揺れ動く正妻の座
俺、立石達也。十月の第三週の火曜から金曜までの四日間中間考査が行われた。
前の模試が終わった後、早苗、玲子さん、涼子にはきつく言ってしまったが、おかげで学校と塾以外は、彼女達と勉強の事で話をする事は無かった。
久しぶりに一人で居る事が出来る。図書室担当は涼香ちゃんと新しく入った子と交代でやって貰っているから心配ない。
そう言えば瞳が涼香ちゃんと南部が仲が良くなったから前より会う機会が減ったとか言っていた。まあ良い事ではあるが。
そして迎えた中間考査、こいつは内申にも影響するらしいから本当に頑張った。帝都大を無視してもそれなりの大学には行きたいと考えている。
そして翌月曜日、結果が掲示板に張り出された。
一位 立花玲子
桐谷早苗
四条院明日香
・
・
四位 立石達也
本宮涼子
五位 高頭健司
小松原佐紀
「凄いわー。またあの三人満点よ」
「ほんと、同じ人間かと思ってしまう。でも本宮さんはもっと凄い。ここまで来ると明らかに立石君に点数合わせている。どうやったら出来るのかな?」
「さぁ、私の頭では理解不可能よ」
「本宮さん、やっぱり」
「桐谷さん、これではっきりとしましたわね。あれは偶然ではないわ」
「しかしどうやって?」
ふふ、また達也と同じ点数になれた。達也の弱い所を考えれば、大体間違える所も分かる。だから私は達也の弱い所を底上げする事が出来る。
「達也、凄いじゃないか、やはり追い上げて来たな」
「健司か、ああ頑張ったよ」
「健司また一緒だね」
「お前達仲良いな。健司と小松原さん一緒に勉強したのか?」
「まあな、大学も一緒に行くつもりだ」
「羨ましい限りだよ」
俺達が話していると涼子が寄って来た。
「ふふふっ、達也また一緒だね。達也の間違っている所、一緒に見直そうね」
そう言うと教室に戻って行った。俺達は涼子の後姿を見ながら
「本宮さん凄すぎる、もう頭下がるよ。どうしたらこんな事出来るんだ。達也の間違えそうなところを完全に把握している口ぶりだったな」
「涼子の頭は俺には理解出来ない」
やはり勉強は涼子に教えて貰うのが一番かも知れない。だけどそれは出来ない。
私、桐谷早苗。はっきりって面白くない。本宮さん意図的に達也と同じ点数を取っている。
あの人の事だから達也の間違えそうな所を意図的に落として点数を一致させているんだろうけど、どういうつもり。貴方はもう達也の彼女じゃないのに。
予鈴が鳴って担任の白鳥先生が入って来た。連絡事項を言った後
「立花さん、桐谷さん、四条院さん昼休み私の所に来て下さい」
「「「えっ」」」
教室の中もざわついているが、先生はそれを無視してそのまま出て行った。
「早苗、お前何かしたか?」
「達也全然心当たり無い」
「私もありません」
「四条院さんは?」
「ある訳無いでしょ」
先生どういうつもりでこの三人を呼んだんだ?
昼休みになり俺達は昼食を摂り終わると早苗が
「達也ちょっと担任の所に行って来る」
「ああ」
三人の後姿を見ながら健司が
「達也、お前も心当たり無いのか。容姿端麗、頭脳明晰の三人だ。変な事ではないと思うが」
「俺もそう思うんだが」
私、桐谷早苗。職員室のドアを開けると先生達が私達を一斉に見た。男の先生の顔が笑ってしまう。
「あっ、三人共こっちに来て」
白鳥先生が、職員室の衝立の横の横長の椅子に私達を座る様に言ったので三人で座ると
「今日あなた達を呼んだのは進学の事よ。三人共大学は行くんでしょ?」
「もちろんですけど」
「そうだよね。実はあなた達三人共本校始まって以来の優秀な成績を考査の都度出している。全国模試の結果も素晴らしいわ。だから帝都大の推薦入学受けてみない?」
「「「受けません!」」」
「えっ?ど、ど、どうして?あの帝都大への推薦入学よ」
「先生、私帝都大に行くとは決まっていませんから」
「桐谷さんなんで?立花さん、四条院さんも同じなの?」
「はい、帝都大に行くとしても一般入試を受けます」
「私もです。楽しい事が待っているので」
「えっ?四条院さん楽しい事って?」
「それは先生も言えません。だって私がここに来た最大の理由ですから」
私、四条院明日香。先生は気付いていないけど本宮さんは何回も満点取れる考査を達也に合わせて意図的に点数コントロールしている秀才、この子と桐谷さん、玲子の三つ巴の達也奪取物語を推薦なんて詰まらない物で壊したくない。
白鳥先生は目を丸くして驚いているけど、この先生のレベルでは分からないわ。
「ほ、本当に三人ともそれでいいの?」
「「「はい」」」
「そ、そう。惜しいけど分かったわ。三人共教室に戻っていいわ」
私達は職員室を出ると
「明日香は推薦を受けても良かったのでは?」
「玲子、達也面白劇場を見逃すわけにはいかないわ。彼必ずしも帝都大に行くとは限らないでしょ」
「明日香流石ね。その通りだわ。だから推薦は受けないけど達也さんには一緒に帝都大に行って貰います」
「何勝手に決めているのよ。達也の進学先は達也が決めるわ。達也と一緒に同じ大学に進学するのは私だけよ。立花さんも四条院さんも帝都大に行けばいいじゃない」
「ふふっ、桐谷さん。本宮さんを侮らない方が良いわよ。彼女私達以上に達也の事分かっている」
「四条院さんに言われるまでもないわ」
またこの二人の会話が始まった。ほんと面白い。トラとヒョウが達也を狙っている内にライオンが奪ってしまうか、それとも空からトンビが襲い掛かるか。こんな楽しい劇場に会えるなんて、ほんとこの学校に転校して来て良かった。
まあ、四人倒れになったら私が達也を貰うオプションも有ね。
「ハックション!」
「どうした達也、風邪でもひいたか?」
「いや、なんか背筋にヒヤッとする物が」
「あははっ、まああの三人がお前の事でも話しているんだろう」
健司と話していると涼子がいきなり俺のおでこに手を当てて来た。
「達也大丈夫?最近模試や考査で根を詰めているんじゃない?」
「涼子ありがとう、でも大丈夫だ」
「それならいいんだけど」
いきなり座っている俺の顔に涼子が立ち上がって抱き着いて来た。
「達也、無理しては駄目だからね」
「ちょ、ちょっと涼子」
「うわーっ、ライバルがいないと本宮さん大胆」
「凄いわ。もう何も言えない」
「俺もやって欲しい」
「あんたじゃ無理よ。立石君だからよ」
「分かっちゃいるけどさ。羨ましいよ」
俺が涼子の体を顔から離そうとしている時、教室の入口に職員室から戻って来た三人が現れた。最悪だ。
早苗が急いで来ると
「ちょっと、本宮さん何やっているのよ。離れなさいよ」
「嫌です。達也がくしゃみをしたので心配でこうしています」
「くしゃみ?どうでも良いから離れなさいよ」
「涼子、もう良いから離れてくれ」
「でもう…」
俺の顔が涼子の体から離れると健司と小松原さんがお腹を抱えて笑っている。後で覚えていろよ。
「全く!私達が職員室に行っている間に、本宮さんを達也さんと二人にしたのは失敗でした。本宮さん、抜け駆けは良くありません」
「立花さん、私は一生達也を支える。だから止めません」
「な、何言っているの。達也の彼女、そして妻となるのはこの私よ。本宮さんは離れてよ」
「ちょっと桐谷さん。いい加減な事言わないで下さい。達也さんと一緒になるのはこの私です」
「いい加減にしないか三人共。ここは教室だぞ」
「「「達也、ごめんなさい」」」
私、四条院明日香。これだから堪らない。ほんと三人の気持ちは分かるけど場所考えた方が良いんじゃないかしら。ほんと、ここ教室なんだけど。
「ねえ、桐谷さん、本宮さん、立花さん。凄い事言っていない」
「うん、一生支えるとか、妻になるとか。なんか凄い事になっている。立石君可哀想」
「だよね」
早苗、涼子、玲子さんが凄い目つきで一斉に話し声の方を見た。
「「ひっ、もう言いません」」
「止めろ三人共」
参ったな。三人共場所をわきまえて欲しい。やはり早くはっきりした方が良いようだ。
――――――
達也をめぐって争う三人。早苗もまだ油断でき無さそうです。
達也、さっさとはっきりさせないお前が悪い!…でもなあ。
次回をお楽しみに。
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
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