転校生
三頭先輩と二日連続で会ったが、それ以降の日はのんびりと出来た。午前五時に起きて家の周りを走り込んだり、逆に午前十時位まで寝ていたりした。
爺ちゃんの道場で稽古したり勉強したりと本来の俺の休みの過ごし方だ。どうも女子というのは家族と幼馴染を除くと無い頭を使わなくてはいけないので、今度健司にでも色々聞いてみる事にするか。あいつイケメンだし。
一番いいのは縁がない事だが。結婚は恋愛が一番という諸兄がほとんどだろうけど俺は別に見合いでもいい。
相手を選ぶほど俺は器量がある訳ではない。
そんな事を思いながらいつものGWが過ぎ、また学校が始まった。もうすぐ中間テスト頑張らないと。
学校の最寄りの駅の改札から同じ制服を着た生徒達が一杯出て来る。疲れた顔をしている人もいれば溌溂な顔をしている奴もいる。
まあ、元気な事は良い事だ。そんな感じで教室に入ると早苗も健司も来ていた。
「健司おはよ」
「おはよ達也。爽やかな顔しているじゃないか」
俺の顔見て爽やかと言う奴はお前だけだよ健司。いい奴だなお前。
いつもの調子で健司と話をしていると予鈴が鳴って担任の郷原先生が入って来た。少し緊張しているがどうしたんだ。
「おはよう、みんな。早速だが転校生を紹介する」
教室がざわつき始めた。
「今頃転校生って?」
「訳ありかな」
「女子だと良いな」
「男子はすぐそれだから」
「静かに。入って貰うぞ」
そう言って郷原先生は教室前の出入り口の方に手招きした。
「っ!」
入って来たのは、腰までの艶のある髪の毛、大きな切れ長の目、スッとした鼻筋。制服の上からでもはっきり分かる大きな胸、身長は百六十三センチ位ある。
「おおーっ、すっげえ美人だ」
「スタイル抜群だぜ」
「背が高いな」
「俺友達になりたい」
私は彼を直ぐに見つける事が出来た。
「初めまして、今日から皆さんと一緒にお勉強させて頂きます立花玲子と言います。前の学校は帝都女学館です。宜しくお願いします」
「すっげえー。あのお嬢様学校かよ」
「しっ、五月蠅い」
「立花さん、立石君の横の席に座りなさい」
「はい」
あれ、GW前まで誰かいたよね。俺の左の席?
「な、なんだ。どうして立石の隣なんだ」
「分からん」
私は、廊下側の一列目と二列目の間をゆっくりと歩き、彼の前で
「お久しぶりです達也さん。宜しくお願いします」
「…………」
「「「え、えっ、ええー!」」」
「ど、どういう事。今名前呼びしたよね」
「聞いた聞いた」
「静かに。立石、後で立花さんを連れて学校の中案内してくれ。それとみんな、もうすぐ中間考査だ。もう二年だからな。気を抜くなよ。以上だ」
郷原先生が教室を出て行った。
他の生徒が一斉にこっちを向く。斜め前の女子生徒が後ろを向くと
「立花さんって立石君と知り合いなの?」
「はい、彼の家にはご挨拶にも行っております」
「えっ、家に挨拶。それって?」
「ふふっ、ご想像にお任せします。ねえ達也さん」
「…………」
ヤバいヤバい、これはヤバいぞ。この女いきなり爆弾発言しやがった。やっと涼子の事が静かになって学校生活を過ごせると思った矢先に。
一限目の先生が入って来た。
「達也さん、教科書見せて頂けます?」
ゴソゴソと机を寄せて来た。
「いや、机は寄せなくていい。教科書貸すから自分で見てくれ」
「でも、貴方が」
「おい立石、立花さんと教科書一緒に見ろ」
うっ、先生なんて事言うんだ。
何とか午前中の授業が終わると
「達也さん、昼食はいつも如何しているんですか?」
「健司…」
くそっ、あいつ逃げやがって。
「ああ、いつも学食だ」
「そうですか、では私も一緒に」
周りの奴らが俺達の会話に耳を立てていやがる。俺達が立ち上がると何故か、男子生徒が付いて来た。
お前らいつも購買だろう。明日から何とかしないと。
私桐谷早苗、達也の幼馴染。あいつとは小さい頃から一緒に遊んできた。幼稚園も小学校も中学校も一緒。高校だって一緒だ。
でもあいつはあんな顔つきであんなごつい体しているから女の子なんて誰も寄り付かない。だからこいつには高校を卒業するまで彼女なんて出来ないと私は安心していた。
だけど中学からの知合いの本宮涼子と恋愛関係になった。まさかの出来事だ。こいつの何処に良い所見出したのか知らないが。
しかし、彼女は浮気した上、許した達也を更に裏切る様な事をしたらしい。おかげで今は2Bでボッチになっている。
安心していたのに。今度は立花玲子だ。しかし、こちらはどうも事情が違うらしい。この人を見ていると達也にまだ恋愛感情がある様には見えない。だとすれば、でもまさか。
達也はいずれ立石産業を継ぐ身。ありえるか。何とかしないと。
俺達は学食に着き、彼女が入って行くと一斉にこちらに視線が集まった。
「おおー。誰だあの子?」
「すげえ美人だな」
「何と言ってもスタイルだよ、女子にしては背が高くて胸が大きいし。お尻もしっかりしている」
「でもよお、立石が付いているぜ」
「またかよ、あの野郎。いつもいつもじゃねえか」
「しかしどうしてそうなるんだ」
「さあ?」
「達也さん、学食とは騒がしい所ですね。明日から私がお弁当を持って来ましょうか?」
「止めてくれ。要らぬ誤解を生む」
「誤解とは?」
「…………」
「ふふっ、宜しいではないですか。言いたい人には言わせておけば」
この女メンタルつえー。
「さっ、早く食べて私に学校を案内して下さい」
「分かった」
俺はいつものB定食だ。彼女はサンドイッチ。空いているテーブルに向い合せで食べていると
「達也さん、やはり明日から私が作ってきます。ここでは落着きません」
「…………」
落着かない理由はお前だよ。全く。
俺の方をじっと見ると
「私が理由なんですか?」
駄目だー。もう勘弁してくれ。俺の頭の中筒抜けだー。仕方なく何も考えずに定食を食べる事にした。
「ふふっ、達也さん可愛いですね♡」
もう勝手にしろ。
食事が終わると俺は校内から説明する事にした。一番先に行ったのは図書室。図書委員をやっていると言うとまた何か言われそうなので、簡単に説明を済ませると
「達也さん、図書室の事詳しいですね。いつもご利用するんですか?」
「ああ、色々とな」
「それは良い事ですね」
その後、実験室、音楽室と見た所で時間になってしまった。
「後は、体育館とグラウンドだから、明日の昼説明します」
「今日の放課後は?」
「いや、放課後はちょっと用事があるんだ」
「そうですか」
午後の授業は二限ある。それが終わると
「達也さん帰れますか?」
「用事があると言ったはずだが」
「そうですか。その用事は何時まで?」
「え、えーと。下校時間までだ」
「それでは、図書室で待っていましょうか」
達也さん、あなたが図書委員だって事位分かっておりますよ。
「分かりました。勝手にして下さい」
――――――
うーん。まだ、この時点ではただの転校生ですね。しかし初日からこれですか。
次回をお楽しみに
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