達也の責任そして早苗へのお願い
先月の加奈子さんの成人のお披露目パーティは滞りなく終わり、生活は普通に戻った。
俺は今早苗と一緒に夕食を摂っている。
「達也、金目の煮付け初めて作ってみたんだけど、どうかな?」
「うん、とても上手い。でもちょっと汁が濃いような感じがする」
「そうか、じゃあ今度作る時は、少し加減してみるね」
「早苗、料理のレパートリーが大分増えたな」
「ふふっ、達也と一緒になった時、おば様から何も言われない様に頑張っているの」
「そうか」
こんな雰囲気の時にあの事を持ち出すのは気が引けるが、いつかは言わなければいけない。やはり早苗に理解して貰うのが最初だろう。
「早苗、食事が終わったら大事な話が有る」
「大事な話?」
今更なんだろう?私にとって大事な事は達也の妻になる事。でもそれはもうすでに周知の事実として決まっている事。
「ああ、取敢えず先に食事を終わらせてからだ」
「…………」
早苗が食器を洗い終わり、リビングに置いてあるソファの方へ来た。そして俺の隣に座るとこっちを向きながら
「何、大事な話って?」
「今から言う事は、取敢えず最後まで聞いて欲しい。途中言いたい事は一杯あるだろけど」
「それは内容次第だけど」
「そうか」
俺は、涼子との約束、そして加奈子さんと涼子の件で話した結果を早苗に伝えた。最初は怒り、そして悲しみの顔に変わって行った。
「達也、なんで最初にその話を私にしてくれなかったの。なぜあの女(三頭加奈子)なの?」
言葉の節節に相当の怒りを感じる。
「早苗に先に話す予定だったが、タイミングが合わなかったんだ」
「どんなタイミングよ。これだけ一緒に居るのよ。いくらでも話す機会は有ったでしょ」
「ごめん、早苗。それについては謝るしかない」
「じゃあ、これからもそのタイミングとやらが合わなければ、これだけ重要な事と同じでもあの女に先に話すの?
達也、私はあなたにとって何。誰なの?」
「早苗は俺にとって世界で一番大切な人だ。それは命にかえても嘘偽りはない」
「そこまで言うなら、何であの女が先だったのよ」
「だからさっき言ったじゃないか。タイミングが合わなかったんだって」
「そんな事知らないわよ」
俺の隣に座りながらこちらを向かずに前を向いている。これは相当怒っているな。話が進まない。
俺もずっとそのまま待っている。どの位経ったか分からないが、
「達也、今度同じ事をしたら、本当に私知らないからね。いくら私が世界で一番大切な人だって言っても現実行動が伴ってないじゃない。あの女を私より優先しているという事じゃない。それは嘘を平気で吐いているという事よ」
「だから、今回の件は許してくれと言っている」
また、黙ってしまった。話が進まないままに一時間が経った。
「達也、それで本宮さんの事をどうするつもりなの?」
「これはまだ俺の中の考えだけだ。だから決めた訳でもない。当然誰にも言っていない。だけど早苗は俺と一緒だ。だからお前に先に聞いて欲しい。それで一緒に考えて欲しい」
今度はじっと俺の目を見ると
「良いわ。話して」
「涼子を立石家の養女にしようと思っている」
「何ですってーっ!」
俺の首を絞めそうな勢いで俺に顔を近づけて来た。
「何よそれ、本宮さんを立石家の養女にするって。全く私の頭ではついていけない。私はあなたの妻になるのよ。
あの人はどういう立場なの?まさか養女にした上であの人の子供を作ろうなんて考えていないわよね」
「いや、その通りだ」
バシッ!
早苗が初めて俺の頬を思い切り叩いた。避けようも有ったが、それは別の話だ。
「馬鹿にしないでよ。私帰る」
早苗は怒りを思い切り出しながら帰って行った。
やはりこうなったか。しかし、涼子を救う為にはこれしかないと思ったのだが。
次の朝、早苗は来なかった。仕方なく、冷蔵庫にある食事の時に余った冷凍ご飯を温めて塩で食べた。参った。
大学に行く為にエントランスに行くと涼子しかいなかった。
「早苗は?」
「知らないです。達也知らないの?」
「…………」
仕方なしに早苗の部屋に行き、インタフォンを押したが出ない。ドアをノックしても出なかった。
スマホに連絡してもコールしたままだ。出ない。
仕方なしに駅の改札に行って玲子さんと四条院さんと合流したが、
「達也さん、桐谷さんはどうしたんですか?」
「いや、ちょっとな」
桐谷さんと何か有ったのね。どういう事か知らないけど…少し様子見ましょうか。
俺達が、大学に着き、教室に入ると早苗がいた。俺は直ぐに傍に行き、
「早苗」
「声掛けないで!」
「外で話さないか?」
「声掛けないでって、言ってるでしょ!」
早苗のあまりの声の大きさに周りの学生が驚いている。仕方なしに俺は他の子の所へ戻った。
二限目の講義を受ける為教室を移動したが、同じだった。口を利いてもくれない。
昼食も早苗は一人で摂った。午後からの講義も俺達と離れて聞いた。
大学が終わり、部屋に帰って来た。いつもなら直ぐに早苗が来て色々始めるが今日は来ていない。
夕食の時も来なかった。仕方なしに近くのコンビニにカップ麺を買いに行った。一個だけ手に取ったが、明日も来なかったらと思うと取敢えず六個買った、朝と夕方の分だ。
次の日の朝も早苗は来なかった。
その次の日も来なかった。
大学では離れて座っている。口も聞いてくれない。偶に早苗の傍に男の学生がやって来て話をしている。その姿を見ると胸が苦しい。
流石にこれはおかしいわ。これだけ桐谷さんが達也さんを避けるなんて。余程の事が無い限りこんな事にはならない。それに最近の達也さんの憔悴も著しい。
でもなんで本宮さんは動かないんだろう。彼女は桐谷さんの隣の部屋。状況はある程度は分かっているはずなのに。彼女が干渉できない理由でもあるのかしら。
ここはそろそろ私の出番ね。私は大学の帰りに
「達也さん、少しお話しませんか。出来ればお部屋に伺います」
「いいですよ。部屋汚いし」
「えっ?!」
あり得ない、桐谷さんが達也さんの身の回りの世話をしているはず。最近の憔悴といい、何か関係あるのかしら。それにこの話をしても本宮さんは口を出してこない。どういう事。
――――――
おっと、ここに来て…。
次回をお楽しみに。
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