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8-23 教えて従兄さん


「必勝法……?」


 ジャックの口から出た、自信満々な一言。レイ自体もそこまで詳しく調べているわけではないが、俄然興味を惹かれ身を乗り出して詳しい内容を訊ねる。


「ねぇ、その作戦って?」


「これだけは言わない。絶対にだ」


 だが、それに対してジャックは首を振る。頑として聞く気はないとでも言うに背筋を伸ばして腕を組む姿に、レイは思わず半眼で睨み付けた。


「なんでさ。もう私は仲間でしょ?」


「それで前回裏切った奴がいるんだよ」


「……そんな奴がいるんだ。ふーん」


 『忘れたとは言わせねぇぞ』とでも言うように睨み返してきたジャックに、レイは惚けたように明後日の方向を向く。ただその脳裏には、かつての監獄での出来事が鮮明に浮かんでいた。


「お前にこれ以上話題を取られるわけにはいかねぇんだよ。今はちょうどチャンネルも伸び盛りだし、同じ配信者ならこのチャンスを逃したくないのは分かるだろ」


「むぅ……」


 そのうえ正論までぶつけられては、レイは拗ねたように唇を尖らせるしかない。しばらくは睨み合っていた二人だが、やがてレイがため息を吐きだす。


「じゃあちょっとだけ質問してもいい?」


「……答えねぇぞ?」


「別にいいよ、聞いてさえくれれば」


 説得は難しいと判断したのか、聞き出すスタイルを変更したレイは、一度こほんと咳払いすると、観察するような視線でジャックを注視する。


「質問一。それはジャック一人だけでは難しいですか?」


「……」


 その視線に気持ち悪さを覚えたものの、ジャックは先程の宣言通り質問に答えることなく、腕を抱えて目を瞑り、すべてをシャットアウトする姿勢を示す。


「質問二。それはある程度HPが削れていないと使えない作戦ですか?」


「…………」


 だが、それを見てもレイの口は止まらない。一つの漏れすらも許さないとでも言わんばかりの鋭い視線でジャックを見つめながら淡々と質問を繰り返していく。


「質問三。秘策というのは、特殊な装備、またはアイテムのことを指していますか?」


「………………なぁ、これいつまで――」


「質問四。秘策というのは、他のプレイヤーがいると困難なものですか?」


 先に折れる形となったのは、質問をされる側であるジャック。この流れに居心地の悪さを感じたのか、薄目を開けて質問を返そうとする。


 だがその抵抗も虚しく、逃さないとでも言わんばかりにレイが質問を被せれば、少し動揺したように押し黙った。


「……………………」


「あ、鼻が動いた。これは『いいえ』か。じゃあ質問五。それは、一撃で大ダメージを与えるスキルですか?」


「もうやめだやめ!これ以上は何も聞きません!」


 ポツリと呟いたレイの一言に、ジャックは立ち上がって大声をあげる。どうやらすべてを見透かされていたようで、これ以上はまずいと判断すると、ご丁寧に耳まで塞いで質問自体を耳に入れないような構えを取る。


「ちっ、もうちょっとで判別できそうだったのに……」


「そうイジメてやるなよ。親戚なんだろ?」


 ウミガメのスープのような問答を終えたレイは、悔しそうに舌打ちする。そこへ呆れたように苦笑いをしたミナトが声をかけた。


「久しぶり、ミナトさん。まさかジャックと一緒にいるなんてね」


「意外とウマが合ってな。【ゴールドラッシュ】で戦った以来、結構つるんでるんだわ。お前の方こそ、また新しい女をひっかけたのか?」


「やめてよ、人聞きの悪い」


 ジャックとの関係性を説明しつつも、レイの背後を見て軽口をたたくミナト。それが聞こえていたのか、遠くでシフォンが満更でもなさそうにしているのを見ながら、レイは苦々しい顔をしてそれを否定する。


「ここにいるってことは、ミナトさんも必勝法とやらにも参加するの?」


「ん?あぁ、一応な。ただどっちかって言うと補助的な役割だが」


「えっと、どういうこと?」


「文字通りだよ。あいつが倒すためのサポート要員ってことだ」


 先程のジャックへの質問からは聞き取れなかった内容についてレイがダメ元で伺えば、ミナトは特に気にする様子もなくすらすらと返答する。


 もしかしたら全部教えてくれるかも……なんて淡い期待を抱きながらさらに問いかけようとすれば、その口が開く前にレイとミナトの間へとジャックが割り込んだ。


「おいミナト!そいつは悪魔だ!取り込まれるぞ!お前は俺の味方をしてくれるよな!な!?」


「あーもうウゼェ!わーったよ!分かったから離れろ!」


 正面から必死の形相で肩を揺らしてくるジャックを、ミナトは至極鬱陶しそうに引き剥がしながらレイへと視線を向ける。


「わりぃ、質問はここまでにしてくれ。これ以上は本当に拗ねちまいそうだからな」


「いえ、むしろご迷惑をおかけして……」


 身内であるジャックの騒々しい姿に、レイは申し訳なく頭を下げた後、ふと思いついたことを提案する。


「そうだ、ミナトさんこっちにつきません?必ず今よりもいい条件を出しますよ」


「んなっ!?」


 その言葉に動揺したのは、地面へとへたり込んでいたジャック。『ミナト……嘘だよな……?』とでも言うような縋る瞳を前に、ミナトは頬をかきながら言葉を返す。


「あー、魅力的な提案だが、アイツと馬鹿やるのも結構楽しいんだわ。ごめんな」


「……いや、良かったです。安心しました」


「ミナト……!」


 提案を断ったミナトに、レイはどこか嬉しそうに笑みを浮かべる。そしてまた始まったミナトとジャックの熱い抱擁を微笑ましく見つめていると、再び地面から起き上がったジャックがレイに告げる。


「なぁ、もういいだろ?そろそろ俺達は行くぞ?」


「うん、特には――あ、時間は?」


「十日後の昼過ぎだ。遅刻しても別にいいぞ!いや、むしろ遅刻しろよ!」


「お前、雑魚キャラみたい……いや、何でもねぇ」


「そんなジャックくんも好きだけどね」


 最後に捨て台詞を吐きつつ、ミナトとミオンを連れて去っていくジャック。


 そんな仲の良い後ろ姿に、レイは慈愛と羨望の混ざった笑みを浮かべた後、自身の友人達の元へと踵を返して向かっていった。



[TOPIC]

ANOTHER【ジャックとミオンとミナト】

セブンと【WorkerS】、それからレイがぶつかった【ゴールドラッシュ】での大戦後、別のエリアで偶然再会したジャック、ミオンペアとミナト。その際に再び剣を交え、乱入してきたモンスターを共闘で倒したことで意気投合することとなった。

ミオンのバフを貰ったジャックが先陣を切り、それをフォローする形でミナトが動くという戦闘スタイルをとっており、会話面でも鈍感朴念仁のジャックへと激重感情をぶつけるミオンという、何とも噛み合わない二人のやり取りをミナトが楽しそうに観察している姿が配信での名物となりつつある。

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