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土御門ラヴァーズ2  作者: 猫又
第五章
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美登里の条件2

 仁の結婚相手について美優が思い込むのもしょうがない。

 美優は今の土御門では微妙な存在である。

 本家へ入った理由が理由であり、美優の両親とすでに亡くなってはいるが問題児の加奈子は一族ではいなかった者とされている。この先万が一美優の両親が姿を現しても、美優は会うことを禁止されている。

 今更美優も親や姉を思い出す事もなく、むしろ封印してしまいたいくらいだ。

 美優に手をさしのべてくれたのは陸。

 そして陸の願いだからこそ本家へ残る事を許されたが、一族すべてに許されたわけではない。

 美登里は厳しいが親と美優を切り離して考えてくれる。

 心ない親族達からも美優を何かとかばってくれる。

 季節の挨拶と称して本家を訪れる者は皆、物珍しげに美優を見に来ているのだ。

 礼儀作法から一族の心得まで、美優を試し嘲笑しに来ているのだ。

 陸が美優との結婚の話を広めたのも、美優を無視して見合いの話がたくさん寄せられるからである。

 そして美優を本家にふさわしくないと判断している家から仁の結婚相手が選ばれたら、それは憂鬱を通り越して恐怖である。

 歴史ある一族の上流家庭で育った娘は美優と自分を比べるだろう。

 和泉さえも下に見るかもしれない。

 そんな仁の結婚相手の娘に厳しくされる可能性は大。

 それは美優が乗り越えなければならない難関であり、その相手に認めさせる為に美優は頑張らなければならない。そして今更、何があっても弱音を吐いて土御門から逃げ出すことはならない。

 だが美登里が仁の結婚相手となれば状況は今と変わなく穏やかに過ごせるし、美登里を義姉と呼ぶ関係になり美優は安泰だ。

 実際美優がそこまで計算しているとは思わないが、漠然とした不安があるのは違いない。

 陸自身は仁の結婚相手には口を出す気はない。

 美優とのことを認めてくれた兄達にこそ幸せな結婚をしてほしい。


 美登里はいい娘だ。

 頼りにもなる。賢がいない今、仁のよきパートナーとして活躍している。

 仁も陸も両親も信頼しているし、本家で働く者たちにも慕われている。

 彼女は人一倍厳しいが、本気で土御門のために尽くしているのが伝わってくる。

 賢でも仁でも土御門を背負う者の結婚相手には申し分ない。

 生活水準も価値観も合うだろう。

 賢のように継ぐ者として教育されてきた人間と、継ぐ者を支える教育をされてきた人間。 それが一番合うだろう。

 だがそこに感情が入ればまた違う。

 賢は和泉を選び、想いが叶った。

 土御門の事を何一つ知らずに育った和泉はこれから苦労するだろうが、賢が支える。

 その他に和泉の事を応援する人間がたくさんいる。

 美登里のように教育されてなくても、きっとよい当主の妻になるだろう。


 それを思うと仁も自分も好きな相手と結婚をして欲しい。

 仁にとって美登里のことはよい相棒でしかない。

 仁にだけ土御門の為の結婚を望むのは間違いだ。

 美登里はよい娘だが、

「仁兄の今までの彼女は美人でスタイル抜群で細いんだよなぁ。性格より外見重視っていうか」

 と陸はぶつぶつとつぶやいた。 


「はい?」

 と洗い物をしていた美優が振り返った。

「何か?」

「いや、別に」

 美優は手を洗ってから、陸の前に座った。

「陸先輩……美登里さん、怒っちゃったかな。あたし、余計なことを言いましたね。仁さんにも」

「いや、仁兄と美登里ちゃんがくっつけばいいのにって俺も思うよ。今さらこの家に他の女の子が入って来たら面倒くさいし。それより美優、ここを出てよそに家を借りてもいいだぞ? ずっとここで暮らさなくても」

 美優はにっこり笑って、

「ううん、いいんです。あたしはここが好きだから、和泉さんも戻ってきたらここで暮らすんでしょ? だったらいろいろお世話出来るし、やっと式神さんにも慣れてきたし」

 と言った。

「あんまり……無理すんな」

「ううん、全然無理なんかしてないです。だって、みんなでご飯食べるとか、お茶するとか、スーパーに買い物に行くとか、そんな事があたしはうれしいんです。一人で留守番して、一人でご飯食べて、一人でテレビ見てたあの頃に比べたら、すごい楽しい。沢さんとかにお嬢さんあっち行っててくださいって言われるんだけど、でも、味見してくださいとか、ちょっと手伝っただけなのにすごい褒めてもらったり、それが、う、うれしいんです」

 美優は涙声になっていく。瞳に涙をいっぱいためて、

「親に褒められたことなんかなくて、霊能力がないから使えない子って言われてて、式神を視ることもできなくて、親にしたら姉さんだけが立派で自慢な娘で、だから、ここですごく楽しいから……ここにいたいんです、ひ、一人には慣れてるけど、寂しくないわけじゃない……だから。じゃ、邪魔じゃないならここに置いてください。楽しい……なんて思っちゃいけないのは分かってます。ご当主様も和泉さんもまだ戻ってこないのに」

 ひっくひっくと泣き出し美優の手をぎゅっと握って、

「邪魔なわけないだろう。美優がここにいたいならそれでいいんだ。ずっとここで暮らそう。美優がここにいるのが楽しいって思うなら。まー兄も和泉ちゃんもきっと喜ぶよ」

 と言った。

「ふぁい」

 と涙声の美優はうなずいた。

 それからずずっと鼻をすすって、にっこりと笑った。

「残ったケーキ、式神さんたちに配ってきますね~」

 と立ち上がる美優に、

「あ、そ、それは」

 と陸が言ったが、美優はふんふんとケーキを切り分け始めた。



「おや? どうしたのか。式達がいっせいに屋敷を離れていくぞ」

 と先代当主の雄一が天井を見上げながら言った。

「本当ですわね」

 と美登里も首をかしげる。

「美登里さん、お見合いなさったそうね」

 と朝子が言った。

「え、ええ、まあ」

 美登里は一つため息をついた。

「美代子さん、そろそろ美登里さんに真剣に考えて欲しいっておっしゃってたわ」

「はあ、そのようですわね。どこのご長男がよいとか、あの家の大奥様がどうとか、お母様はそんな話ばかりですわ」

「美代子さんがかなり焦ってらっしゃるみたいね」

「おばあさまが賢様に嫁いで次の御当主を生みなさいとずっとおっしゃってましたから、お父様もお母様もそのつもりだったので、今更慌てているのですわ」

「そうだったわね。私達も賢さんが和泉ちゃんに好意を持っているなんて知らなかったから、ゆくゆくはそうなると思ってたのだけどね。まさか賢さんの初恋が実るなんてねえ」

 と朝子が言ったので、雄一がけほっと咳き込んだ。

「賢はいい子だぞ」

「分かってます。私が生んだんですもの。良い子じゃないはずがありませんわ。でも、ねえ、年頃のお嬢さんにはちょっと不利なルックスですから。和泉ちゃんが中身で選んでくれて本当によかったわ」

 ずけずけと言う朝子を見て、美登里はふふっと笑った。

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