花玲子の教科書の入った袋を俺が持って駅前まで一緒に歩いた。
初め何も言わなかったが、
「達也さんは私があなたの高校に転入して来た理由を聞かないのですか?」
「…………」
「いいですわ。いずれ分かります。それより明日からお弁当を持ってきます。一緒に食べましょう」
「それは断ります。立花さんに作って貰う理由は有りません」
「理由はあります。私があなたと一緒に昼食を摂りたいからです。私とは昼食を摂る事出来ませんか?」
「それは……」
「では決まりました。好き嫌いありますか?」
「ない」
何なんだ、この女いきなり一緒に帰るとか弁当作って来るとか。大体俺達が会ったのは正月の一回だけだろう。
俺達が駅に着くと
「教科書持って頂きありがとうございました。私は達也さんとは別のホームなので、ここで失礼します」
「ああ」
俺は家に帰り、着替えてからダイニングに行くと珍しく父さんがもう座っていた。
「達也、帰ってか」
「はい、今帰りました」
「早速だが、立花さんの所のお嬢さんどうだった?」
何で父さんが知っているんだ?
「なんで父さんが立花さんの事知っているの?」
「そうか、達也には言っていなかったな。ちょっとリビングに行かないか?」
「良いけど」
父さんと二人でリビングに行くと
「達也、今年の正月に立花物産の社長がお嬢さんと一緒に来ただろう。それはお前に玲子さんを紹介する為だ」
「…………」
何を言っているか分からない。
「実はな、立花物産の社長立花洋一さんとは仕事上でもプライベイトでも仲が良くてな、いつのまにか自分達の子供の話になった。
立花物産は幸い長男がいて跡取りも問題ない。我が社もお前が跡取りになるから心配していない。
そこでだ。お前と立花さんの長女である玲子さんがお互いに認め合ったら一緒にするというのはどうかという話になってな。
取敢えず、二人を会わせて、感触が良ければ高校卒業後婚約して大学卒業後結婚させてはという話になった。
但し、二人の心が通じればだ。無理強いはしない。もちろん仲良くなるのが早ければ高校の内にも許嫁とするのは嬉しい事だが」
なんて事言い始めるんだ。父さんは。俺はあの人の事何とも思っていない。むしろ迷惑な位だ。
「達也、強制はしないが玲子さんと真剣に向き合ってくれないか」
「父さんがそこまで言うなら考えるけど、期待しないでくれ」
「だが、容姿は悪くないだろう。頭も前の学校ではトップだ」
「父さん、この話大学卒業後なら直ぐにも承諾したんだけどな。高校は静かに過ごしたいんだ」
「そうか、では脈は十分あるという事だな。よし急ぐことはない。目標は大学卒業後だ。向こうにもそう伝えておく」
「いや、父さん俺は……」
「なんだ、達也、大学卒業後なら良いと言ったじゃないか」
「…………」
口が滑った。頭の中に有ったことをつい言ってしまった。
父さんが、ダイニングに行ってしまった。これは行動を考えないと不味いな。
しかし、今年のおみくじで書いて有った待ち人とは玲子さんの事じゃないよな。俺待っていないし。
――――――
達也、一難去らぬうちにまた一難です。高校生活の平穏は何処へやら?
次回をお楽しみに
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