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それぞれのクリスマス その一


前話とは日付が前後しますのでご了承ください。


――――――


 俺、立石達也。二学期最後の週が始まった。そして週末土曜日はクリスマスイブ。当然、土曜日が早苗、日曜日が加奈子さんと思っていたが、何故か早苗が

「達也、加奈子さんとどうせクリスマスするんでしょ。だったら土曜日にして。私とは日曜日がいい」

 どういう意味で言っているんだろうか?


「早苗どうした?日曜日に加奈子さんと会う事はお前も認めている所だろ」

「いやなの。せっかくクリスマスイブに達也と二人きりでいるのにその後三頭さんが達也と一緒に居るのが。彼女のクリスマスの思い出は私が上書きする。達也のクリスマスの思い出は私が最後で良いの」


なるほどそういう事か。理由は分かったが、それは加奈子さんも同じことを考えているだろう。どうしたものか。取敢えず聞いてみるか。



 その日の夜、俺は加奈子さんに電話した。

「もしもし達也です」

「何達也?あなたから電話なんて珍しいわね」

「実は…」

 俺は早苗の希望を言った。


「なんだ、そんな事か。駄目ね正妻さんは。こんな事で意地張るなんて。いいわよ達也、土曜に会おうか。もちろん朝からね」

「ありがとうございます。では土曜日の朝に」


 俺は加奈子さんとの電話の後、直ぐに早苗にも連絡した。

「早苗、加奈子さんが土曜日にすると言ってくれた」

「本当!でもすんなり変えてくれたわね。おかしいな。まさか! 達也、三頭さんとは何時から何処で会うの?」

「朝からだ。場所は多分、彼女の家か、ホテルだろうな」

「そう」

 おかしいわ。別荘に連れて行ってしまうとか思っていたのに。でも何かある、なんだろう。


「分かった達也。日曜日私達も朝から会おうね」

「ああそうしよう」


 何となく簡単に事は収まったが、女の子の考えというのは分からんでもないが不思議なものだ。



 この二人とは別に涼子と玲子さんとのクリスマスもある。但し二人には絶対に食事と会話だけだと強く言ってある。


 今週も短縮授業だから会うのは、学校が終わってからだ。明日の水曜日が涼子、明後日の木曜日が玲子さんだ。金曜日が空いているのは嬉しい。




 そして翌水曜日の放課後

「達也、行こうか」

「ああ」

 早苗と玲子さんが少し怖い目で見ているが、仕方ない。


 涼子と二人で校門を出ると

「達也嬉しいな。学校からこうやって二人で帰れるなんて、いつぶりだろう」


 確かに涼子と二人で下校したのはいつぶりだったか忘れてしまった。

「そうだな。久しぶりだな」



 涼子の家の最寄り駅で降りると手を繋いで来た。

「ふふっ、こうしていると達也と私が恋人同士だった時を思い出す。あっ、ごめん。こんな話嫌だよね」

「構わないさ。涼子が気にしないなら」

「優しいのね」


 私はあの時の事を思い出すとなんて自分が愚かな事をしてしまったのかと思う。でも過ぎた事、二度と達也を裏切る様な事はしない。一生この人に私を捧げるんだ。



 涼子の家は久しぶりだ。

「達也上がって。両親も妹も午後六時までは帰ってこないから」

「そうか」

「洗面所で手を洗ったら、ダイニングに来て。食事の用意するから。洗面所の場所分かるよね」

「ああ」



 制服の上着を入口のコートハンガーにかけてから洗面所で手を洗い、ダイニングに行くとテーブルの上には大きなもも肉がクレソンとミニトマトに囲まれてクリスマスデコした皿の上に乗っていた。

 他にもクラッカーの上にチーズやレモン、アンチョビを盛り合わせたオードブル、ペペロンチーナスパ等盛り沢山だ。


「凄いな。聞くまでもないけど、涼子とこれ一人で作ったのか?」

「ふふっ、そうだよと言いたいけどもも肉の下ごしらえとかはお母さんに手伝って貰った。今日来て貰うと言ったら喜んで手伝ってくれた」


 涼子の両親には、病院で会った以来だ。俺と涼子が食べるクリスマスランチを作ってくれるというのは、そういう事なんだろう。


 涼子がグラスにシードルを注ぐと

「達也」

「「メリークリスマス」」


 グラスを軽く当てて飲んだ。


「涼子、これプレゼント」

 彼女の目が大きく見開いて太陽の様に輝くと

「ありがとう」


 そう言って、俺のプレゼントを受け取った。

「開けていいかな?」

「もちろんだ」



 贈ったのは、瞳に選んで貰ったレースのハンカチ。俺は知らないが有名ブランドの代物で名前を入れてくれている。諭吉さんが飛んで行く代物だ。


「うわーっ、信じられない。これってルイビィ○○のハンカチだよね。名前も入れてくれている。ありがとう一生大事にする」

「喜んでくれて嬉しいよ」


 流石瞳だ。俺には価値が分からないけど。



二人で普段の事やクリスマスの起源とか話しながら食事が終わると

「達也、食器片づけるからちょっと待っていて」

「手伝うよ」

「ふふっ、じゃあ、洗ったお皿を布巾で拭いてテーブルに置いてくれればいいわ。食器棚の何処に置くかは知らないでしょ」

「流石にな」




 二十分程で洗い終わり拭くのも終わると

「達也、私の部屋に行こう」

「良いけど…」


 部屋に行っても何もしないと彼女には言ってある。ゲームでも出来ればいいのだが、そもそも何も知らない。



 部屋に入ると後ろ手に涼子はドアを閉めた。そしてドアに寄りかかったまま


「達也は、私とはもう体を合せないと言ったわよね」

「ああ言った」


「聞きたい事が有る」

「何だ」

「私の命と達也の意地どっちを選ぶ?」

「…………」

 涼子の目は真剣そのものだ。冗談で言っていない事が良く分かる。


「達也言ったよね。私の命は達也の物だって。だからあなたが私を必要としなくなったら私は生きている価値はない。それだけの事よ。これは私かあなたのどちらかが死ぬまで続く」

「…………」


 答えられない。助けた命、自らの意思で再度選べと言うのか。一度は死のうとした決断を持つ涼子にとっては、今言っている事は嘘でも脅しでもましてや冗談でも無いだろう。


 しかし、俺がもし涼子の思いを現実化すればそれはこれからも続く保証にもなってしまう。


「涼子、抱かないと言ったら」


 涼子は立ったまま、机に近付くと引き出しを開けた。そして大きめのカッターナイフを取り出すと

「これは普段段ボールと開ける時に使っているもの。いつも変な事は考えていない。でも達也が私の存在を拒否するなら利用方法は他にもある」


 そう言って自分の首の動脈に刃を当てた。


「止めろ!」

「じゃあ、抱いて」

「出来ない」


 スッと涼子の首筋に赤い血が少しだけ流れた。咄嗟に俺はカッターナイフを持つ手を握手って強引に離させると更に血が流れた。



 涼子の顔は真剣そのもので俺を睨む様にすがる様に見据えていた。俺はポケットに入っている自分のハンカチを涼子の首に当てると

「馬鹿な事するんじゃない!」

「馬鹿な事ではないわ。さっきも言った通りよ。この命は達也の物。必要なくなったら消えるだけ」

「何言っているんだ。両親だって涼香ちゃんだって悲しむだろう」

「ふふっ、あの時悲しんだか、これから悲しむだけの事よ。…達也お願い。私の命を救って」


 俺に思い切りしがみついて来た。


‥………‥………‥…。


達也、私は一生あなたから離れない。正妻や内縁の妻なんて関係ない。私は三番目の席に座るだけ。


――――――


 命ですか。地球上で全ての生物に平等に与えられたこれほど重い大切な物は有りません。でも見方変えれば命程あまりにも簡単に乾いた砂が指の隙間からこぼれ落ちる様に消えて行く物もありません。

 命は大切にしましょう。自分の命は唯一無二の自分の物です。

PS:らしくないなぁー(私談)


次回をお楽しみに。


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。



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