2-24 本気で勝ちに行くために
アイの元から去ったレイ達はミツミのお店にやってきていた。
「さて、まずは何からしようね」
「そうですね……」
アイに大見得を切ったレイとミツミだったが、現状勝算が限りなく低い事は理解しており、ため息を溢す。
ちなみにウサは自身の作業を行うために道中で別れており、部屋の中にはレイとミツミしか居らず、二人だけの会議になっていた。
「パトロンって今何人いるの?」
「レイさんとお兄ちゃん、そのクランの人達なので8人ですね」
「なるほど、これからどうやって増やしていくかだね」
取り敢えず現状の把握と改善にレイが頭を悩ませていると、ミツミがそれよりもと別の話題を切り出した。
「実は材料の方が足りてなくて……【商人】の方の協力があれば話は変わってくるんですが……」
そう言ってミツミは顔を伏せる。それに対してふむ、と右手で顎を撫でた。
「【商人】……あ!一人心当たりあるよ!ちょっと待ってね!」
数瞬の思考の後、レイはメニューを開くと、〈フレンド〉の欄からある人物にコールを掛ける。
「……あ、出た。ちょっと遅いんじゃないの?……まぁ良いや。どうせ今【キーロ】にいるんでしょ?取り敢えず西通りのこの座標に来て。え?北通りでご飯食べてる?知らないよ、とにかく急いで。3分以内ね」
まだコールした相手が何かを言っていたような気がしたが、レイは問答無用でコールを切る。その様子にミツミが心配そうに声をかけた。
「あの……?」
「大丈夫だったよ!すぐ来るってさ!」
満面の笑みを浮かべるレイにそれ以上言葉を返すことができず、そうですかと言って問いかけるのをやめたミツミ。
そうして数分経った後にガラガラとお店の入り口が開かれた。
「やっほ~リボッタ」
「やっほ~、じゃねぇだろうが!」
扉を開けてズンズンとレイに近寄ってきたのは薄汚れたトレンチコートを身にまとった闇商人、リボッタであった。
肩を怒らせながらレイに詰め寄ったリボッタは溜まりに溜まった鬱憤をぶつける。
「お前、めちゃくちゃ大事な商談してたんだぞ!急に呼び出すなや!そもそもなんで俺は律儀にこんな所に来てんだ!?いや、決してお前が怖かったとかそういう訳じゃないぞ!ただな――」
「リボッタ」
勢いよく捲し立てるリボッタにレイは一言名前を呼んで遮る。
「30秒遅刻だよ。土下座して」
「鬼かテメェ!?」
驚愕の面持ちで見ていたリボッタだったが、レイが冗談と言いながら笑うと、毒気を抜かれたように疲れた表情をする。そしてキョロキョロと周囲を見回してレイに再度尋ねた。
「で?なんで呼んだ?この子は誰よ?」
「この子は【パティシエ】のミツミちゃん。取り敢えず彼女のパトロンになって、優勝させるお手伝いをして欲しいんだよね」
「はぁ?」
レイの突拍子もない発言にリボッタは困惑する。
「やだね。俺にメリットがねぇ」
「じゃあパトロンにならなくても良いから彼女が優勝するのに力を貸してよ」
「いやそっちの方が意味分からねぇだろ。そもそも料理部門はアイが優勝するって予想して――」
「オマエヨクモソノナマエヲダシタナァ……?」
「え!?なんで怒ってんの!?」
突然目のハイライトを消して怒り出したレイに、リボッタは困惑して取り乱す。
「そもそもどうやって勝つつもりなんだよ!?泥舟に乗るとか俺は嫌だぞ!」
「それは…」
リボッタの必死な叫びにレイが言葉を詰まらせていると、今まで傍観していたミツミが手を挙げた。
「あのっ、私ひとつ考えているのがあるんです」
「これってさっきの……」
そう言いながらミツミが取り出したのは、先程レイも食べさせてもらった黄色のマカロンだった。
「はい、ラッキーのスカーフと【虹の雫】を見て思いついたんですけど、7色のマカロンでいくのはどうかなと思いまして」
「それじゃ普通すぎないか?」
現実でもありそうな内容にリボッタから呆れたような声を上げる。ただミツミは怯むことなく言葉を続けた。
「はい、なので狙いを戦闘職の皆さんに絞って、アイテムとしても有用なモノにしようかなって思ってます。例えば黄色――ラッキーからもらえる木の実を使えば、MPとHPにリジェネ効果が付与できるんです。そんな風にそれぞれの色が違う効果を持っていたりしたら面白いんじゃないかなって」
「……なるほど、七色のバフを持つマカロンってことか。それ面白いかも!」
「確かに。事前に公表しといてパトロンには安めに売る、とかすれば食いつく奴は多そうだな……」
ミツミの考えに二人は好感触を見せる。勝算を考え出したリボッタは細かい所を詰めるためにミツミに幾つか質問をした。
「材料とかはどこまで考えてる?」
「【煉獄イチゴ】と【重大巨峰】は考えたんですが他は……」
「赤と紫……後黄色は問題ないのか。それの入手方法は?」
「はい、その二つに関しては兄――ほかのパトロンの方がたくさん集めてくださるそうです。木の実に関してもラッキーにお菓子をあげれば貰えるので問題はないかと」
「となると、残りの四色をどうするかって感じか」
そう言いながら腕を組んで考え込み、今まで扱ってきたアイテムを思い出す。
「候補は【深海冷花】、【激爽ミント】、【職人メロン】。この辺りはバフも被らないし、入手も簡単だからいけそうだな。問題は……」
そこで言葉を止めたリボッタは眉を顰めて苦々しい顔をする。
「あとはオレンジ?何もないの?」
「いや、あるにはある」
レイの問いかけに食い気味に答えたリボッタだったが、その表情は変わらず苦いままだった。
「【霊界カボチャ】っつう〈知性〉にバフを掛けてくれるおあつらえ向きのアイテムがあるんだが……」
「なら取りに行けば良いだけじゃないの?」
至極当たり前の問いかけに、リボッタは首を振りながら答える。
「あるクエストをクリアしないと買えるようにならないんだよ。しかもそのクエストを出すためにはかなり面倒くさいクエストをこなさなくちゃいけなくてな」
その表情から並大抵のものではないことを察したレイが眉を寄せると、念のため代替案がないかリボッタに問いかける。
「……買えるプレイヤーから買い取るのは?」
「面倒くさいって言ったろ?クリアしている人数も滅茶苦茶に少ないし、そんな奴絶対吹っ掛けてくるぞ。『大量入荷するならNPCから』、これが【商人】の常識だ」
嘘を言っているようには思えないリボッタの様子にしばらく考え込んだレイだったが、やがて諦めたようにため息を溢した。
「ふぅ、分かった。それが私の担当ってことね」
「そうなる、任せた」
二人の間で交わされた作業振り分けにミツミは慌てて止めに入る。
「そんな大変なことさせる訳にはっ!」
「いいのいいの、むしろこれくらいしか出来ることないしね」
「そうだぞ、言い出しっぺなんだからこいつも働かせろ」
ついつい漏れた抗議の声に対して向けられたジト目に、リボッタは脂汗をかきながらも、そんなことより、と誤魔化すようにミツミの方に目を向ける。
「最後に、君が本気で勝つ気があるのかどうかだな」
推し量るような商人の視線にミツミはゴクンと喉を鳴らすと、真っ直ぐと見返しながら決意のこもった目で見つめ返す。
「信じてくれたレイさんのためにも、絶対に勝ちます!」
「……オーケー、この話乗った」
その目に可能性を感じたのかリボッタは承諾する。それを見届けたレイはぱんっと手のひらを合わせて音を鳴らした。
「よし、話は決まったね。じゃあ私はクエスト消化してリボッタが材料集め。ミツミちゃんは試行錯誤を繰り返す感じでいこう」
「あいよ」
「了解です!」
レイの言葉にリボッタとミツミは頷く。方針の決まった三人はそれぞれの目的のため動き出すのだった。
[TOPIC]
ITEM【黄色マカロン】
小さな友人から譲ってもらった木の実を使って作ったマカロン。一口食べれば笑顔がこぼれる。
効果①:15秒間、HPリジェネ付与(100/1sec)
効果②:15秒間、MPリジェネ付与(10/1sec)




