3-12 監獄にて事情聴取
「うぅ、私は悲しいよじゃしん。何にもしていないのに借金を背負わされて、こんな所に閉じ込められて……」
「ぎゃ、ぎゃうぎゃう」
クリアとの邂逅の後、拘束されたレイは彼の言葉通り監獄『フォーゲルケーフィッヒ』に収監された。
ご丁寧に武器とアイテムはすべて没収されており、服装も黒と白の囚人服に、首元にはペットの首輪のようなチョーカーとおよそ人権を感じられないような格好をさせられ、しくしくとレイは顔を覆いながら泣き始める。
・あーあ、泣かした
・今回はじゃしんが100%悪いよ
・おい、どーすんだ!
「ぎゅう!ぎゃう~!」
視聴者からの非難の言葉にじゃしんは何回も頭を打ち付けながら土下座をする。
レイは指の隙間からその姿を窺うと、そこから本気で謝っている事が感じ取れたことで、はぁとため息をついてじゃしんに近寄った。
「そんなに反省するくらいなら……いや、失敗しないと分かんないこともあるか。でも次は無いからね?」
「ぎゃ、ぎゃう?」
顔を上げたじゃしんの顔は盛大に潤んでおり、鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしていた。それを見たレイは苦笑しながら言葉を続ける。
「しょうがないから許してあげるよ。あ~あ、私って甘すぎかも」
・甘いねぇ
・優しくていいと思う
・流石ママ
・バブみを感じる
「だから誰がママだって――うわっ!」
「ぎゃう~!!!」
レイが許すと感極まったじゃしんがレイに向かって飛び込んでくる。慌てて抱き留めたものの、鼻水を垂らしていたことを思い出しすぐさま引き剥がす。
「ちょっと汚いからやめてよ!……ってかさ、なんで移動したの?」
「ぎゃぎゃう!」
レイの質問に思い出したかのように怒り出したじゃしんはドタドタとその場で地団駄を踏むと、懐からあるものを取り出す。
「何これ?飴?」
「ぎゃう!」
それは水色の斑点がついた包装の飴だった。それをレイに渡すと、じゃしんは空気イスをしながらスロットのボタンを押す動作をする。
「あ、再現してくれるのね。うんスロットしてて、それで?」
「ぎゃう!」
レイが続きを促すと、じゃしんはその場から立ち上がって少し距離をとり、猫背とへらへらした笑顔を携えて歩き始める。
・なるほど、猫背で軽薄な笑顔の奴と
・見るからに胡散臭そうで草
「いや、完全に同意見なんだけど……まぁいいか」
もう既に嫌な予感しかしないレイと視聴者だったが、黙ってその寸劇を見る。
「ぎゃう」
「ぎゃう?」
「ぎゃうぎゃうぎゃーう」
そのまま猫背のじゃしんがぽんぽんと肩を叩く動作をすると、空気イスのモーションに戻って振り返る。するとすぐさま猫背に戻り、なにやら話し始めた。
「一人二役やってるんだ。意外と器用だね」
・これ本当にAI?
・マジで動き凄いな
・中に人はいってない?
その動きにレイと視聴者が感動していると、猫背のじゃしんが明後日の方向を指さす。
それに対して空気イスをしたじゃしんが笑顔で頷くと、少し移動するモーションをしてからまた空気イスのモーションを行った。
「ぎゃうっぎゃうっ♪」
そのままご機嫌でボタンを押すモーションをしばらくするじゃしん。その後おもむろに立ち上がったかと思うと、またもや後ろに下がり、今度は仏頂面で胸を張りながら前に進み始めた。
「あー、何となく察した」
・同じく
・奇遇だな、俺もだ
・でもこれってさ…
レイと視聴者が察し始める中、予想通り胸を張ったじゃしんがぽんぽんと肩を叩くモーションを行い、空気イスをしたじゃしんに戻るとくるりと向く。
「ぎゃ……ぎゃう!?」
「ぎゃう。ぎゃう」
「ぎゃ、ぎゃう……」
そのまま二言三言会話を交わしたじゃしんはガックリと項垂れると、逮捕されたみたいに手を前に組みながら歩き始める。
「……えーと、要するになんか怪しそうな人が声をかけてきて、その口車に乗って違う台のスロットに行った。そういう認識であってる?」
「ぎゃう!」
再現が終わったのかやり切った顔で汗をぬぐう動作をするじゃしんに対してレイが改めて尋ねると、じゃしんは満足げに頷く。それに対してレイの感想はただ一つだった。
「いや、じゃしんが100%悪いからね?」
「ぎゃう!?」
・いやそりゃそうだろ
・何で驚いてるんだこのぬいぐるみ
・レイちゃんが優しいからって調子に乗るなよ
「ぎゃぎゃう!?」
多少はフォローしてもらえると思っていたのか、じゃしんはレイの反応に意外そうに驚いた声を上げ、視聴者からもとどめと言わんばかりに怒涛の罵倒が飛んできたことで、ノックアウトと言わんばかりに膝をついて崩れ落ちた。
「まぁまぁ、それ位にしておいてあげてよ。じゃしんも知らない人の話は聞かないように。分かった?」
「ぎゃう~……」
レイがそう忠告するとじゃしんは項垂れながら返事をする。そこで話は終わりと判断したレイは現在の状況に話題を変えた。
「さてと、問題はこれからどうするかだよねぇ。武器も装備も、なんならスキルも取られたし――」
・ん?スキル?
・何でスキル?
・どういうこと?
「あれ、知らない?」
当たり前だと思っていた情報に対して疑問の声が上がると、レイは一瞬驚きつつも概要について説明する。
「この首輪についているチョーカー、なんかここの特別製でスキルを使えなくする効果があるんだって。だからこそ、ここから抜け出すのが難しいって言われてるらしいよ」
・へ~そうなんだ
・詳しいね
・調べたの?
「まぁね。一応リスクケアはしとこうかなって」
情報を持っていた理由を軽く説明したレイはそれでも頭をガシガシと掻いて悔しそうな表情を見せる。
「ただこんなに早く来ることになるとは思わなかったから、しっかり調べてなかったんよなぁ。……よし、クリアの言葉も気になるし、とりあえず今日はいったん落ちてここの情報集めてくるよ」
・あいよ
・了解
・うい~
コメントの反応を確認したレイは配信を切ろうとして、思い出したように言葉を付け加える。
「あぁ、それとお知らせをもう一つ。明日からは今迄みたいに朝から晩まで放送できなくなっちゃうから」
・え~
・どうして?
・明日……あっそっか
レイがそう言うと一部の視聴者が何か察したようなコメントを残し、それに対して憂鬱そうにため息を漏らした。
「気付いている人もいるけど、明日から学校が始まっちゃうんだよねぇ。ひっじょ~に残念なんだけども」
・なるほどね
・ニートだから気付かんかったわ
・いやだ!
「私も嫌なんだけどね……でもまぁこればっかりは仕方ないのさ。んじゃ、次回囚人編でお会いしましょう、ばいばい~」
・おつ
・おつ
・おつかれ~
レイが別れの挨拶をすると視聴者からも労いの言葉が返ってくる。それに名残惜しさを感じながらも『ToY』の世界からログアウトするのだった。
[TOPIC]
ACCESSORY【剥奪のチョーカー】
囚人や奴隷用の全てを奪うチョーカー。それを付けた者は人権すら容易く奪われる。
効果①:SKILL使用不可
効果②:全ステータスを10固定




