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8-40 化身の神髄


「諦めるな!うち続けろ!」


「もう少しの辛抱です~!」


 砕けそうなほどに軋む聖域内に、決死の声が響き渡る。


 死ぬか生きるかの大一番、そこにいるすべてのプレイヤーが己の全てを賭けて攻撃を繰り出す中、戻ってきたイッカクがギークへと声をかける。


「ギーク!状況は!」


「ダメだ……!このままではどうあがいても全滅する!」


 苦し気に顔を歪めたギークの視線の先には、【ヨトゥン】のHPを示すゲージ。


 プレイヤー達からの怒涛の反撃を受けて僅かに減少しているが、それでも自動回復によって回復し続けており、残り2割をきろうとも削り切れる様子はなかった。


「きゃっ――」


「ミーアさん!皆様!聖域が片方壊れます!」


 加えてミーアから短い悲鳴が上がったかと思えば、紫電と共にその姿が消えてなくなる。


 それによって、ミーアが請け負っていた聖域の一部も消滅し、そこにいたプレイヤーから阿鼻叫喚が聞こえてきた。


「おい、こっちくんなよ!」


「うるせぇ!お前があっちにいけ!」


「最悪のタイミングだな……!」


 何とか攻撃することによって保っていた均衡は、過半数が逃走に回ったことであっけなく崩壊を迎える。


 セーフティエリアに移動しようとするプレイヤーと、自分のスペースを確保するためにそれを押し返すプレイヤー。もはや【ヨトゥン】など二の次と言わんばかりの状況に、ギークは強く顔を顰めた。


「……一か八か、僕達が行ってみるよ。それならもしかしたら――」


「許さん。あれだけ『きょうじん』に我慢を強いておいて、守れないとは言わせんぞ」


「ならどうすれば……!」


 捨て身の決意を固めたイッカクを止めつつも、ギークは答えを出せずに押し黙る。万事休す、その言葉が脳裏をよぎった、まさにその時だった。


「……ん?なんだ、あれは?」


「まさか……レイさん?」


 【ヨトゥン】の背後から、ものすごい勢いのナニカが飛来する。黒い羽根を羽ばたかせ、その傍を付き従うように小さな物体が展開していた。


「まさか、ニャルくん!?一体どうして……」


「どういうことだ、何があった?」


 その影を見て、イッカクは僅かに目を見開く。そんな彼の様子を目敏く見つけたギークが問いただせば、上空にて起きた事柄を説明した。


「……もしかしたら、試練をクリアしたのかもしれない」


「試練……って、例の?」


 それを聞いたギークが黙り込んで思考に耽ると、ぽつりと心当たりについて呟き、すぐさま確証を得るために振り返った。


「おい、誰か『きょうしん』がどこまで試練を進めていたか分かる奴はいるか?」


「え?えっと、確か~――」


 その質問に答えたのは、【じゃしん教】の先頭に立つスラミン。配信で見た状況を思い出しながら伝えれば、ギークは頭の中のパズルにピースを当てはめていく。


「ということは残りは二つ……。『千尋の谷へと自ら飛び込め』は達成したとして、最後の一つもクリアしたのか……」


「何か知ってるんですか~?」


 ぶつぶつと呟くギークに対し、同じ疑問を持っていたスラミンが問いかける。


 それに一瞬躊躇いをみせたギークだったが、イッカクが頷いたのを確認してその質問に回答を始めた。


「……『千尋の谷へと自ら飛び込め』というのは、100メートル以上の高さから落下するのがクリア条件だ。これは検証したから間違いがない」


「うん、おそらくそれは満たしたんだろうね。ただもう一つは本当に……。状況的にデスしたらとか、かな?」


 どうやらギーク達はネットに流れている以上の情報を有しているらしく、先程の情報と照らしあせながら考察を深めていく。


「他の試練をすべて終えてか?そんなふざけた話があってたまるか」


「それは同感だけど……。なにはともあれ、彼女達に託すしかないようだね」


「……本意じゃないがな」


 最終的に答えは出なかったが、大きく流れが変わったことを確信した二人は、再度空を見上げる。その瞳には、羨望と期待の入り混じった、複雑な感情を見え隠れしていた。


「――二人とも、ついてこれてる?」


「ぎゃう!」


「大丈夫にゃ!」


 地上でそんな会話が繰り広げられる中、上空を猛スピードで駆け回るレイ達。お互いに声を掛け合いながら突き進めば、そこに狙いすましたかのように氷塊が降り注ぐ。


「イブル!避け――」


「その必要はないにゃ!【聖結界】!」


 回避を宣言するその前に、レイ達の目の前へと聖域に似た白い光の結界が出現すると、氷塊をレイ達に触れることなく弾き飛ばす。


「それって、シフォンが使ってた……」


「ふっふっふ、これが私の新しい力にゃ!【ALL UP+++】!」


「ぎゃう~~~!」


 見知ったスキルではあるが、それをニャルが使用したことにレイは驚く。そんな姿をしてやったりといった様子で笑いながらもう一つスキルを披露すれば、じゃしんとレイの体が七色に輝いて加速した。


「【ダークミスト】!【不可視の足枷】!【キングスシャウト】!」


 しかも、それだけでは終わらない。続けざまに放ったスキルによって、【ヨトゥン】に多くの状態異常が付与されれば、レイは思わず足を止めてニャルに問いかける。


「あれはユエの……ねぇ、どういうこと!?」


「さっき使えるようににゃったにゃ!他の化身が覚えたすべてのスキルをにゃ!」


「そんなことが……!それは頼もしいねっ!」


 さっき、というのは恐らく復活した時だろう。大幅の強化を経たニャルに対して賞賛を口にしつつ、レイは【ヨトゥン】を倒す算段について思考を切り替える。


「ねぇ、アレを一撃で倒すスキルはある?」


「もちろんにゃ!ちょっと準備が欲しいにゃけど……」


「上々!道は私がこじ開けるから、とどめはよろしく!あ、弱点は多分心臓ね!」


 ニャルから頼もしい回答を貰ったレイはニヒルに笑った後、イブルに指示を出して速度を上げる。


「変身!からの【武神機巧『破天』】!」


 そして高らかに宣言した言葉と共に、レイの姿が変わっていく。


 外の景色とは相反したノースリーブに膨らんだズボン、そして手に持つ装備は手のひらサイズの拳銃から、自身の体よりも大きなハンマーへと変貌する。


そこでようやく近づいてくる存在に気が付いた【ヨトゥン】は、レイに視線を合わせると、ゆっくりと体を動かして腕を振り被った。


「さぁイブル、食いしばってよ!」


「お任せをォ!」


 臨戦態勢に入った【ヨトゥン】を迎え撃つように、レイは身をよじってハンマーを大きく振り被る。


 そして、空気を切り裂きながら繰り出される巨大な拳に対して、真っ向から立ち向かい――。


「【天体衝突撃(クレーターインパクト)】!」


 紛うこと無き必殺の一撃が激突する。


 途轍もない衝撃波が巻き起こり、周囲の風を変える中、レイは歯を食いしばりながら前へ前へと体ごと腕を押す。


「イブル!もっと!」


「あい……よォ!!!」


 それに答えるように、背中から噴出する黒翼の勢いを増していく。


 拮抗したと思しき力は次第に傾いていき、やがてレイがハンマーを振り切って、【ヨトゥン】の腕を大きく弾き飛ばすことに成功した。


「さぁ、いってらっしゃい!」


「道は開けたにゃ!じゃしん、ゴー!」


「ぎゃうっ!」


 右腕が雲を突き抜け、大きく後ろによろめいた【ヨトゥン】。そこへ、レイの脇を擦り抜けるようにじゃしんとニャルが突き進む。


「さぁ、最後の一撃にゃ!よーく味わうといいにゃ!」


 未だバランスを崩したまま、がら空きの胴体へと瞬く間に辿り着けば、ニャルは刺突剣を上に掲げる。


「「みゃお!」」


「ユエ?」


「コハク?どうしたんですか?」


 瞬間、【アーテナー溪谷】中から化身達の鳴き声が響き始める。その声が大きくなるのに比例して、剣先へとエネルギーのような光が集約されていく。


「さぁじゃしん!準備は良いかにゃ!」


「ぎゃうっ」


 そのエネルギーはやがて一つの球の上に四つの球が浮かんだ、肉球のような姿へと変わっていく。


集められたエネルギーは甲高い音を立てながら圧縮されていき、やがて限界に達したところでニャルが勢いよく剣先を【ヨトゥン】へと向ければ――。


「【王虎玉(おうこだま)】!」


「ぎゃう~!」


 ――集められたエネルギーが【ヨトゥン】へと放たれ、その胸と後ろに続く暗雲に、巨大な肉球マークの風穴を開けた。


[TOPIC]

SKILL【王虎玉】

祝え、我らが王の誕生を。終結せよ、珠玉の一撃をもって。

CT:-

効果①無属性の極大ダメージ(エリア内にいる化身の数*100/dmg)

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― 新着の感想 ―
[良い点] 完全に元〇玉いいぞもっとやれ [気になる点] あーやっぱ効果時間よりもタイムリミットが先だったかぁ しかし技の説明・・・もしや化身育成って先着1枠のみか・・・?
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