2-21 大人の階段昇る
「いや~久しぶりだね!まさかこっちでも会うとは思わなかった!」
「だなぁ。あれか?お前が事務所に目玉を抉りに来たのが最後か?」
「あの後爪一本一本剥がされた時のやつ?うわー懐かしいそんな事もあったなぁ」
・内容よ
・世紀末過ぎるだろ
・これが『抗争民』…
あははうふふと楽しそうに談笑する二人。だがコメント欄は戦慄し震え上がっている。
「もう『TOKYO』の方に来るつもりないのか?」
「うーん、あんまり考えてないかな。なんかあるの?」
「今度イベントがあるらしいぞ。マジマの奴も『サイコ医師』も『テロリスト』もみんな待ってるからまた顔出してくれや」
「まーた懐かしい顔ぶれだね。おっけ調べてみる」
完全に同窓会の空気を醸し出し始めた二人に対して、置いてきぼりになりつつあったコメントが待ったをかけた。
・分かんないけど何か凄そう
・名前がヤバい奴しかいないんだが?
・説明求ム
「あぁごめんごめん。この人達は『TOKYO大抗争』での知り合いで『鬼流組』ってチームで活動してた人達なんだよね」
それに対してレイは軽く解説するが、残念ながら【TOKYO大抗争】のゲーム情勢まで知っているコアなゲーマーは存在しなかったようで上手く伝わらない。
・いやそのゲーム知らんのよ
・あの『鬼流組』!?ってならないんよなぁ
・『ToY』で例えてよ
「『ToY』で?難しいなぁ……」
レイが視聴者の振りに頭を悩ませているとキリュウから助け船が入る。
「こっちで言えば【WorkerS】辺りか。まぁトップクランだと思ってくれれば問題ねぇよ」
・ほーん
・最大手ってことか
・さっき言ってた渡り鳥は?
「【TOKYO大抗争】では陣営に分かれて戦争の真似事するんだが、コイツはどの陣営にもつかずに傭兵みたいな動きをしててな、んでついたあだ名が『渡り鳥』。まぁ引っ掻き回されたよ」
・なるほどな~
・なんかそう聞くと【TOKYO大抗争】見たくなってきたな
・やりたくはないけど
説明が分かりやすいのか、質問はキリュウの方に集中するようになり、少し寂しくなったレイはじゃしんの頭を撫でているミツミの方に近寄った。
「にしても組長がミツミちゃんの兄なんてね。世界は狭いなぁ」
「組長……?でもそうですね。まさか兄と知り合いだなんて思ってもいませんでした」
「ぎゃう~」
「もきゅ!もきゅ!」
その巧みな手つきに目を細めて気持ちよさそうにしているじゃしんに、場所を代われと言わんばかりにそのほっぺをぷにぷにする虹リス。
「ミツミちゃんはここで何をしていたの?」
「来るべき日に向けて兄達と偵察に来てましたっ!」
勢いのあるミツミの言葉にいえーいととピースをするモヒカン軍団。見かけによらず気さくな性格のようだった。
「レイさんレイさん!俺らのこと覚えてないっすか?『モヒート』って名乗ってたんっすけど!」
「えーと……いたようないなかったような……」
声をかけてきた赤色のモヒカンをした青年だったが、残念ながらレイにはあんまり心当たりはなかった。
「ガーン……結構頑張ってたつもりだったんですけどねぇ……」
「あの襲撃話の時もいたんすよ?」
「ほら、『鬼流組』の事務所が爆破されて一緒に吹っ飛んでた……」
「爆破?――あぁ!そういえばいたねモヒカン軍団!」
そこまで聞いたレイはようやく彼らの存在を思い出す。
「アレだよね?マジマさんにさらし首並べられて『虹』とか言う謎の作品にされてたよね?」
「それっすそれっす!」
「いや~、アレはくだらなさすぎて笑っちまいましたねぇ!」
「じゃしんくん?聞こえないよ?」
「ぎゃう」
とてもではないが未成年には聞かせられない内容を楽しそうに話しているレイ達に、呆れた目を向けたじゃしんはミツミの耳をその両手で塞いでいた。
「にしても君達もこっちにきたんだね」
「えぇ、兄貴のリアル妹さんであるミツミちゃんがこのゲームを始めるって聞きまして。ついでのように誘われたんでせっかくだしやってみてるんすよ」
「そしたら意外とハマっちゃって」
あっはっはと笑うモヒカン達につられてレイも笑う。少し付き合っただけでも彼らがいい奴等であることが窺えた。
「レイさんも変わってなさそうで良かったっす!見ましたよあのポータルステーションの脅し!」
「いやー、アレは痺れたなぁ!」
「合流前だったしレイさんがいて本当に良かったな!」
「いやー、それほどでも」
モヒカン達の感謝とベタ褒めする言葉に照れ臭くなりながらも満更でもない表情をするレイ。
「なぁ『渡り鳥』。ちょっといいか」
そこに一通り解説が終わったのかキリュウがレイに声をかけてきた。
「ん?なに?」
「この後ってなんか用事あるか?」
「えっとこの後は……」
正直すぐにでも【へイラー墓地】に行って試し打ちがしたいレイは少し言葉を濁す。
「これからリアルで用事があってよ。このまま解散しようと思ってたんだが、どうやらミツミがまだ満足してないみたいでな。できればでいいんだが付き合ってやってくんねぇか?」
内容を理解したレイがどうしようかなと悩んでいると、横からモヒカン達が割り込んでくる。
「俺たちなら空いてますよ?」
「確かに!」
「任せてください、義兄さん!」
ワーワーと反応し始めたモヒカン達。だがキリュウはそれを黙らせるように声を張り上げる。
「うるせぇ、テメェ等は絶対無理だ。天地がひっくり返っても俺抜きでミツミと会わせてたまるか」
「えぇ!そりゃないっすよ兄貴!」
「俺たちだってミツミちゃん達と遊びてぇよ!」
「出たよブラコン……」
最後の一言を呟いた青色のモヒカンはキリュウから思いっきりゲンコツをもらうとポリゴンとなって消えていく。そのままギロリと他のモヒカン達を睨むと、それ以上文句を言う人間はいなくなった。
「……という訳だ。『渡り鳥』無理か?」
「えっと……」
仕切り直すように再度聞かれたその質問に、レイはやはり答えられない。今すぐにでも飛び出していきたい気持ちと友人の頼みを無下にできない気持ちで葛藤していた。
「レイさんダメですか……?」
そこにレイの袖を掴みながら上目遣いで見つめるミツミの瞳と目が合い――そこで折れた。
「大丈夫、この後暇だったから」
・レイちゃん…
・大人になったんやな…
・友達を選んだ!
・えらいぞ!
かなり後ろ髪を引かれつつも言い切ったレイに称賛のコメントが流れる。
「本当か、ありがとよ」
「ありがとうございますっ!」
兄弟からの感謝の言葉にあははと曖昧なレイは笑みを浮かべる。残念ながらお試しはまたの機会になりそうだった。
[TOPIC]
CLAN【鬼流組】
厳つい見た目が特徴的な知り合い同士で構成されたカジュアルクラン。クランリーダーは【キリュウ】。
メンバー全員が『TOKYO大抗争』のハードユーザーである『抗争民』であり、戦闘能力は他ユーザーと比べて高い――というか狂っている。
ただ始めた理由もリーダーの妹であるミツミが快適にゲームするためであり、半分息抜き目的でプレイしているため、周囲に被害を及ぼすことは基本的にない。……彼らの大切なモノに、手を出さない限りは。




