二次試験の後で
俺、立石達也。二次試験の二日後、今日は玲子さんとデパートの有る駅で待合せだ。彼女は実家に帰っているはずなので、何故わざわざここまで来るのだろうか。
いつもの様に二十分前から改札で待っていると十分位して玲子さんがデパートの有る道路側から歩いて来た。
いつもながら綺麗だ。周りのすれ違う男女がチラチラ横目で見ているのが分かる。
「おはようございます達也さん」
「おはようございます玲子さん。今日は車で来たんですか?」
「はい、実家からこの街までは少し遠いので車で参りました。達也さんもここの方が宜しいかと思いまして」
「こちらから実家の近くの駅まで行っても良かったですけど」
「あの辺は何もありませんから。それに今日はデパートで買い物にお付き合いして貰おうと思っています。宜しいですか?」
「いいですよ」
昨日、早苗と来ているが、同じショップにはあまり入らなかった。玲子さんは洋服というよりハンドバックや小物を買っている。まあ、はっきり言ってショップの人が白い手袋で商品を触っている所だ。
早苗も俺の妻になったらこういう所に興味を示すのかな。今の所彼女はそういう気配は見せない様だが。
そう言えば妹の瞳もこういう所には入らない。やはり趣味の違いか。そして俺の手には彼女が購入した商品のブランド名が入った袋がある。
昨日から俺は荷物持ちらしい。買い物した後もあちらを見てこちらを見てをした後、
「達也さん、そろそろ昼食にしませんか?」
「良いですよ」
はて、こんな袋を持って何処に行くつもりなんだろう?
デパートを出て駅とは反対方向に行くと黒塗りの車が停まっていた。俺達が近づくと運転席のドアが開いてセキュリティの沖田さんが出て来た。
「お嬢様、立石様。お待ちしておりました」
そう言って後部座席のドアを開けてくれた。俺が持っている袋は沖田さんがトランクに仕舞った。
「達也さん、久しぶりなのでホテルのレストランを予約してあります」
「そうですか、ありがとうございます」
多分、立花物産関連企業のホテルだろう。
着くと直ぐにドアボーイが後部座席のドアを開けてくれた。玲子さんが降りた後、俺が降りるとチーフマネージャが出て来て
「お嬢様、お待ちしておりました」
案内されたのは最上階のレストラン。良かった個室なら頭痛い所だった。
「ふふっ、達也さん。個室は予約しておりませんよ」
いけない、この人俺の頭の中読めるんだった。
「達也さんの心が分かるのは私だけではありませんよ」
「…………」
もう考えるの止そう。
食事をしながら
「達也さん、帝都大学への通学は達也さんの実家からは無理です。今、私が住んでいるマンションに一緒に住みませんか?」
「えっ、いやまだ合格したわけでもないので、住まいまでは考えていません」
「大丈夫ですよ。達也さんは、安心して通学の為の住まいを探せます」
どういう意味なのか分からない。
「でもまだ合格したわけではないので、合否発表有ってから考えます。落ちていたら公立大学の後期試験もありますから。そうなると場所は全く違いますし」
ふふっ、達也さんは用心深い方ですね。でもあれだけ勉強したんです。あなたが落ちる事はありませんよ。でも今はそう言う事で。
「分かりました。では合格したという前提で話しましょう。先ほどのお話如何でしょうか?」
「まあそう言う前提で考えると…なんか不合格フラグ立ちそうなのでやっぱりこの話止めましょう」
この話をすれば早苗の事も加奈子さんの事も出て来る。今は話したく無いのが本音だ。
「ふふっ、達也さんはそういう験担ぎをするのですね。そうであれば仕方ないです。この話は止めましょう」
それから妹の瞳と玲子さんの兄洋二さんの話になった。どうも洋二さんは家族にはもう話をしているらしい。
今度両親にも紹介したいと言っているそうだ。年末の買い物の時から考えれば凄いスピードだが、瞳も今年は高校三年。おかしくは無いだろう。
彼とは七才違いだが、妹の性格を考えれば洋二さんの様な人が良いのかもしれない。
食事が終わり、少し気温は低いが風は無い様なので中庭に出る事にした。東屋も有るから寒くなったらそこに行けばいい。
二人で歩きながら
「玲子さん、大学四年間の事なんですけど」
「はい、分かっております。お友達としてお付き合いしたいという事ですよね。桐谷さんの事、三頭さんの事を考えれば達也さんがそう言われるのは当然の事です。
でも大学は四年間あります。どんなことが起こるのか分かりません。宜しい事ばかりなら良いですが、世の中そんなに平和ではありません。
だから私も心構えはしておくつもりです。友達として」
玲子さんは、何を言いたいのだろうか。俺の頭ではさっぱり分からない。俺はどんな事が有っても早苗を放したり見捨てたりする事はない。
ましてや加奈子さんとは家と家との繋がり。個人の話ではない。それを考えれば、万が一も起こり得ない事を言っているのだろうか。
「玲子さんが大学四年間友達としていてくれるなら俺としても嬉しい事です」
「達也さん、でも高校卒業まではまだ少しあります。この期間、早苗さんはまだライバルです」
「へっ?どういう意味ですか?」
「こういう意味です」
いきなり抱き着いて来た。
「達也さん、寒くなりましたあそこの東屋に行きましょう」
手を引かれながら中庭内にある東屋に行くと暖房がしっかりと聞いて暖かい。そして何故か誰もいない。
「達也さん」
玲子さんが少し背伸びして目を閉じて来た。
「玲子さん、出来ません」
「ここだけで良いのです。これ以上は望みません。お願いです。お願いです」
彼女が思い切り俺を抱きしめて来た。彼女の大きな胸が鳩尾に当たる。そのままにしているともう一度
「達也さん、お願いします」
「本当に今回だけですよ」
手を彼女の背中に回してゆっくりと唇を合わせると思い切り押し付けて来た。少しそうしているといつもだったらしない事もして来た。
長い口付けが終わると
「達也さん。やはり私も女です。して頂けないのは心が苦しくなります。偶にでいいです。本当に偶にでいいです。気が向いたらお相手して下さい。後、高校の卒業記念という事でどこかで…」
「…………」
うーん。何かさっきと言っている事が違う。どういうつもりなんだろうか。俺は玲子さんとするつもりは全くないのに。
玲子さんが俺の唇を彼女のハンカチで拭いてくれた。彼女も自分の唇を拭いた後、リップをし直した。
「ホテル内に戻りましょうか」
「はい」
俺達は、外の中庭からホテルの中に戻ると
「達也さん、もう少し時間宜しいですか」
「構わないですが」
「ではもっと景色の良い場所に行きましょう」
連れて来られたのは客室では最上階にあるスイートルーム。
「あのここって」
「はい、バルコニーから見る景色はとても綺麗です。だからここにしました。直ぐにお茶の用意をさせます」
少ししてルームサービスが紅茶とケーキを運んできた。ルームサービスが部屋に置いて出て行くと
「さっ、頂きましょうか。先程外に出ましたので体が冷えてしまいました」
俺はそうでもないんだけど。
対面ではなく俺の横に玲子さんは座って来た。紅茶をティーポットからカップに注ぐと
「どうぞ」
言われるままにカップを持ち上げて口に含むととてもフレーバーな香が鼻に抜けて行った。
「美味しいですね」
「はい、私も好きな紅茶です」
玲子さんはカップをテーブルに戻すと
「達也さん」
そう言って俺に寄りかかって来た。
俺が家に帰ったのは午後七時近くだった。
「ただいま」
タタタッ。
「お兄ちゃんお帰り。ふふふっ、石鹸の匂いだけじゃ玲子お姉ちゃんの匂いは消せないわよ」
タタタッ。
「お母さーん。お兄ちゃんが今日も玲子お姉ちゃんの匂いを付けて来たー」
おい、お前の嗅覚はどうなっているんだ。
夕食が終わり午後九時過ぎにスマホが震えた。
『はい』
『達也、私。明日の件だけど車で迎えに行くわね』
『駅でお願いします』
『分かったわ。ねえ一泊できない』
『それは流石に。まだ公立大学の入学試験も残っていますし』
『そこは受けなくてもいいわ。達也は帝都大に入る事は決まっているんだから』
『どういう意味ですか?』
『達也が一生懸命頑張った成果がしっかりと出るという意味よ。受かるでしょ』
玲子さんといい、加奈子さんといい、俺が受かる事を前提で話している。まだ受かるかなんて分からないのに。
『それはまだ分かりません。とにかく一泊は無理です』
『そうか仕方ないか。じゃあ明日の午前九時に駅で良いわね』
『はい』
電話が終わった後、俺はベッドの上で横になりながら
早苗はいい。俺が小さい頃から決めていた相手だ。加奈子さんも仕方ない。だが玲子さんは、父親同士が一時の話で進んだ関係。
薄情な事は考えたくないが、四年間玲子さんの相手にする気は無い。涼子の様に区切りをつける訳には行かないのだろうか。
――――――
ふむ、玲子さんとの話、綺麗に終わったのではなかったのかな?
次回をお楽しみに。
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
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