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2-37 死を孕む病の群れ①


「ワールドクエストだと!?」


「どうして急に!?」


「おい押すなって!」


 突如として発生したワールドクエストに、広間にいたプレイヤーが一斉にパニック状態に陥る。


 逃げだそうとする者、迎撃に向かおうとする者、様子を窺うために傍観する者。各々が異なるアクションを一斉に行ったため逆に身動きが取れなくなってしまい、大渋滞が発生していた。


「何これ……一体どうしたら……」


「失礼する」


 最早個人ではどうすることも出来ない状況の中でレイが困惑していると、ステージ下から真っ黒の軍服を肩に羽織り、額の部分に星のマークがある軍帽を被った男性が飛びこんできた。


「えっと、あなたは?」


「自己紹介などしている場合ではないだろう?」


 心なしか冷たくあしらうように返答した男に、レイの中にもやっとした何とも言い難い感情が浮かぶ。しかし、言っていることは理解できなくもないため、その思いをぐっと飲み込んだ。


「ん?どっかで見たことあるような……」


 その代わりに男の顔をじろじろと見たレイは確実にどこかで見た覚えがあることに気付く。ただそれを思い出す前に事態は動いていた。


「何だか知らねぇがアイツ等を倒せばいいんだろ!ビビってんじゃねぇよ!」


 広間にいる迎撃に向かおうとしていたプレイヤーの一部が人の波を突破し、進撃する【ハカアラシ】に肉薄する。


「一番槍頂きぃ!【断竜斬】!……ってうわっ!」


接触するタイミングでスキルを発動したプレイヤーは【ハカアラシ】を難なく切り捨てる。だがポリゴンとなる瞬間に、内側から紫色の液体が噴出されたかと思えば、撃破したプレイヤーへと飛び掛かった。


「なんだよこれ気持ち悪ぃなぁ!」


 それに一瞬不快そうな表情を見せたものの、プレイヤー達は構うことなく手に持った武器を振り回す。そのまま順調に敵の数を減らしていった彼らだったが、やがてその身に異変が起こった。


「ぐっ、がぁ……」


 前線のプレイヤー達がいきなり立ち止まったかと思うと、突如一斉に苦しみだす。そのまま一人、また一人と地面に倒れ伏していった。


「死んだ?でもポリゴン化してない……」


 倒れたまま動かないプレイヤーを遠巻きに眺めつつ、不審に思うレイ。その数秒後、ゆっくりと起き上がったプレイヤーは普通(・・)ではなかった。


「ヴァ~……」


「ぎゃう!?」


「ひっ!」


 肌は血の気を失ったように真っ青に染まり、白目をむいて口からはよだれを垂らしている。よたよたと武器を構えながらこちらに向かってくる様はまるでゾンビ映画のようで、その光景にミツミとじゃしんは抱き合いながら悲鳴を上げた。


「どういうこと?」


「ふむ、どうやら検証が必要なようだな……おい」


「はっ!」


 レイも同様に首を傾げていると、軍服の男がステージ下にいる同じように軍服を着た女性プレイヤーに声をかける。


 今度は女性プレイヤーが他の軍服プレイヤーに二言三言発すると、そのプレイヤーが先ほどと同じようにハカアラシに向かって切りかかった。


「え、そんなことしたら……」


 その行動を見ていたレイは困惑した声を上げる。当然レイが想像した通り軍服の男が紫色の液体を浴びると、数十秒後には同じようにゾンビの姿となった。


 次の瞬間、今度はレイの背後で爆発音が起きる。それからすぐに聞きなじみのある女性実況者の楽しそうな笑い声が聞こえてきた。


「セブンさん、楽しそう……じゃなくて、そっか反対側からも来てるのか!ってかもう状況がめちゃくちゃすぎる!」


「ぎゃ、ぎゃう~!?」


 爆発音とともに反対側からも阿鼻叫喚の声が聞こえてくる。


あちこちで各々が好き勝手動いているためか把握できないほど状況が変化し続けており、レイの隣ではじゃしんもどうしたらいいか分からずうろうろとしていた。


「ギークさん解析完了しました!」


「ご苦労、報告せよ」


 そこへ先ほどの軍服の女性が帰ってくると、ステージ上の男に膝をつきながら話しかける。


「あの液体を浴びる、もしくは敵の攻撃を受けると状態異常になるそうです!その名を【感染】!その効果は毎秒HP半減の割合ダメージに加えて、HPがゼロになった時モンスター側として復活するとのこと!」


「モンスター側……プレイヤーの自我はあるのか?」


「ありますが操作不可とのことです!体力表記がないためデスポーンも不可能!」


「喰らった時点でゲームオーバーか。弱点は?」


「おそらく火かと!セブンの【灼熱の巨人骨(バーン・ザ・スカル)】によって撃破されたハカアラシは血液を散布しなかったそうです!」


「セブン……分かった」


 その名を聞いて一瞬顔を顰めたギークは、それでもすぐに能面の様な無表情に戻るとムーシーに話しかけた。


「すまない、そのマイクをお借りしても?」


「え、あぁはいどうぞ」


 声をかけられたムーシーはビビりながらもその手に持ったマイクをギークに渡す。それを受け取るとステージ下にいるプレイヤーに向けて声を張り上げた。


『諸君、聞こえるか!【WorkerS】のクランリーダーをしているギークだ!緊急事態につき私が指揮を取らせてもらう!』


「【WorkerS】のクランリーダー……あぁ!」


 高らかに宣言したギークにようやくそこでレイの胸のつかえが取れる。


「トップクランのリーダーか。そりゃ見たことあるわけだ」


 レイ自身、攻略動画を漁っていた時に何度か目撃したことがある。『ToY』の世界で最も人数が多く、最も攻略情報を抱えているクランであり、同時に規律がとても厳しいクランらしいと。


 また掲示板曰く、【WorkerS】のクランリーダーがあのセブンと1対1で戦って引き分けた人物とまで噂されており、セブン信奉者の彼女はそれに驚いた覚えがあった。


『今回のクエストの概要はキーロの街の住民を救うことにある!遠距離攻撃を持たない者はNPCを出来る限りこのステージに寄せろ!逆に戦える者は率先して壁を作れ!敵の弱点は火だ!』


 混乱を極めていた戦場によく通る声が響く。始めは呆然としていたプレイヤー達も、次第にその内容を理解したのかだんだんと統率の取れた動きになっていく。


『八方向ある通路の内、西通りから南東通りまでを我々【Workers】が請け負う! それ以外の四つの通りについては、悪いが、幾つかのクランへと請け負ってもらいたい! 北西通りを【鬼流組】、北通りを【聖龍騎士団】、北東通りを【JackPots】がそれぞれ指揮を執ってくれ! 他のプレイヤーについては各々好きに動いて構わないが、人手が少ない箇所は声を上げろ、随時人員を分配する!』


 また、予め情報を集めていたのか有名所のクランを名指しで指名すると、絶賛『魔王』が暴れている以外の場所に割り振っていく。


その指示に異論の声が上がらないことを確認したギークは、最後に、と前置きしてプレイヤー達へと檄を飛ばす。


『失敗を恐れるな、全ての責任は私が被ろう! 各人クエストクリアのことだけを考えるのだ! 健闘を祈る!』


 そうしてマイクを置いたギークは、周囲にいた【WorkerS】の面々にいくつか指示を飛ばし始める。


未だに戦場は未だ混乱しているが、それでも最初とは異なり、全プレイヤーが与えられた作業を全うしようと散らばり始めていた。


「君も早くいったらどうだね」


「えっ、あぁ、はい。行くよじゃしん」


「ぎゃう!」


 完全に蚊帳の外になったレイに対して、まだいたのかと言わんばかりに見下ろして呆れた声を出すギーク。それにどこか腑に落ちない気持ちを感じながらも、じゃしんを連れて戦場へと走り出していった。


[TOPIC]

SKILL【断竜斬】

鍛え抜かれた一撃は、竜さえ両断する。

効果①:斬撃属性ダメージ(〈腕力〉×5dmg)

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新お疲れ様です! うわぁ性格悪い、、、 近接殺し&モンスター側として復活とか最悪じゃないですかやだー、、、 そしてなんか嫌な男、、、ですね、、、 更新お待ちしています!
[一言] セブンの同類だと思われてんのかな?
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