8-42 強くなってコンテニュー
【ブラーク遺跡群】にある遺跡に辿り着いたレイ一行。その背後には【じゃしん教】を筆頭に先ほどレイドボス戦に参加したメンバーが続き、加えて、その行列に惹かれて集まったやじ馬がこれでもかとひしめき合っていた。
「なんか、思ったよりも人が多いね」
・そりゃそうよ
・ワールドクエスト関連だしね
・さっきの騒動もあるしな
「ぎゃうぎゃーう!」
「違うにゃよ!これは私のために集まったんだにゃ!」
その他にも遠目から様子を窺うような視線にレイは未だ慣れず、どこか居心地の悪さを感じる。
ただ視聴者からの指摘や、いつも通りに喧しく賑やかなじゃしんとニャルの様子に、気にするだけ無駄だと思い至ったようだった。
「ふん、せいぜい足元を掬われないようにな」
「……あぁ、ギーク。ごめんねいつも」
そこへ、不機嫌そうに口元を「へ」の字にしたギークが嫌味をぶつけてくる。それに一瞬固まったレイが謝罪を返せば、調子が狂ったように顔を歪める。
「なんだ?嫌味か?お前らしくない」
「だって、いつも良い所もらっちゃってるからさ……私としては、譲れるなら譲ってあげたいんだけどね……」
・嫌味だった
・煽っていく……
・こうかはばつぐんだ!
レイが頬に手を当てながら、これ見よがしに呟けば、怪訝そうに目を細めいていたギークの顔が真っ赤に染まり、わなわなと拳を震わしていく。
「この……っ!今ここで決着を――」
「はいストップ」
売り言葉に買い言葉で刀を抜きかけたギークの肩を、後ろから伸びてきたイッカクの腕が止めれば、呆れたように嘆息してギークへと口を挟む。
「ったく、素直に頑張れって言えばいいのに。どうしてそんなに捻くれてるんだか」
「ちがっ、そんなこと思ってない!」
やれやれと首を振りながら告げられた一言に、ギークは先ほどと違う意味で顔を朱色に染めると、何かを誤魔化すように声のトーンを一段階あげる。
「いいか、失敗したら次は俺の番だ!肝に銘じておけ!」
そしてそれだけ言い切ると、【WorkerS】の面々を引き連れて、群衆を掻き分けながらそこから去っていく。
「ごめんね。うちのツンデレが」
「いや、大丈夫です。なんとなく分かってきたので」
「そう言ってもらえると、助かるよ。それじゃ、頑張ってね」
レイへと応援の声をかけつつも、すぐにその背中を追っていくイッカク。彼等の姿を見送った後、レイはもう一つの功労者達へと目を向けた。
「みんなもありがとね!助かったよ!」
「大丈夫。気にしてない」
「特に何もしてませんので~」
「お姉様、健闘を祈ります」
「あぁ、楽しませてもらった」
もはや主要メンバーと言っても過言ではないウサ、スラミン、シフォン、トリスの4人と順番に視線を交わせば、その瞬間、覆面のプレイヤー達から合唱が響き渡る。
「「「いあ、いあ、じゃしん!いあ、いあ、ニャル!」」」
「ぎゃう~!」
「これは、悪くにゃいにゃね……」
自分達に向けられた崇拝にも似た言葉に片や大喜びし、もう一方も満更ではない表情を浮かべている。
名前は呼ばれなかったレイも同じように力を貰ったのか、満面の笑みを返すと、満を持して遺跡の入口へと向き直った。
「よし!じゃしん、ニャル、行くよ!」
「はいにゃ!」
「ぎゃう!」
二体の相棒の名を呼べば、間髪入れずに返ってくる元気な声。それを頼もしく感じつつも、レイはゆっくりと遺跡の中へと歩を進める。
・レイちゃん頑張ってね!
・配信で見れないのが残念だわ
・クリア報告待ってます
「みんなもありがとう!また後でね」
今回は余裕があるからか、階段を下りながらも流れる応援コメントに言葉を返すレイ。そうこうしている内に、最下層と思しき開けた空間へと辿り着いた。
「やぁやぁ、待ってたよ」
「うん、久しぶり。ノラ」
「あれ?久しぶりというほど時間は空けてないと思うんだけど?」
「大丈夫、こっちの話だから」
レイ達の姿を見てにこりと笑ったノラに挨拶を返せば、不思議そうに小首を傾げている。
一度クエスト失敗したことで関係値がリセットされているのだろう、それを理解しつつもレイが意味ありげに笑えば、ノラはきょとんとしながらも話を進めた。
「まぁいいや。早速だけど、君達には継承の儀に挑戦してもらうよ。準備はいいかい?」
「もちろん」
「かかってくるにゃ!」
「ぎゃうっ!」
「ん、それは重畳」
問いかけに対し、自信満々に答えた三人の挑戦者の姿に、ノラは嬉しそうに顔を綻ばせる。
そして、それと同時にレイの目の前へとウィンドウが出現した。
[World Quest]
【演じるは王、それが道化となろうとも】
・ノラの課す試練をクリアし、王の力を継承する
・報酬:???
※ワールドクエストが発生しました。これよりクエスト完了まで配信は出来なくなります。
前回と全く同じ内容、同じ展開であることを確認したレイは、二人の名前を短く呼ぶ。
「ニャル、じゃしん」
「了解にゃ!」
「ぎゃう!」
それに敬礼を返した二人はレイの元から離れ、空間の中心まで移動するとコソコソと耳打ちしながら作戦会議を始めた。
「おや、いいのかい?二人に任せっきりで」
「あぁうん。大丈夫だよ。寧ろ邪魔になっちゃうからね」
「へぇ、それは楽しみだ」
そんな二人とは対照的に入り口近くに立ったまま動く様子のないレイ。そんな彼女を見かねたのか、霊体となったノラが傍までやってきて囁くも、レイは自信満々に頷いて返してみせた。
「ぎゃう……ぎゃう……」
「オッケーにゃ。ドーンとぶつかってあとは流れにゃね……」
それを聞いたノラが期待を込めた視線を向ける中、おおよその作戦が決まったらしい二人は互いに背中合わせになって注意深く周囲の様子を観察する。
およそ十数秒、何も起きない時間が続く中、経験者であるじゃしんが一足先に出現した蠢く影に気が付いた。
「ぎゃう!」
「分かってるにゃよ!」
数瞬遅れてニャルもそれを視界に納める……が、じっと耐えて動かない。その間にも嫌悪感の強い黒い昆虫の数は指数関数的に増していく。
「なにしてるんだい?」
「早く終わることを願ってる」
全ての情報をシャットアウトするかのように目と耳を塞いだレイにノラが怪訝な表情を浮かべる中、遂にニャルが動きを見せる。
「こんにゃもんか?じゃあ私の新しい力、とくと味わうといいにゃ!」
壁一面に現れ、今もなお地面を這って増殖する黒を睨め付けながら、ニャルは腰に携えた刺突剣を引き抜く。
そして、冷気を放ちながらキラキラと輝くその刀身を勢いよく地面に突き刺すと、高らかにスキルの名を叫んだ。
「【霜草の森】!」
瞬間、地面に突き刺さった刀身から一際大きな冷気が噴出すれば、襲い掛かる黒を上書きするように扇状に地面が白んでいく。
それは急激な勢いで勢力を拡大していき、地面を完全に塗り上げた後は正面の壁にまで浸蝕し、瞬く間に黒光りする敵を根絶した。
「どんなもんだにゃ!」
「ぎゃう~!」
「ね、言ったでしょ?」
「……うん、これは御見それしたよ」
その力にレイがどや顔を浮かべれば、ノラは驚きのあまり目を丸くする。ただその口元は、これ以上なく弧を描いていた。
[TOPIC]
SKILL【霜草の森】
冷気を纏う雑草は白く、儚く。それでいて誰よりも力強く。
CT:-
効果①:状態異常【凍傷】を付与
効果②:対象の<敏捷>を低下(-30%)
STATE【凍傷】
効果①:最大HP低下(50%)
効果②:HPが一定値を下回った場合、HPを0にする(HP<300)




