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2-1 世界を動かす『神』は何を思う


「あははっ」


 セミの声が聞こえる和室。


 日本家屋を感じさせる畳の上で一人の女性が含み笑いをしていた。


 窓の外には一面の田んぼが映っており、ビル一つ無いのどかな田舎の風景が広がっているが、彼女の目の前には不揃いな6面ディスプレイとキャリーケースほどの巨大なパソコンが設置されている。


 ピコンッ


「おっと」


 そんなモニターの一つに通話アプリのアイコンが出現する。


 そこに表示された名前に心当たりがあった彼女は一拍おいて通話ボタンを押した。


「やぁ、こちら超絶美少女天才ゲームエンジニアの語部(かたりべ)(しおり)ちゃんだよ」


『自分で可愛いとかいってんじゃねぇ』


「おや、その声はゲームディレクターの夏目(なつめ)賢司(けんじ)ではないか」


 通話を開始するとモニターに30歳前後の男性の姿が現れる。寝ていないのかその目の下には深いくまが浮かんでいた。


『いや名前出てただろうが、白々しい』


 白々しく言う女性に目を細めながら突っ込む夏目と呼ばれた男。それに対して栞はクスクスと楽しそうに笑う。


『ってこのやり取りは良いんだよ。おい、一体どういう事だ?』


「どういう事とは?」


 その怒声に近い叫び声にきょとんとする彼女に夏目は真顔になって質問する。


『え?マジで言ってる?』


「う~ん、勝手に召喚獣のデータを追加してそのプレイヤーがワールドクエストクリアしちゃったことではないだろうし……」


『いやそれだよ!心当たりありまくりじゃねーか!』


 わざとらしく首を傾げる栞に堪忍袋の緒が切れたのか、感情を爆発させるかのように夏目は叫び声を上げる。だがそれでも栞は余裕そうな笑みを崩さない。


『ってかあの召喚獣なんなんだよ?あんなに表情豊かなモンスターなんていつ実装したんだ?』


「あれ凄いだろ?栞ちゃんお手製の特殊なAIを積んでいるんだぜ」


『特殊……?』


 まるで我が子を自慢するかのようにワントーン上げた声で説明しだす栞に、賢司はかつてないほど嫌な予感を覚え、眉間にこれ以上ないほど皺を寄せる。


「あぁ、普通のモンスターのAIじゃなくて主要NPCのAIを改良して作ったんだけどさ、学習を積み重ねることでまるでプレイヤー(・・・・・・・)みたいな挙動(・・・・・・)を取らないかなと思ってさ」


『は?』


 そう言いながら彼女はキーボードを叩いてモニターを操作する。


 そこにはじゃしんがレイから離れてモンスターと戦っている場面や紅茶を飲む場面、そして『満月印の養命酒』を飲んでいる場面が映っていた。


「結果は大成功!見たかい、どう考えても自立しているとしか思えない行動の数々。中に人がいるといっても違和感がないような出来!まさしく傑作だよ!」


『いや傑作だよ、じゃあねーんだよ!』


 期待通りの結果に笑いが止まらないのか、至極愉快そうに話す彼女に、ついに賢司は先ほどとは比べ物にならないほどの怒声を上げながら肩を怒らせる。


『勝手にそんな大事な事をするなよ!ほかに影響が出たらどうすんだ!』


「そんなのあるわけないじゃないか。私を誰だと思ってるの?天才美少女プログラマーの栞ちゃんだぜ?」


『コ、コイツ……!』


 『ToY』を管理する物として障害となり得る可能性を指摘しても、栞に悪びれた様子はない。


 それをみてますます頭に血が上るのを感じた夏目だったが、言っても無駄だと悟ったのかはぁはぁと荒い息を吐いて呼吸を整え、疲れたように言葉を続ける。


『召喚獣だけじゃねぇ、職業についても【邪教徒】なんて設定資料にはなかったハズだ』


「お、よく見てるね。そうだよ、これも後から追加したんだ。じゃしんなのに普通なのもおかしいでしょ」


 全く危機感のない暢気な声に夏目は頭を抱えながらも、少しトーンを落として諭すように言い放つ。


『……始めたばかりの初心者がユニークモンスターとユニークジョブを手に入れた。おまけにワールドクエストすら初クリア、お前にそのつもりがなくても、一人のプレイヤーを贔屓してるって思われるぞ』


「かもね。でもプレイヤーがどう思うか何て、私には全く関係ないから」


『なっ』


 それはゲームの製作者失格の微塵の責任感も持たない最低な発言。だが、栞はそんなこと構うものかと言わんばかりに堂々と夏目に言い放つ。


「『ToY』は私の世界だ。君達も『ToY』で遊んでいるプレイヤーも全部それに乗っかっているだけ。神である私に全ての決定権があるんだよ?分かってる?」


『……分かってる』


「じゃあ私の好きなようにやっていいよね?下らないお客様の意見とかはさ、そっちで勝手に処理しちゃってよ」


『……そう、だな。悪かった。……だが今度は一言くらい相談してくれ』


「う~ん、まぁ考えてあげよう」


 余りに横柄な物言いに夏目は悔しげに言葉を詰まらせる。だが上下関係は悲しいほどにはっきりしているようで、素直に従い、頭を下げるしかない。


 対する返答もどこか気の抜けたもので、本当に聞いているのか怪しいものであり、どこ吹く風といった様子で話題を変える。


「でも公式ストーリーが第四章から開けられたのは予想外だったね」


『そうだ、その話もしようと思ってたんだ』


 二人の中では【月の光に激しく昂る】というクエストは4番目に開けられる難易度だったらしい。それが最初に開けられたことに少なからず驚いているようだった。


 ただそんな中でも栞は気色ばんだ様子で問題ないかのように答える。


「大丈夫、そのこともちゃーんと考えてるって。次は第一章が開くと思うよ」


『考え?』


 夏目はその一言に眉を寄せる。彼にとって目の前の女のいい考えとは必ずしもいいモノとは限らなかった。


「うん、明日からイベント開くから」


『はぁ!?明日!?』


 あまりの突然の出来事に驚愕の声を上げる夏目。だが栞は些細なことだと言わんばかりに淡々と内容を伝えていく。


「じゃ、そういうことで今から告知するから。そっちの人達にも共有よろしく」


『おい、ちょっと待――』


 栞は有無を言わさずに通話を切ると、モニターの画面を切り替えてイベントの詳細をもう一度確認する。


「じゃあきょうじんちゃん?面白いもの期待してるからね」


 特に問題がないことを再確認した栞は迷うことなくエンターキーを押す。その表情は期待とワクワクが止まらないと言わないばかりの満面の笑みだった。



[TOPIC]

WORD【公式ストーリー】

『ToY』の公式サイトにあった謎の項目。

長らく何も表示されていない空白のページだったが、ワールドクエスト【月の光に激しく昂る】がクリアされたとともに4章が解放され、ワールドクエストに関する補足ストーリーが展開されることが判明した。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] この紙様とセブンには、レイちゃんに吠え面かかされてほしい
[一言] 何でも出来るが謳い文句のゲームで、ここまでやれる事を制限されて、レベル上げてやるゲームでそれさえ満足に出来なくて装備迄制限してレイのプレイヤースキルだよりで成り立つゲーム状況で、それで依怙贔…
[気になる点] この前、本章では勝手に大事の道具使われて訴えられる心配とか、名前は被ったけど、先にあったのはじゃしんとか、そう言う話があったような気が
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