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8-37 霰帝の抱擁

遅くなって申し訳ナス……

コミカライズ版、本日更新です。漫画UPで見れますので、ぜひぜひ。


「んなっ!?」


・すご

・一撃!?

・ヤバすぎ


 絶対に勝てないと思い込んでいた存在が一撃で葬り去られる。そんな衝撃的な光景にレイは口をあんぐりと開けて身を乗り出した。


 ズレた上半身が崩れ落ち、ポリゴンへと変わっていく【シャクラ】の姿。それを茫然と眺めていると、隣にいたギークが彼女の肩を強く揺さぶる。


「おい『きょうじん』!呆けている場合じゃないぞ!」


「はっ、そうだった!ど、どうしよう!」


 【シャクラ】が倒れたということは、【ヨトゥン】が自由になるということ。必殺技が不発に終わり、想定よりもHPが十分に削り切れていない【ヨトゥン】に対して大幅に作戦の修正を余儀なくされたため、レイは焦ったように忙しなくその場を動き回る。


「なるほど、これが【シャクラ】の力……!」


「おーい!上手く行ったってことでいいんだよな!?」


 一方で、見事目的を達成し、この状況を引き起こした本人であるジャックは目の前に表示されたウィンドウを食い入るように見つめつつ、下から聞こえるミナトの叫び声に歓喜の言葉を返す。


「あぁ!完璧だ!これで俺も――」


「ジャック!」


 そこへ水を刺すように、振り下ろされる【ヨトゥン】の巨剣。


 【シャクラ】がいない今、恐らく目の前にいるジャックが最も危険な存在であると判断したのだろう、それによってジャックの姿は消え、ミナトが焦った声を出す。


「安心しろ!もうこの程度じゃやられねぇ!」


 だがその剣に沿うように稲妻が迸ったかと思えば、体全体が薄緑色の閃光と化したジャックが刀の形状をした雷を掲げながらミナトへと語りかける。


「レイに伝えてくれ!置き土産だけはしといてやるって!」


「あ?良く分かんねぇけど……」


 その声とともに、再び稲妻状態となったジャックが【ヨトゥン】へと駆け出していく。


 言伝を受け取ったミナトは曖昧に首を傾げると、よく分からぬままレイの元へと向かった。


「ミナトさん!一体どうなってるんですか!?」


「さぁな。ひとまずこっちの作戦は成功、それからアイツから伝言を預かってる」


 律儀にもジャックから受け取った言葉をミナトがそのまま伝えれば、レイは怪訝そうに眉をしかめる。


「置き土産……?」


「あぁ。たぶん一発かましてくれるんだろうよ」


 不審な感情を存分に醸すレイに対し、ミナトもまた肩を竦めながらジャックへと視線を戻す。ただその瞳には、期待が存分に込められていた。


「くははっ、体が軽い!死ぬ気がしないぜ!」


 そんな思いを知ってか知らずか、ジャックは手に入れた力に酔いしれながら高らかな笑い声をあげる。


 その動きはまさしく雷神。【シャクラ】の力を手に入れて、文字通り稲妻となった体を使い、光の速さで【ヨトゥン】の体を駆け上がっていく。


「さて、そろそろ俺もうずうずしてるからよ!試し切りさせてもらうぜ――!」


 そして、反応すら出来ていない【ヨトゥン】の眼前へと飛び出せば、納刀するように刀を腰に添え、それと同時に刀がバチバチと音を立てながら強く発光し――。


「――【落雷ノ腕(おついづまのかいな)】!」


 そして放たれる、神速の一刀。


 音すらも置き去りにしたその一撃は、振った瞬間、閃光と共に刀身を伸ばし、【ヨトゥン】の頭部の右側と右肩から下をバッサリと斬り飛ばす。

 

「スゲェ、マジかよ……!これなら……!」


 思わぬ一撃に怯んだように仰け反った【ヨトゥン】。その背後では切れ込みの入った黒雲から日差しが差し込んでおり、ジャックはその威力に歓喜で体を震わせた。


「今の、ジャックが……!?」


・は?

・ごっそり減ったぞ!?

・ズルだろこれ


 その光景を見ていた他プレイヤーも驚愕のあまりざわつき始める。特にレイは身内であることも相まって、【ヨトゥン】のHPが一撃で3割を切ったことが信じられずに茫然と立ちすくんでしまう。


「……くるか!」


 だが、固まるレイを置いて事態はどんどんと進んでいく。

 

 HPが2割を切った【ヨトゥン】が突然ピタリと静止したかと思えば、突如ぶるぶると振動を開始する。


 それに比例するように周囲を舞う吹雪の勢いが増していき、それが地面さえも揺らすほどの大きさになった頃合いで、身に纏う雪の衣がボロボロと崩れ落ち、中から一回り小さい氷像が姿を現した。


「あれが、【ヨトゥン】の覚醒モード……」


 隣にいたギークが呟く。


 まるで人体標本のように、必要最低限の機能しか身に着けていない【ヨトゥン】の体は、冷気を放ち白い煙のようなもので覆われている。


 視線は虚空に定めたまま棒立ち状態で立ち竦む不気味な姿に、プレイヤーだけでなく画面越しの視聴者でさえ絶句して固まってしまった。


「第二ラウンドってことか。でも、お前の攻撃は通らねぇぜ!」


 場を支配する嫌な静寂。ただ、そんな中でも臆することなく立ち向かっていく存在がいた。


 恐らく一種のトリップ状態にもなっているのだろう、三度自身の体を雷状態にして【ヨトゥン】の頭上へと躍り出れば、そこで【ヨトゥン】が動く。


「はっ、だから無駄だって――」


 まるで目の前を飛ぶ蠅を掴むように伸ばされた腕。それを鼻で笑いつつ、自身を雷状態にして回避を試みたジャック……だったが、現実は無常であった。


「……え?」


・あれ?

・何が起こった?

・もしかして、凍らされたのか……?


 体に触れた瞬間、ジャックの体が人型に戻ったかと思うと、すぐさま制止して【ヨトゥン】の手のひらに容易く包まれる。そしてすぐさま開かれれば、そこから何かが地面へと落下していく。


「ジャック!おい――ってこりゃダメか」


 その正体は、ジャックであったモノ。表面は水色で鏡のように輝いており、まさしく【ヨトゥン】と同じ氷像のような見た目をしていた。


「これは……状態異常?」


「……いえ、違うみたいです」


 駆け寄ってきたシフォンが何やらスキルを発動するも、ジャックの様子は変わらない。


 手の施しようがないとでも言うようにふるふると首を振ると、レイの目を見て告げる。

 

「もうHPが尽きて、実質デスポーンしている状態みたいです。蘇生スキルも通りませんでした」


「……ということは触れただけで即死ってこと?」


「……みたいだね。アポロが怯えてる」


 レイの質問に、イッカクが隣で震えるアポロを落ち着かせながら答える。あれだけ強気だったユニークモンスターですら恐れている姿を見て、レイが嫌な予感を感じるも、その感情を掻き消すかのように号令が響き渡る。


「だがチャンスでもある。遠距離組はありったけぶちこめ!」


「皆さんもです~!これが正念場ですよ~!」


 二人の声を聞いて、大勢のプレイヤーが一斉に動き出す。


 軍服を着たグループはバズーカを、覆面を着たプレイヤー達は多種多様の武器を構え、【ヨトゥン】へ一斉にぶつけていく。


 その流れに遅れまいと、レイが余計な思考を切り捨てるように頭を振って【ヨトゥン】へと目を向ければ、ふと、【ヨトゥン】がこちらを見ていないことを気が付く。


「あれ、一体何を見て――」

 これだけの攻撃を受けてもなお宙を見つめる視線。それを追うように、レイが正体を探せば、そこには。


「あれって……じゃ、しん?ニャル……!?」


 未だに宙を舞う、二人の相棒の姿があった。


[TOPIC]

SKILL【落雷ノ腕】

雷神の拳が振り下ろされれば最後、そこには塵すらも残らない。

CT:5000sec

効果①:雷属性の極大ダメージ(<腕力>*1000*x)

効果②:対象のサイズが大きいほど威力上昇(x/1m)


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