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2-8 最強伝説開幕


 そして時は動き出す――。


「ぎゃうっ!?」


「「「「!?!?」」」」


「え?」


 一瞬体が硬直し、動かなくなった【グリムリーパー】達は困惑した声を上げる。


 歌を止めたじゃしんとレイも同じように何が起きたか分からないような顔をしていたが、その感情は異なっていた。


・どういう状況?

・透明化解けてるし攻撃…?

・レイちゃん何したの?


「いや、なんだろう……?何も起きなかった(・・・・・・・・)んだけど……?」


 何かが起きたのはレイにも分かった。ただレイには変化を感じなかった(・・・・・・・・・)のだ。


「じゃしん何があったか分かる?」


「ぎゃうっ」


 レイが状況を把握している様子のじゃしんに尋ねると、じゃしんは腕をぶんぶんと振ってビタッと急に動きを止めるジェスチャーをした。


「いや、全然わからん……」


「ぎゃう~!!!」


「え~と……あ、また消えた!」


 その意図を掴めず怪訝な表情をしていたレイは何とか解読しようと試みたが、【グリムリーパー】が行動に移ったことによって中断する。


「もう一回やるしかないか……!じゃしん!よろしく!」


「ぎゃ、ぎゃう!」


 レイの指示に戸惑いながらもじゃしんはんんっと喉の調子を確かめて口を開く。

 

「La~~~♪」


 再度、じゃしんの綺麗な歌声が世界に響き――。


「ぎゃう!?」


「「「「!?!?」」」」


 そして世界が止まる。


「まただ……」


 1秒に届かないくらいの僅かな時間が経過した後、じゃしんと【グリムリーパー】達は動き始める。


 ミツミと虹リスも同様の影響を受けたようでキョロキョロと周囲を見渡しているが、ただ一人レイだけがこの数瞬の間に何の違和感も持っていなかった。


「多分私以外が【硬直】状態になってると思うんだけど……ん?【硬直】って……」


・自分の技で?

・そんな間抜けなことある?

・なんて意味ない技なんだ…

・たしかにじゃしんは間抜けキャラだけど


 一連の事象にうーん、と腕を組んで悩むレイだったが改めて【じゃしん賛歌】の効果を見返したことで、とある仮説に辿り着く。


 そのままぶつぶつと呟いたレイがじゃしんに向き直ると、悪いことを思いついたようないつも通りの笑み(・・・・・・・・)を浮かべた。


「じゃしん、ちょっとお願いがあるんだけど」


「ぎゃ、ぎゃう?」


「そんな嫌な顔しないでよ。なーに簡単なことだって」


 そのあくどい笑みに警戒しつつも、じゃしんは『しょうがないか』と疲れた顔をし、指示に従う為に準備を整える。


「じゃ、よろしく!」


「La~~~♪……ぎゃうっ!」


「「「「!?!?」」」」


 3度目の歌声が鳴り響き、一人を除いた全ての動きをその場に釘付けにする。


 ただ前回と異なり、世界が戻る度にマイクを握り直すものがいた。


「La~~~♪……ぎゃうっ!」


「「「「!?!?」」」」


「うん、やっぱり歌い続ければその度に一瞬動けなくなるんだ。んで、疑似的に時止めと同じ効果を得られる、と。なるほどねぇ」


 コマ送りのようにカクカクする世界の中で、唯一問題なく動けるレイは仮設の裏付けを取るためにステータス画面を確認する。

 

=======================

NAME じゃしん

TRIBE 【神種Lv.2】

HP 666/666

MP 666/666

腕力 666

耐久 666

敏捷 666

知性 666

技量 666

信仰 666

SKILL 【じゃしん結界】【じゃしん賛歌】

SP【別世界ノ住人】

STATE【硬直】

========================


「やっぱり、これ状態異常(・・・・)扱いなんだ」


 レイの予想通り、じゃしんのステータス画面には【狂化】の時と同じような項目が表示されており、それを見てニンマリと笑顔になる。


「多分私にかかるのが正常だと思うんだど、状態異常だから【自己犠牲】の効果でじゃしんに移動してるって所かな。ちょっとずるい気もするけど――」


 検証を済ませ、謎の原因が解消されたことにすっきりしたレイはくるりと【グリムリーパー】達に目線を合わせる。


「お、ま、た、せ。待たせてごめんね」


そう言いながら一歩一歩ゆっくりと【グリムリーパー】の一体に近づいていく。その目に初めて、怯えのようなものを見て取れるようだった。


「まさかこんなことになるなんてね。ねぇ、勝ったと思った?」


「!!」


 レイの煽りを理解したのか、怒ったように鎌を動かすものの蝿すら捉えられないような鈍重な動きのせいで簡単に避けられてしまっている。


「おっと、そんなに怒らないでよ。冗談だって冗談」


 ぽんぽんと友達のような気軽さで【グリムリーパー】を叩きながらも少しずつ位置をずらしていくレイ。


「こんなもんでいいかな。よし、じゃあ次は君ね」


 うんと一つ頷いたレイは次の【グリムリーパー】に狙いを定める。


 その調子で次々と移動を繰り返していき、全ての【グリムリーパー】の位置を近くに固めると、最後に最大の功労者であるシンガーソングライターを抱き抱える。


「ここでアレを使ってと。あ、歌うの辞めちゃダメだからね」


『3』カチッ


「よし、功労者に最後を飾ってもらおうかな」


『2』カチッ


「?La~~~♪」


 その言葉に不思議そうな顔をしたものの歌うことをやめないじゃしん。


『1』カチッ


「じゃ、いってらっしゃい!」


「ぎゃうっ!?」


 そんなじゃしんをレイは【グリムリーパー】達の中心に落ちるように高く放り投げた。


『0』カチッ


 ――ドカンっ!!!


 巻き起こる爆風は例外なく全てを巻き込み、【ヘイラー墓地】に響き渡る程の轟音を響かせてキノコ雲を作り上げる。


 やがて煙が晴れたその先にレイ達を苦しめた【グリムリーパー】の姿はなく、代わりに目の前にウィンドウが表示された


[ARMOR【輪廻欺ク死化粧】を入手しました]

[WEAPON【冥界誘ウ大鎌】を入手いたしました]

[5の経験値を獲得いたしました]


「……ふ、ふふ、ふふふふふ」


【グリムリーパー】を完封したことに思わずといった調子で口から笑いが零れ落ちる。


・レ、レイちゃん?

・大丈夫?

・壊れたか?


「んー?私は大丈夫だよ。でも、くくっ――」


 心配するコメントに何とか返すものの、その目は愉快で仕方ないという感情が漏れ出ており、笑いも止まることはない。


「――私の時代が来た!!!」


 そうして高らかに宣言したレイは天高く拳を突き上げながらふはははは!と高笑いをする。


・いや、嬉しいのは分かるけど

・レイちゃん…

・なんていうかこう…

・もう完全に悪役なんよ


「ぎゃう」


「もきゅ……」


「えっと、あはは……」


 その様子に視聴者とじゃしんと虹リスの心は一つとなり、ミツミは困ったように愛想笑いを浮かべていた。


[TOPIC]

STATE【硬直】

効果①:移動不可

効果②:発動中のスキルを強制キャンセル

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― 新着の感想 ―
[一言] ウリイイイイイイとか言ってそう
2023/12/18 04:01 ふぁまぐりだよ
[気になる点] じゃしん賛歌はMPを消費しない?
[一言] よほどの速さか、状態異常の無効化でも持ってないと、勝負にすらならないんじゃ?
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