一時の平穏
長尾祭も終わり翌日片付けが終わった後、二日間の代休に入った。今の所午前中の稽古以外何も予定は無い。
加奈子さんと会うのも先だ。今日はゆっくりと寝てられる。朝は冷える様になって来たからそろそろタオルケットから毛布に変えた方が良さそうだ。
幸い今日の朝は早苗が俺のベッドの中にいない。彼女も疲れたんだろう休めばいい。今日は午前中爺ちゃんの所で稽古してここの所溜まっているストレスを解消させるつもりだ。
そう言えば瞳はどうするんだろう。自分の妹を褒めるのはこそばゆいが、母さんに似て、とても綺麗な子に成長している。
本来なら彼氏の一人も居ていい筈なんだが。涼子の妹涼香ちゃんも相当に可愛い。あの二人はいつも一緒なのはいいが、お互い彼氏の話にはならないのだろうか。
もっとも瞳に変なちょっかい出す男なら痛い目に遇っているだろうから、あいつの目に留まる奴がいないんだろうな。
まだ午前七時半前もう少し寝るか。うつらうつらしながら気持ちの良い二度寝を楽しいんで居ると
コンコン。
ガチャ。
「達也、あっ寝てる。ふふふっ、じゃあ」
私は上着を脱いで、ブラウスとスカートを脱いで折り畳んで床に置くと、達也の横に滑り込んだ。暖かい。でもやっぱりこれ邪魔。ブラも取って床に置くと思い切り達也に寄り添った。気持ち良い。
ふふっ、達也とこうして居ると心が落ち着く。何もしなくて良い。ただ側に居てこうして肌が触れ合っているだけでいい。いずれはずっとこうして居てもいい日が来る。
高校出たら婚約できないかな。そうすれば立花さんも本宮さんも達也の事流石に諦めてくれるだろう。そうすれば私だけの達也……。
コンコン。
ガチャ。
「お兄ちゃん、もう起きて。午前八時半だよ。あーっ、早苗お姉ちゃんも居るのかあ。全くこの二人は朝から。
お兄ちゃん、早苗お姉ちゃん起きて!」
「うん、瞳か」
「瞳かじゃない。お母さんが、早く朝ごはん食べてって」
「分かった」
「じゃあ二人共早く起きてね」
「二人共?あっ!」
瞳がドアを閉めた後、タオルケットの中を覗くと早苗が幸せそうな顔をして寝ている。もう少し寝させたいが、
「早苗起きろ」
「うん?あっ、達也おはよ。私寝ちゃったんだ」
「起きるぞ」
「じゃあ、朝のご挨拶してから」
彼女が俺の体に乗って来て
「達也おはよ」
チュッ。
「ふふっ、起きようか」
いきなりタオルケットを剥がした。
「おい、待て」
思い切り目を瞑ると
「達也ならいくら見てもいいよ」
「そういう問題じゃない。早く洋服を着ろ」
「もう仕方ないなあ」
着替えが終わると洗面所で顔を洗いダイニングに行った。
「達也、早苗ちゃんおはよう。朝ご飯食べて」
「はーい」
早苗がお味噌汁の入った鍋を温めながら俺のお茶碗にご飯を盛っている。
「早苗お姉ちゃん、もうすっかり若奥様だね」
「えっ」
早苗がジャーにしゃもじを落として顔を赤くしている。
「何を恥ずかしがっているの。朝一緒に起きて来てお兄ちゃんの食事の支度しているんだから」
「ふふっ、そうね。早苗ちゃんは達也の奥様ね」
「母さん、要らぬこと言わない」
「だって事実でしょ」
「…………」
最近休日の朝ご飯が食べ辛い。
「達也、今日は朝から一緒にいれる?」
「午前中は爺ちゃんの所で稽古だ。瞳はどうするんだ?」
「うん、行くよ」
「じゃあ、午後からは良い?」
「ああ」
俺は瞳と一緒に爺ちゃんの所で二時間しっかりと稽古をした。架空の相手を想定した稽古は集中出来ていい。
爺ちゃんの所にもシャワーは有るが、もう夏の様に大汗はかかない。だから瞳と一緒に家に帰って風呂場で汗を流すとダイニングに行った。昼飯を食べる為だ。
食べようとしたところでスマホが震えた。画面を見ると玲子さんからだ。スマホを持ってリビングに行くと画面をタップした。
『達也さん、玲子です』
『こんにちわ』
『達也さん、今日の午後はお時間有りますか?』
『早苗と会う事になっています』
『…そうですか。では明日は?』
『明日は午後からなら良いですよ』
『分かりました。午後十二時に私の部屋に来れますか?一緒に昼食を摂ろうと思っています』
少し考えたが
『良いですよ』
『本当ですか。嬉しい。では今日からしっかりと仕込んでおきますね。お腹ペコペコにして来て下さい』
『分かりました』
『では明日に』
『はい』
ふふっ、嬉しい。明日は午後からずっと達也さんと一緒。栄養のある食事を作らないと。そうすれば食後からは…。うふふっ。
ダイニングに戻ろうとしたところで早苗がやって来た。
「達也ご飯食べた?」
「これからだ」
「じゃあ、私と一緒に食べる?」
「母さんが作ってくれているから、うちで食べる」
「そう…。用意したんだけど」
尻切れトンボの様な声で寂しそうな顔をしている。朝の内に言ってくれればいいのに。
「分かった。母さんに聞いてみる」
母さんに聞くと、ニコニコしながらお昼作った分は気にしなくて良いわ。早苗ちゃんの所行ってらっしゃいという事だった。
「ふふっ、おば様ありがとうございます」
「早苗ちゃん、もうお母さんと呼んでいいのよ」
「母さん!そういう事もう言わない。早苗が困っている」
私は良いんだけど…。
最近母さんの早苗に対する言葉が過激すぎる。何か意図がある訳でもないだろうし。やはり朝から早苗が俺のベッドに居て一緒に起きて来る習慣が付いているからだろうか。どうしたものか。
俺達は早苗の家のダイニングに行くと
「達也、直ぐ温めるから、焼き物は達也来てからと思ったから少し待って」
「ああ、もちろんいいよ。何か手伝おうか?」
「いいの。そこに座って待っていて」
早苗が可愛いクマさんのエプロンを着けた。はて、どこかで見た様な?
それから十分程して
「はい、お待たせ。食べよ」
俺の好きな鶏もも肉の甘辛焼き、出汁卵焼きとひじきの合わせ、わかめのお味噌汁、焼き鮭、箸置きに柴漬けそれと白米。凄い量だ。
「凄いな。これ一人で早苗が作ったのか?」
「うんもちろん、さっ召し上がれ」
「「頂きます」」
流石の俺もお腹がいっぱいになった。
「早苗もうお腹いっぱいだ」
「ふふ、お粗末様。片付けるからちょっと待っていて」
「手伝おうか」
「いいよ。座っていて」
俺は仕方なく。早苗が食器を片付けて洗う姿を横目で見ながら爺ちゃんの言った事を考えていた。
高校卒業したら結婚すればいい。婚約だけでもすればいい。
俺達はまだ高校三年生だ。高校卒業して籍だけでも入れるという方法もあるが、それでは早苗の自由を奪う事にならないだろうか。
彼女には、俺に拘束されずにもっと自由に動いてくれてもいい。それで心が変わる位ならそれまでの事。
俺みたいに決められた運命では無いのだから。
「達也、終わったよ。私の部屋に行こうか」
「ああ」
俺は早苗の部屋に行くといつものパターンかと覚悟していたが、早苗が口を開いた。
「達也、大学の事だけど、十月初旬と十一月中旬に模試がある。ほぼこの時の成績で行ける大学が決まるわ。
達也はどうなの?帝都大学に入れる?」
「はっきり言って無理だろうな。塾の模試でも依然B判定だ。勉強に手を抜いていないから俺の頭はそのレベルなんだろう」
「達也、私と一緒に公立の大学行こう。そこの法学部を受ければいい」
「ああ、俺もそうしたいよ」
「そうしたいって、どういう意味?」
俺は加奈子さんが俺の成績いかんでは、専属の家庭教師をつけると言って来ている事を早苗に話した。
「達也はあの女の物じゃない。達也、三頭さんの前ではA判定だって言って。そうすれば馬鹿な事もしないだろうから」
「しかし、簡単にばれるぞ」
「でも…」
何とかしないと彼女なら本当に専属の家庭教師をつけかねない。ならば逆にA判定取れるまでレベルを上げてカモフラージュした上で公立大学を受験する。そうすれば問題なく二人で大学生活を送れる。
「ねえ、達也、お話はここまでにしよ」
――――――
早苗の作戦上手く行きますかね。
次回をお楽しみに。
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