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8-43 【演じるは王、たとえ道化になろうとも】②

昨日投稿ミスってました……すんません……


「でも継承の儀はまだまだこれからだよ!次のフェーズだ!」


 驚きで少し放心状態だったノラが、気持ちを切り替えるように大声を上げる。その瞬間、レイの周囲の地面がせり上がると、石で出来た鳥籠がレイの自由を奪った。


「一応確認なんだけど、じゃしんはそのままでいいんだよね?」


「まぁいいよ。一応彼にも資格はあるわけだし」


 一度経験しているからか、さして気にした様子もないレイが訊ねれば、ノラはそれに対して肯定で返す。


「オッケー。じゃあ二人とも、引き続きよろしくね」


「はいにゃ!」


「ぎゃう!」


 前回とは比べ物にならないほどの安心感を胸に秘め、レイは主役である二人へと声をかける。


 それに二人が気持ちのいい返事を返せば、地面から彼らよりも大きな蟻の軍勢が出現した。


「ふん、何が来たって一緒にゃ!【霜草の森(フロスト・フォレスト)】!」


 それに気が付いたニャルが、再び世界を白に染め上げる。


 放出された冷気は確実に蟻達の動きを止め、物言わぬオブジェクトへと変貌させていく。


「ぎゃう〜!」


「にゃふん、私にかかればこんなもん――」


 現れた強敵が瞬殺されたことに、以前その恐怖を身をもって味わったじゃしんが素直に喜びの感情を弾けさせれば、ニャルが剣を引き抜きながらドヤ顔を浮かべている。


 だがそんな彼らに向けて、背後から新たに現れた一体の蟻が容赦なく襲いかかった。


「にゃにゃ!?」


「ぎゃ、ぎゃうっ!」


 驚きのあまり硬直したニャルの体をじゃしんが咄嗟に押し倒し、二人してゴロゴロと地面を転がる。


 射程圏外へと逃れた後、慌てて起き上がれば、元いた場所が蟻の顎によって大きくえぐれており、二人して顔を青くさせた。


「なーに油断してんの!まだしごきが足りないって言いたいの!」


「そ、それは勘弁にゃ!じゃしん!」


「ぎゃ、ぎゃうっ!」


 そこへ追撃するようにレイからお叱りの声が飛べば、二人は笑顔をしまって真剣な表情で立ち向かっていく。


「ったく、すぐに調子に乗るんだから」


「でも、良い身のこなしだ。これなら問題なさそうだね」


 ようやく危機感を持ち、真面目になった二人にレイが呆れの視線を向けていると、隣にいたノラがポツリと呟く。


 それを聞いたレイはふと、自身の中で気になっていたことについて問いかけた。


「ねぇ、一つ聞いてもいい?」


「うん、なんでもどうぞ」


「継承の儀ってなんのためにやってるの?『聖獣』に寿命がある感じ?」


「寿命か。うん、良い例えだね。でもそれはちょっと違うかな」


 それは、今まさに行なっている儀式について。他のワールドクエストとは少し毛色の違う展開に、レイが素直に感じた疑問をぶつければ、それを聞いたノラはにっこりと笑みを深めて質問で返す。


「じゃあ問題です!僕らの力の源は、一体どこから来ているでしょうか!」


「力の源……?えっと、神様とか?」


「お、だいせいかーい!僕達『聖獣』はね、創造主たる神様によって生み出され、力を与えられたのさ」


 逆に問われた質問に、レイは迷いながらも答えを出す。それに対してぱちぱちとささやかながら拍手を送ったノラは、違う質問を再びレイに投げかけた。


「じゃあ次の問題です!僕達は、何のために力を与えられたでしょうか?」


「……邪神から、世界を守るため」


「お見事!いやぁ君はとっても優秀だね!」


 【叡智の書庫】で知った内容を思い出しつつレイが答えれば、ノラは嬉しそうに目を細めながら更なる問いかけを口にする。


「それじゃあ最後の問題です!千年もの昔に訪れた邪神から、世界を保護するために生まれたのが『聖獣』。それぞれが役割を持っていたんだけれど、僕の役割は一体なんでしょーか!」


「それは……」


 これも【叡智の書庫】で聞いたことがある。だが、その内容をいまいち思い出すことができないレイが口をもごもごさせると、思考を遮るようにノラが口を挟む。


「ぶー!残念、時間切れ~。正解は、世界へと分散する力でした~」


「分散する力……?」


「そそ。邪神って奴がこれまた厄介で、世界の各地に自分の分身とも言える存在をけしかけてきたんだよ。それを倒す役割が僕」


答えを聞いても『言われてみたらそうだったかも……』と、イマイチピンときていない様子のレイ。


 それに対してノラが苦笑を浮かべると、詳しい内容について説明を始める。


「まぁいわゆる膨大な雑魚敵を処理する係だと思ってくれていいよ。今もなお各地で邪神の残した残党と僕の化身が戦っているんだけど、ここで困ったことがってね」


「困ったこと?」


「うん。僕ってば単体での力はそこまで強くないから、普通に負けちゃったりするんだよね。あ、安心して。負けたと言っても、その場所には倍以上の化身を送ってリベンジしてるから」


 にゃはは、と明るく笑いつつも、ノラは不意に疲れたような表情を浮かべながら言葉を続ける。


「でもそれを繰り返しているうちにちょっとずーつ、数が減っていてね。このままじゃあ来るべき決戦に備えられないなと考えたわけですよ」


「なるほど、だから私達に化身を育てさせてたのか」


「ご名答!本当に、君達には感謝してもしきれないよ」


 そこまで聞いて、レイはノラの真意を察すると、ノラは我が子を見る母のような優しい目をしながら話のまとめに入った。


「つまり、減った戦力をみんなの力で補充させてくれ〜ってことだね。継承の儀はその中でも、本体たる僕の記憶と力を受け継ぐ存在を発掘させるためのもの。どう?分かった?」


「うん大体は。でも継承が終わったらノラはどうなるの?」


「……それは考え中だね。世界を旅でもしようかな~」


 ただ最後の最後に遠い目をしながら言葉を濁したノラ。そんな姿にレイが引っ掛かりを覚えるも、それを指摘する前にノラが明るい声を出した。


「お、そろそろ終わりそうだよ」


「えっ、あぁうん」


 話は終わりだといわんばかりに前を見るノラに、レイはそれ以上問い詰めることが出来ず、仕方なく顔を前に向ける。


 そこでは、襲い来る巨大な蟻の大軍に対して、大立ち回りしているじゃしんとニャルの姿があった。


「じゃしん、後ろにゃ!」


「ぎゃー……うっ!」


 蟻達のヘイトを集めるように周囲を駆け回るじゃしんは、少し離れた位置にいるニャルの声掛けに勢いよく飛びあがる。


すると、背後から迫った二匹の蟻が対象を失い、じゃしんと見合っていた軍団と玉突き事故を起こした。


「ナイスにゃ!【薔薇の氷化粧(アイスフローズン)】!」


 絡み合い、縺れ合う一か所に集められた蟻の軍団。その隙を見過さず、ニャルは即座にスキルを放つ。


 勢いよく突き出された【霜刃のティソーナ】と共に、ニャルの周囲に展開された鋭利な氷の結晶が蟻の軍勢へと襲い掛かれば、逃げる間もなく体中に穴をあけていく。


「――ふっ、ざっとこんにゃもんにゃ。みてましたかご主人!」


「ぎゃうぎゃうっ!」


 まさしく、一網打尽。


 見事な連携によって蟻達をポリゴンに変え、無事にフェーズ2を突破した二人は、鳥籠から外へと出たレイの元へとほぼ同時に駆けよっていく。


「見てた見てた。二人とも、なかなかやるじゃん」


「にゃふん。それほどでもあるにゃ」


「ぎゃう~」


 想像していた以上の成果にレイが手放しで褒めれば、満更でもなさそうな表情を浮かべるニャルとじゃしん。


「喜んでいるところ悪いんだけど、次のフェーズに移らせてもらうよ~。今度は全員参加で!」


 ただ、当然これで終わりではない。ノラの声で現実へと引き戻されたレイが顔をあげれば、またしても地面から黒が滲み出る。


 ただ、それはフェーズ1のように小さくなく、フェーズ2のように歪でなく――。


「次はこのモンスターを倒してもらうよ!ちょっと手強いから気を付けてね!」


 やがて、レイと同じくらいの背丈のモンスターが、彼女達の前へと立ち塞がった。


[TOPIC]

WORD【フェーズ2】

君がとても優れた清心の持ち主だって分かったよ。それはとても頼もしい事だけど、やっぱりそれだけではどうしようもない状況ってのもあると思うんだ。と、いう訳で、次は腕っぷしの方を見させてもらおうかな。結局世の中、実力さえあれば何とかなるもんだしね。……え?相手が強すぎる?あぁ、安心して。こんなのまだまだ序の口だからさ。

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