二次試験
俺、立石達也。帝都大と公立大学へ出願を出したが、二次試験の日程が重なった為、公立大学の試験を後期にした。帝都大の発表が公立大学試験前なので、結果次第では受けなくても良さそうだ。
三頭家での勉強はほぼ終わった。勉強前と違って俺自身数学や地理歴史に自信が持てる様になった。最終日三日前に二次試験の模擬試験まで行う熱の入れようだったが、講師の人がこれなら問題ないと言っていた。
俺が受かればこの人も三頭家への立場が維持できるんだろう。
帝都大には一段階選抜が有るがこれは全員が無事に通った。
問題は試験日の宿泊だ。加奈子さんは自分のマンションにと強く言って来たが、当然それ以外の人、早苗、玲子さん、涼子、それに何故か四条院さんまで反対して来たので、加奈子さんに何とか理解してもらい、別のホテルといっても立花物産の関連会社のホテルだが玲子さんが用意してくれた。
立石産業関連でも良かったのだが、玲子さんがだいぶ前から押さえていたようだ。俺を含めて五人がそこのホテルに泊まることになった。当然部屋は別だけど。
一応前日に入り、交通関係や場所の確認もした。俺達五人で歩いていると、周りの人の視線が凄い。まあ慣れるしかないか。
帝都大二次試験は天候や交通の影響もなく予定通りの時間で行われた。二日間の日程だったが、全問解答し結構自信のある解答も結構あった。
特に初日に有った数学と二日目に有った地理歴史は勉強の成果が良く現れたようだ。国語と英語は自信教科なのでこれも問題はなかった。
だが大丈夫だなんて思うと不合格フラグが立ちそうなので、その思い自体を止める事にした。
二日目は午後四時に試験が終わった。そのまま皆で電車で帰宅すると思っていたが、玲子さんが
「私はこのまま実家に戻ります。皆さんとお会いするのは卒業式の時ですね。でもその前に発表の時会えますね」
と言うと今度は四条院さんが
「私もこのまま実家に戻るわ。達也、今度は卒業式の時ね。でもその前に発表の時も会えるかな」
なんか二人と同じ言葉を言っている。いつの間にか帝都大学の門の前に停まっていた大きな黒い車にそれぞれが乗って帰って行った。
受験を終わったばかりの学生や警備の人が目を丸くしている。
玲子さん、二次試験終わったら会いたいと言っていたが無くなったかな。そちらの方が都合が良いが。
「はぁ、お金持ちのお嬢様達は違うわね。でも私には達也が居るから」
「達也、私も」
「早苗、涼子じゃあ俺達も帰るか」
「「うん」」
本宮さんは、自分の立場をきちんと理解している。三頭さんもこの位とは言わないけれど、少しは自分の立ち位置を考えて欲しい。
でも達也が次の日きちんと三頭さんに言ったと言っていたから少し気持ちが落ち着いた。あのままだったら受験が大変な事になっていた。
俺達の家の近くになり涼子が電車を降りた。降り際に
「達也、私も今度会うのは卒業式の時かな。でもその前に発表の時に会えるかな」
「そうだな、体に気を付けてな」
「うん」
彼女が電車を降りてドアが閉まり動き出すと
「ねえ、達也って本宮さんには、なんかいつもとても優しいよね」
「早苗、焼き餅か?」
「決まっているじゃない」
「早苗、お前には十分に言っているだろう。涼子に挨拶しただけで焼餅なんか焼くな」
「分かっているけど…」
分かっているよ、達也。でもあんなに優しい声で本宮さんに言われるとなぁ。まあいいか。私は達也の彼女。本宮さんは友達だから。私にとってもね。
早苗が彼女の家の玄関の中に入るのを見届けてから俺も家に入った。
「お帰り、達也。どうだった」
珍しく母さんが玄関に来た。
「ああ、まあまあだ」
「じゃあ、大丈夫ね」
そう言うとキッチンの方に戻って行った。もう午後六時近い。夕飯の支度をしているんだろう。
自分の部屋に戻り、ホッとしていると玲子さんからスマホに連絡が有った。
『達也さん、二次試験が終わりました。約束通り会って頂けますね』
『えっ、今度会うのは卒業式の時と言っていたので、それはないかと思っていたんですけど』
『ふふふっ、あそこでそんな事言えば、お隣の人が怒りそうですから敢えて言わなかったのです。この位の事は分かって下さい』
なるほど確かにそうだな。
『すみません。その通りですね。ではいつ会いますか?』
この人にもしっかりと伝えなくてはいけない。最初の約束通り大学四年間は友達として対応するが、その後はもう二人で会う事は出来ないと。だけど、俺がまだ帝都大に受かるか分からない状況だ。合否が判明してからでもいいだろう。
『そうですね。明日はお疲れもあるようですから、明後日はいかがでしょうか?』
玲子さんは必ず相手を気遣う気持ちが有る。これは今まで付き合って来て分かった事だ。早苗や加奈子さんに無いとは言わないが、この人のこの辺は気持ち良く感じる。
『分かりました。何処で会いますか』
『デパートの有る駅で午前十時に』
何となく意味は分かるが
『分かりました。午前十時に待っています』
玲子さんからの電話が終わってから直ぐに加奈子さんから電話が有った。
『達也、私』
『はい』
『どうだった試験は?』
『手応えは十分有ります』
『そう、それは良かったわ。ねえ明日か明後日か会えない。もうずいぶん達也と二人であっていない』
会った最後の日からまだ二週間も経っていないが、加奈子さんらしい。
『明日は少し休みたいです。明後日は用事が有るので明々後日なら空いています』
『そう、じゃあ明々後日。午前十時に車で迎えに行くわ』
『駅にして貰えますか』
家の前だと早苗に見られる可能性がある。
『分かったわ。じゃあ明々後日ね』
二つの電話が終わってのんびりしていると
コンコン
ガチャ
「達也」
「早苗か」
「えへへ、いきなり来ちゃった」
「それは構わないがどうしたんだ」
「会いたくなっただけ」
「さっきまで一緒だったじゃないか」
「良いじゃない。ねえ明日一緒にいよう」
やはりな。
「ああ、いいぞ早苗と二人で一緒に居ようか」
「嬉しいー!」
また抱き着いて来た。
翌日、早苗と一緒に彼女の洋服を買いに出かけた。もう春の洋服が一杯出ているそうだ。デパートのある駅まで一緒に行って、いくつかのショップを見て回った。
前はこんなお店は絶対に入れなかった俺だが、入るのに抵抗はあるものの前程ではなくなった。流石に女性ランジェリ―ショップに入るのは勘弁してもらったが。
その後、食事をしてからその時上映していた映画を見て戻って来た。
「達也、まだ午後四時だよ。両親は午後六時まで帰ってこない。だから私の部屋に来て」
目的は分かっているが、早苗ならいいだろう。
「ああ、いいぞ。買い物も持って行かないといけないからな」
俺の両手には早苗の買った洋服の袋で塞がっている。
彼女の部屋に入って袋を置いてコートを脱ぐと
「達也、最近勉強とテストで全然してない。いいでしょう」
「…………」
まあ、仕方ないか。ここで駄目と言ってもあまり意味ないからな。
…………。
彼とこうして居ると本当に心が落ち着く。この高揚感も久しぶり。嬉しい達也思い切り…。
結局午後六時を少し回ってしまい早苗のお母さんが返って来てしまったが、何故か喜んでいた。
――――――
さて、試験結果はどうなりますかね。そしてその後も。
次回をお楽しみに。
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