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8-19 添えられたお灸と罰


 【深淵から覗く番犬】を撃破したことで、一気に弛緩した空気。騒がしくはあるものの、和やかな雰囲気が場を支配する中、今回の立役者であるイッカクが提案する。


「君達はこれからどうするんだい?よければ他のも協力しようか?」


「グルゥ!?」


「おい、イッカク」


 それに一番に反応したのは、彼の相棒であるアポロ。『正気か!?』とでも言うように目を見開けば、近くにいたギークも窘めるようにその名を呼ぶ。


 その提案を受けたレイも同じ気持ちだったようで、困ったように頬をかいた後、申し訳なさそうに返答した。


「とってもありがたいんですけど、お断りさせていただきます。折角なら自分の力でやりたいので」


「そっか、それもそうだね。ごめん、余計なことを言って」


「いえ!お世話になりました!」


 レイが断りの言葉を告げれば、イッカクもそれ以上執着せず、潔く身を引いて見せる。そのことにますますレイの中の好感度が上がる中、話を切り替えるようにギークが咳払いした。


「よし、ここでの用は終わったから取り敢えず上に行くぞ」


「あ、うん。でもどうやって?」


「帰り道がある。着いてこい」


 そう言って歩き出したギークの背中を、イッカク、レイ、ウサ、シフォンの順番でついていく。入って来た時と同じ道を通って滝の外へと戻れば、今度は弧を描いた陸地から外れた小道を進んだ。


「行き止まりだけど……?」


「見ていれば分かる」


 やがてギークが足を止めたのは、何もない絶壁。敢えて特徴を言うとすれば、地面に亀裂が入っているくらいで、何の変哲もない場所に思わずレイが声をかければ、ギークは何かを待つようにじっとその場に佇む。


「……ん?これって」


・まさか上昇気流か?

・これに乗るの?

・面白そう!


 そうして数秒後、自身の髪が浮き上がったことで、ギークが何を待っていたのかを理解する。そして、上に戻る方法も何となく理解したのだが、にわかには信じられずにギークへと半眼を向けた。


「これ安全なの?」


「余計なことをしなければな」


 それだけ言うと、ギークは切れ目の上へと足を進める。その瞬間、勢いよく突風が舞い上がり、ギークと化身の体を容易く浮かび上がらせた。


「じゃあ先に行くよ。また何かあったらいつでも呼んでね」


 すぐさま見えなくなったギークの姿。それに続くようにレイに一言声をかけたイッカクが、アポロに跨って風に乗る。


「よし、じゃあ私達も――」


 そうして二人の姿を見送った後、レイも同じように足を踏み出そうとして――。


・え?レイちゃん?

・それどころじゃないかも

・じゃしんとニャルいないけど


「は?」


 ふとコメント欄に映った文字列に、間抜けな声を出して立ち止まる。慌てて後ろを振り返れば、確かに件の二人の姿が見当たらなかった。


「はぁ……二人とも先に行ってて」


「了解」


「分かりました。上で待ってますね」


 恐らく喧嘩に夢中で移動したことに気が付いていないのだろう。疲れたように頭を抱えたレイが残っている二人に声をかければ、その心情を察したのか、先に気流に乗って上層へと向かう。


・えー、これはやってます

・何かあったらやばくね?

・どうする?迎えに行く?


「いや、待つよ。流石にこれは一言言っておかないといけないし」


ここまでの道中にモンスターが出てこなかったのを安全と捉えたのか、レイは腕を組んだ壁に体を預ける。その少し怒気を孕んだ声に、視聴者から反対の声は上がらなかった。


 そして待つこと数分。レイ達が通った道からバタバタと騒がしい足音が聞こえてくる。


「お前のせいで遅れちゃったにゃ!」


「ぎゃうっ!」


「にゃんだとっ!?あっ、ご主人!お待たしましたにゃ!」


 未だに口論を続ける二人の話を黙って聞くレイ。その姿勢にじゃしんとニャルは少したじろいだものの、すぐさまキッと目を吊り上げて矛先を戻す。


「ほら、お前のせいで怒ってるにゃ!早く謝るにゃ!」


「ぎゃう~!?ぎゃうぎゃーう!」


「はぁ?びびってなんかにゃいにゃ。むしろそっちこそ顔が強張ってるにゃよ?」


・おいおい

・これは……

・まずいぞ……


 小学生のように口論を交わす二人は、徐々にヒートアップしていく。それと同時に視野が狭くなり、流れる視聴者の声にも、当然小刻みに震え始めたレイの姿にも気が付かない。


「ぎゃうっぎゃうぎゃーう」


「付き合いの長さ(にゃがさ)にゃんか関係にゃいにゃ。むしろご主人は、お前のようにゃポンコツにほとほと愛想をつかしてると思うにゃよ」


「ぎゃうっ!?ぎゃーうー!」


「にゃんにゃ!?やるのかにゃ!」


「――喧嘩するなっ!」


「みゃっ!?」


「ぎゃうっ!?」



 そしてついにレイの我慢の限界を迎える。


 取っ組み合いを始めようとした二人に向けて、過去一番の怒声をぶつければ、二人は抱き合った状態で跳びあがる。


「この世にウマが合わない人ってのは絶対にいるから、仕方なーく見逃してたけど、ここまで酷いなら考えを改めなきゃいけないみたいだね」


 抑揚の感じさせない淡々とした声で粛々と告げるレイに、ようやく自身の立場の危うさを悟った二人が慌ててレイの足元に縋る。


「ち、違うんですにゃ!このぽんこつが!」


「ぎゃ、ぎゃうぎゃう!」


「大丈夫、分かってるから」


・れ、レイちゃん?

・これまさかマジギレ?

・こっわ……


 だがその懇願を微笑みで流したレイは、寧ろ優しく二人の頭を撫でる。


「元気が有り余ってるから、それを発散するために喧嘩するんだよね?でも安心していいよ。もう喧嘩も出来ないほどにこき使ってあげるから(・・・・・・・・・・)


「そ、そんにゃ……」


「ぎゃう……」


・あちゃ~

・終わったな……

・南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏……


 聖母のような声で告げられた死刑宣告。それに対する絶望顔を見て満足そうに頷いたレイは、固まった二人を小脇に抱えて上層へと向かう。


 切れ目の上に乗った瞬間に発生した上昇気流によって、レイの体が宙に浮かぶ。普段であれば声が出ただろうが、今はそんな気分ではないのか特に感情を示すことなく崖の上へと戻ってきた。


「おまたせ」


「いえ大丈夫です。そちらは……ダメそうですね」


「何があった?」


 崖上ではウサとシフォンが雑談をしながら待っており、微笑みを浮かべるレイとこの世の終わりのような顔をする二人の様子を見て、不思議そうに首を傾げる。


「ちょっとお話ししただけだよ。それよりも次は――」


 それに対して当たり障りのない言葉で返したレイは、遠くにとある人物を見つけて目を見開く。そして、地面に着地した瞬間、脇に抱えていたじゃしんとニャルを地面に落とすと、その人物に向かって全速力で走り出した。


・レイちゃん!?

・突然どうした!?

・一体どこへ……あ

・あの後ろ姿は……


「ん?一体なんの――」


 その人物は、彼女のリスナーであれば必修ともいうべき重要人物。短く揃えられた黒の短髪に顔にはキツネの面、そしてなによりも、全裸にふんどし一丁の男。その名を――。


「くたばれぇぇぇぇぇぇ!!!!!」


「ぐはぁぁぁ!?」


 ――名をジャック。レイの従兄弟であり、絶賛身内の恥を晒している彼の背中へと、これはこれは見事なドロップキックが突き刺さった。


[TOPIC]

MONSTER【深淵から覗く番犬】

冥府より出でし地獄の象徴は、彷徨い人を死者に変え、飼い主への手土産とする。


悪魔種/獄狼系統。固有スキル【冥府の灯火】

《召喚条件》

【召喚の石板】を用いて召喚。

〇【ヘルオルトロスの魂】

〇【ヘルオルトロスの魂】

〇【ヘルオルトロスの魂】

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― 新着の感想 ―
[一言] そしてジャックが怯んだところで上空に飛んでからの究〇!ゲシュ〇ンシストキック!をお見舞いだ!(無慈悲
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