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8-27 雷公、顕現

第三巻は明後日発売!早いところでは、今日にでも書店に並んでるかも……?


[Warning!]

・レイドモンスター出現

【雷霆公主 シャクラ】


[レイドモンスターが出現しました!周囲のプレイヤーと協力し、撃破してください]


 黒雲の切れ間から、閃光が迸る。


 その輝きは見上げるプレイヤー達の視界を白く染め、数秒遅れで両耳に轟音を叩きこむ。


鼓膜を破らんとするほどの大音量にほぼすべてのプレイヤーが耳を塞ぐ中、それはゆっくりと降臨した。


 黒雲から下へ下へ降りてくる中、最初に覗かせたのはその巨大な両脚。ふくらはぎの部分が大きく膨らんだ緑色の布を履き、胡坐から片膝を立てた状態で座っている。


 続いて出現した上半身には何も身に着けておらず、覗く素肌は血の気を感じさせない深い蒼で染まり、芸術と見間違うほどの筋肉の鎧を身に纏っていた。


 そして、最後に現れた顔面は、紛うことなく人ならざるもの。東洋の龍を思わせる相貌は人の体とはあまりにもミスマッチであり、されどそれ以上の神々しさを醸し出している。


「あれが、【雷霆公主 シャクラ】……」


 誰かが、呟く。


 推定50メートルを超える超巨大モンスター。それが空中で悠然と佇みながら眼下を見下す姿は、そこにいるすべてのプレイヤーの視線を独占し、場を静まり返らせる。


「……やっぱりレイドボスは迫力が違うね」


・勝てる気しないんだが

・これと戦うの?

・無理だろ……


 当然それは、レイも同じであった。相対するだけで分かるその理不尽さにごくりと生唾を飲み込めば、コメント欄には弱音を吐くような声が殺到する。


「いや、どうやら必勝法があるみたいだよ。それに、戦えば意外と何とかなったり……」


 視聴者に……いや、自分に言い聞かせるようにそう呟いたレイだったが、現状そのヴィジョンは見えそうにない。


 ジリジリとした緊張感が場を支配する中、やがてその硬直を解いたのは、第三者であった。


「こ、こんなの聞いてねぇよ!」


「逃げろ!せめて化身だけは範囲外へ!」


 レイ達の姿を見て、野次馬のようについてきていたプレイヤー達がプレッシャーに圧されて蜘蛛の子を散らすように逃走を開始する。それが奇しくも、開戦合図となったことにも気付かずに。

 

「おい、狙われて――がっ!?」


「なんっ、いってぇ!?」


「お、おい近寄るなっって!」


 背中を向けたプレイヤーに視線を向けた【シャクラ】は、緩慢な動きで彼らに指先を向ける。その瞬間、指先から雷が放たれたかと思えば、一人、また一人と周囲にいるプレイヤーに悉く伝播していく。


「これは……ニャル、絶対に前に出ずに、周囲とは距離を取ること。じゃしんもフォローしてあげて」


「分かりましたにゃ」


「ぎゃう!ぎゃーう!」


 その攻撃にスッと目を細めたレイは、すぐさま対策をニャルとじゃしんに指示する。


 それを受けてニャルが頷けば、じゃしんは『まかせろ!』とでも言うように、真剣な表情で力こぶを作った。


「ふん、まぁそれくらいは信用してやるにゃ」


「ぎゃう~?」


「ちょっと、じゃれてる場合じゃないって!くるよ!」


 逃走を図ったプレイヤー達を殲滅した【シャクラ】は続けてレイを筆頭とした【じゃしん教】の面々へと視線を向ける。そして、先ほどと同様に緩慢な様子で指先を動かして――。


「暗黒騎士団、前へ!構え!」


 それと同時に、漆黒の鎧を身に纏った騎士団が一歩前に躍り出る。手には身の丈よりも巨大な盾を持ち、トリスの指示通りに綺麗に整列した後、全員が同時にスキルを発動した。


「【我が命は祖国のためにデボーショントゥキングダム】!」


 突如光り輝き始める彼らの体。その影響か、数秒遅れて放たれた雷撃はすべて吸い込まれるように軌道を変えて彼らに直撃し、その背後にいるレイ達に一切の影響を及ぼさない。


・おぉ!防いだ!

・なるほど、攻撃を引き寄せるのか

・さすが【清心の祈り】

・今はじゃしん教暗黒騎士団だぞ


「だ、大丈夫なの?これ持たないんじゃ」


「安心してください。そのために私がいます」


 周囲が歓声に沸く中、レイは懸念事項をそっと耳打ちで訊ねる。それに対してシフォンは優雅にほほ笑むと、彼らの背中に隠れるように一歩前へと進んだ。


「【祝福の木漏れ日】」


 シフォンの声とともに、彼等の周囲に淡い光が降り注ぐ。そして、雷を受けてボロボロとなった彼らの盾や鎧が、徐々に輝きを取り戻し始めた。


・回復スキルか

・これは強力なタンクだわ

・流石『聖女』

・今はレイちゃんのストーカーだぞ


「そういうコンボか。やるね!」


 【シャクラ】の攻撃を完全にシャットアウトしてみせた元【清心の祈り】の連携に、レイは思わず舌を巻く。その時それに対抗するような声が彼女の耳に届く。


「さーて、【清心の祈り】の皆さんにだけいい恰好はさせられませんよね~?」


「「「いあ、いあ、じゃしん!」」」


 不気味な掛け声とともに、前に出た覆面軍団。負けず劣らずの統率力で懐から一斉に杖を出せば、各々がそれを掲げて詠唱を開始する。


「魔法部隊、準備は良いですか~?やっちゃってくださ~い!」


・おぉ!

・これはスゲェ!

・汚ねぇ花火だ……


 そして、スラミンの声と共に放出される多種多様の魔法。炎、氷、雷、土、水……およそすべての属性の攻撃が【シャクラ】の下へと殺到し、鮮やかな色を展開する。


「これだけ人数がいると圧巻だね。これなら――」


「いや、ダメかも」


「えっ?」


 期待を含んだレイの言葉に、すぐさまウサから否定の声が聞こえてくる。一瞬、何を言っているのか分からないレイだったが、その謎はすぐに解明されることになった。


・本当だ、減りが悪い

・体力が多すぎるのか、あるいは火力がなさすぎるのか……

・このままじゃ何時間かかるのって話になってくるな


「……なるほど。たぶん両方あるだろうね。一応、火属性魔法が有効みたいだけど……」


「ですね~、では火属性を中心に……でも弱りましたね~。火力不足はちょっとどうにもならないですよ~」


 観察して得た情報を攻撃部隊にフィードバックしつつ、レイとスラミンは唸り声をあげる。


「う~ん、私が加勢……してもあんまり意味ないかな」


「そうですね~。正直雀の涙ですし、レイさんには力を温存しておいてほしいです~」


 一番簡単な解決策は火力を上げること。それは理解しているが、ラストヒットが最重要であるため、ガス欠になる可能性を残したくない。


 他に手段はないか――そう二人が思考を始めた時、一筋の煌めきが、雲を切り裂いて【シャクラ】へと襲い掛かった。


[TOPIC]

SKILL【我が命は祖国のために】

背後にいる大切な者の幸福の為ならば、例えこの身が朽ち果てようとも。

CT:60sec

効果①:すべての攻撃の対象を自分に変更

効果②:行動不可状態

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― 新着の感想 ―
[良い点] かばう技いいよね味方守るの楽しいし
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